第三話:嵐の転入生
担任のセドリック・ラングレー先生に連れられ、レオンハルトとルーカスは教室に入った。
「今日からヴァルデンライヒ王国よりお迎えした、レオンハルト殿下とルーカス様です。皆さん、仲良く……というか、粗相のないように」
教室内が水を打ったように静まり返った。
教壇に立つレオンハルトの、彫刻のように整った美貌。放たれる圧倒的な覇気。
「……レオンハルト・フォン・ヴィッテルスバッハです。よろしくお願いします」
女子生徒たちが息を呑み、男子生徒たちが本能的に敗北を悟る中――静寂を切り裂くように、甲高い声が響いた。
「あーーーっ! さっきの、男子生徒さんっ!!」
わざとらしく立ち上がり、指を突きつけるアリス。
その瞳は「さあ、運命の再会を演出して!」とでも言いたげに輝いている。
「…………」
レオンハルトは、そこに誰もいないかのように、微動だにしない。
その沈黙を、ルーカスが無慈悲にぶち抜いた。
「ルーカス・フォン・ベルクです。よろしくお願いします」
「…………えっ」
アリスを完全にスルーし、空気を読まずに挨拶を被せる従者。
特進クラスに、なんとも言えない微妙な空気が流れる。
クラスメイトたちの引いた視線が突き刺さる中、アリスは首を傾げる。
(おかしいわね。普通なら『あ、さっきのドジな子!』って運命の再会になるはずなのに……)
「お二人の席はあちらです。分からないことは、生徒会長のカイル君に聞いてくださいね」
セドリック先生が促すと、一人の男子生徒が勢いよく立ち上がった。
ブロンドベージュの髪に、不遜な焦げ茶の瞳。
そして何より、制服のあちこちに最新の魔道具をこれでもかと装備し、動くたびに耳障りな音をジャラジャラと鳴らしている。
「俺はっ!(ジャラッ)カイル・ヴァン・アイーゼ!(ジャラジャラッ)」
「…………」
レオンハルトとルーカスの目が、同時に「うるさい奴」を見る冷ややかなものに変わった。
「む、なんだその目は!(ジャラッ)ここは実力主義のアイーゼだ! 大国の王太子だからとて、俺様が怯えると思うなよ!(ジャラジャラジャラッ!)」
(うるさい……。金属音が反響して、会話の内容が半分も入ってこない……)
レオンハルトのこめかみに、ピキリと青筋が浮かぶ。
「いいか、よそ者の王太子!(ジャラッ)俺様と勝負――」
「わかった」
「え?」
カイルが言い終わるより早く、レオンハルトが右手の指先を軽やに振った。
パリーンッ! パリンッ! ガシャァァァンッ!!
一瞬。
カイルの全身に装着されていた高価な魔道具たちが、ガラス細工のように一斉に弾け飛んだ。
「…………」
静まり返る教室。床に散らばる、かつて魔道具だったガラクタの山。
「お、俺の……俺様の、特注魔道具コレクションがあぁぁぁーーーっ!!」
全財産とプライドを同時にぶち壊されたカイルは、情けない悲鳴を上げながら教室を飛び出していった。
(いや……どうすんの、この空気……)
あまりの惨状に、ルーカスは心の中でそっとツッコミを入れ、胃をキリリと鳴らした。
その横では、担任のセドリック先生が顔を土気色にして立ち尽くしている。
「……ふぅ。やっと騒音が止まったね、ルーカス」
レオンハルトは、憑き物が落ちたような爽やかな笑顔で、何事もなかったかのように席に着く。
「そうですね殿下。これなら授業に集中できそうです」
ルーカスもレオンハルトに同調する、身代わりの早さは従者として大切なスキルである。
「では先生、始めてください」
なんとも言えない空気の中、レオンハルトたちのアイーゼ学院生活は幕を開けた。
さて、次にこの「鉄壁の王太子」に挑む、命知らずな刺客(令嬢)は誰だ――?




