第二話:野心の学園
アイーゼ自由都市連合。そこは小王国が集まり、伝統よりも「金と魔道技術」がモノをいう実力主義の連邦国家である。
その象徴ともいえるのが、各都市の令嬢公子が集まる全寮制の学び舎――アイーゼ魔法総合学院だ。
麗らかな陽光の下、生徒たちが正門をくぐる中、ひときわ目立つオーラを放つ人物がいた。
ヴァルデンライヒ王国王太子、レオンハルトである。
金髪をなびかせ、一歩進むごとに女子生徒が倒れていく。
――もちろん物理的な意味ではない。
石造りの荘厳な校門をくぐりながら、側近のルーカスが手元の資料に目を落とす。
「殿下、我々が在籍するのは特進クラスです。この国の最新魔道理論、少しは学ぶ価値があると良いのですが」
「……そうだね。期待はしていないけれど、せめて魔塔の研究室よりはマシな環境だといいね」
レオンハルトは、遠い目をして苦笑を漏らした。
その時だった。
タッタッタッタッ!!
背後から、猛烈な足音が迫る。
(……この速度、この殺気。……暗殺か?)
レオンハルトは一切振り返ることなく、まるで風に舞う木の葉のように、ス……と半歩だけ横に身をかわした。
「きゃああっ!?」
刹那、レオンハルトがいた場所を「何か」が猛スピードで通り過ぎ、そのまま地面へとダイブした。
亜麻色の髪を振り乱し、グレーの瞳を潤ませてうつ伏せになったのは、ぱっと見は可憐な少女。
「……いったぁ~い……」
涙目でこちらを見上げる少女。普通なら「大丈夫かい?」と手を取る名シーンのはずだが。
「…………」
レオンハルトは無言。一瞬も足を止めず、石ころでも避けるようにスタスタと通り過ぎた。
「(ルーカス、処理を)」
「(かしこまりました)」
無言のアイコンタクトを受け、ルーカスは事務的に近くの生徒へ声をかける。
「すみません、あちらの彼女を見てあげてください。我々は急いでおりますので、失礼します」
「えっ!? ちょっ、助けてくれないの……!?」
置き去りにされた少女の呆然とした呟きを背に、主従は足早に去っていく。
「……見え見えだね。あんなに不自然な動きで突っ込んでくるなんて。しかし、妙な魔力を感じたな」
「はい、違和感を感じました」
「新人影に調べさせて」
「承知しました。……ああっ、入学初日から胃が!」
*
『第一の刺客、アリス。』
彼女は男爵家の庶子という逆境を、持ち前の図太さと努力、そして「あざとさ」で跳ね除け、特待生として入学した野心家だ。
その最大の武器は、生まれ持った「魅了魔術」。
彼女はその力で数々の男子生徒を篭絡し、文字通り手玉に取ってきた。
「最高の優良物件と結婚してやる!」「人生の勝ち組!」を豪語していた彼女だったが――。
ずっきゅーーーん♡
彼女の心臓に恋の矢が突き刺さった!
一目惚れだった。
「……え、何? あの金髪巻き毛」
視線の先にいたのは、これまで見たどの「優良物件」よりも神々しい美貌の青年。
「決めた。あの子を私の彼氏にする!」
下町の路地裏で鍛え上げた脚力に魔力を込め、アリスは「ドジっ子モード」を起動。
(いや~ん、ぶつかっちゃう……なんてね!)
……はずだった。
べちゃっ。
「あれっ?」
地面に顔面から突っ込んだアリスが目を開けた時、王子様は背中しか見えなかった。
「あの……大丈夫ですか?」
恐る恐る声をかけてきた男子生徒を、「ヒィッ!」と悲鳴をあげさせるほどの形相で睨みつけ、アリスは立ち上がる。
「……負けない。あの人を、絶対に私の鎖(愛)で繋いでみせる!」
その瞬間、遠く離れた廊下でレオンハルトの背筋に悪寒が走った。
「……やっぱり、来るんじゃなかったかな」
王太子の生存本能は、今日も絶好調だった。




