表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

第十五話:学園生活の終止符

アイーゼ魔法総合学院、学園長室。


そこには、学園創立以来……いや、アイーゼ自由都市連合の歴史上、最も「異常」で「シュール」な光景が広がっていた。


学園長のゼノと、特進クラス担任のセドリックは、部屋の隅で文字通り白目を剥きかけていた。


なぜなら、商人と研究者が実権を握るこの国のトップに君臨する、「錚々(そうそう)たる権力者たち」が、今まさに床に額を擦り付けていたからだ。


「「「「本当に、申し訳ございませんでしたぁぁぁ!!」」」」


声を揃えた凄まじい謝罪が、豪華な学園長室を震わせる。


土下座の列に並んでいるのは、カイルの父である最高評議会議長、ガウルの父の防衛総監、ユリウスの父である財務官、そしてイザベラの父である魔道具ギルド長だ。


その後ろには、それぞれの息子たちも情けなく平伏している。


(ちなみに、アリスの父である男爵は、娘が仕掛けた「魅了」の罪に連座して現在拘束中。クラリスの後見人である大司教は、ヴァルデンライヒ王国に直接詫びに赴くという連絡が入っていた。なお、イザベラは停学中のため、この場にはいない。)


対面に座るのは、ヴァルデンライヒ王国の王太子レオンハルトと、その隣で殺気を放つ王弟ジャック、そして彼の婚約者エレナ。


レオンハルトの傍らに立つ側近ルーカスは、感情を排した無機質な瞳で土下座の列を見下ろしている。


自由都市連合のトップ達による“本気の土下座”に、エレナは思わず引いていた。


(凄い……捨て身の土下座だ。異世界にも土下座あったんだ……)


「だって、英雄の婚約者だなんて思わなかったんだ……」


カイルが涙目で言い訳する。


「馬鹿者っ!相手を選べといつも言っているだろう!魔道具に金をつぎ込むばかりで何も成長していないとは……!」


議長である父の拳がカイルの頭に落ちる。


「そうだぞ、カイル。魔道具よりも筋肉なら裏切らないぞ!」


頭の悪い発言は、もちろんガウルだ。


「大馬鹿者っ!お前こそケンカする相手を間違えてんだろうが!」


防衛総監の怒声と共にガウルが窓際まで吹っ飛んだ。


「よりにもよって、ヴァルデンライヒ王国の王太子と、優秀と名高い従者にケンカを売るとは……」


財務官は今にも気絶しそうな顔をしていた。


ユリウスはすでに、ジャック達の威圧にあてられ気絶している。


そう――


レオンハルトとジャックの威圧により、学園長室は異様な空気に支配されていた。


特にジャックは、カイルを射殺しそうな目で睨みつけている。


エレナに近づく男には、小物であろうと容赦しない。嫉妬深い王弟である。


カイルは終始、チワワのように震えていた。


「……はぁ。とりあえず、頭を上げてください」


重苦しい沈黙を破り、レオンハルトがうんざりしたような溜息をついた。


「今までの無礼や非礼については、追って正式な公文書をお送りします。そちらに提示した賠償金の額、および条件をよく確認しておいてください。合意いただければ、あとは本国の実務担当者とやり取りをしていただく形になります」


そして――


ずっと震えていた魔道具ギルド長へ、視線を向ける。


ビクッ、とギルド長の肩が跳ねた。


脂汗をだらだらと流すギルド長。


「……そういえば、ギルド長。あなたはイザベラさんに、僕の妃になるよう強くけしかけたそうですね?」


「い、いえっ。それはその……この国の未来を、ひいては両国の友好を想うあまりの、親心と言いますか……」


「ほう。その『親心』が、王太子の寝室への不法侵入、および夜這い事件に繋がったと」


当時の不快感を思い出したのか、レオンハルトの瞳に昏い光が宿る。


え、お前の娘何やってんの!? と周囲の父親たちが一斉にドン引きする中、傍らのルーカスが容赦なく追撃をかけた。


「なお、イザベラ嬢には現在、王太子殿下に対する『暗殺未遂』の容疑も追加で検討しております」


「そ、そんな!? 暗殺だなんて……娘はただ、殿下の愛が欲しくて……!」


真っ青になるギルド長。


その様子を見て、レオンハルトはニヤリと嗤った。


「魔道具の取引で解決できるかもしれません」


――暗に、魔塔への優遇取引を持ちかける。


転んでもただでは起きない、腹黒魔塔責任者である。


ジャックが少し呆れたような視線をレオンハルトに向けるが、レオンハルトはどこ吹く風だ。


そしてエレナは、ずっと心の中で突っ込んでいた。


(主役俺様ヒーロー、熱血筋肉ヒーロー、インテリ眼鏡ヒーロー……っぽいけど、なんか違う……)


(ヒロイン魅了で逮捕?隣国王太子に夜這いで逮捕?悪役令嬢も夜這いで逮捕?清純聖女候補はヤンデレ地雷で国に送還??)


(レオンハルト様、フラグぶっ壊してない?乙女ゲーム破綻するとこうなるのか……こわっ)


プルっと震えたエレナに、それまで殺気を放っていたジャックが、まるで別人のような蕩けるような甘い顔で寄り添った。


「寒いのか、エレナ? 環境が変わりすぎて体調を崩したか? ……あとは本国と任せる。行こう、ここは空気が悪い」


溺愛する婚約者を抱え、ジャックはさっさと部屋を出ていった。


それを苦笑いで見送り、レオンハルトは最後に学園長ゼノを冷ややかに見据えた。


「学園長。ここではもう学ぶべき価値ものは無さそうです。僕たちも、本国へお暇させていただきます」


「はい、先ほどレオポルド陛下に許可を頂きました」


ルーカスが一歩進み出て、静かに補足する。


エリカが駆け回り、どうにか許可をもぎ取ってきたのだ。


「では、お世話になりました」


レオンハルトの言葉に、ゼノとセドリックは「やっと厄災が去ってくれる!」とばかりに、若干食い気味に返事をした。


その正直すぎる反応に、少しだけイラッとしつつも、レオンハルトはルーカスを伴い、誇り高き……いや、おバカな学園を後にした。


数日後。


ヴァルデンライヒ王城にて、事の顛末を聞いた国王レオポルドは、一人頭を抱えていた。


「……なんか、俺が思ってた学園生活と違う。もっとこう、甘酸っぱい展開とかあるだろ普通……」


窓の外を見つめながら、彼は静かに呟いた。


「あ……また抜け毛が増えた気がする……」


彼の悩みは、どうやらまだまだ尽きそうにない。


――完――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ