第十四話:女神の降臨と最速の死亡フラグ
地雷原と化したアイーゼ魔法総合学院に、ようやく平穏が訪れていた。
「魅了」を撒き散らしていたアリスと、高慢の塊だったイザベラは停学。
そして心中未遂?を起こしたクラリスは、本国へと強制送還された。
特進クラスの教室で、レオンハルトは側近のルーカスと共に、久々に穏やかな時間を過ごしていた。
――その時。
「レオンハルト様!」
鈴を転がすような、柔らかな声が教室に響く。
そこには、学院の制服を完璧に着こなしたエレナが立っていた。
光を透かす白金髪に、神秘的なオッドアイ。その美貌が教室に現れた瞬間、生徒たちは一律に言葉を失い、顔を真っ赤にして固まった。
「エレナ嬢!? こんな場所まで、一体どうされたのですか?」
「制服、とてもよくお似合いですよ」
驚きつつも、即座にこれ以上ないほど優しい「身内限定の笑顔」を浮かべるレオンハルトとルーカス。
その光景を見たクラスメイトたちは、驚愕の一色に染まる。
(あの無慈悲な氷の鉄面皮たちが、あんな聖母を拝むような顔をするなんて……!)
「はい、魔法学園に興味があるとお話ししたら、ジャック様が連れてきてくださったんです。学園長が制服を貸してくださって……私、制服を着るのが初めてなので、なんだか嬉しくて」
はにかむエレナの破壊力は、凄まじかった。
だが、その平穏を、一人の「成金公子」が文字通りぶち壊した。
「ああぁっ! 俺の未来のお嫁さんッ!!」
教室に飛び込んできたカイルが、一直線にエレナへと駆け寄る。
「はい……?」
と目を丸くするエレナをよそに、カイルは鼻息荒くレオンハルトに詰め寄った。
「そうか! レオンハルト殿下の友人か!? まさか、恋人なのかッ!?」
「……いや、違いますが」
レオンハルトがあっさりと即答した瞬間、カイルの脳内に勝機が閃いた。
相手が王太子でなければ、俺の財力と権力でいける!
「どうか、俺の婚約者になってくれないか! 君の美しさに心を奪われた。俺は代表議長の息子、カイル・ヴァン・アイーゼ!」
「無理です(即答)」
「なっ、何故だぁッ!?」
人生で初めての「秒速拒絶」に驚愕するカイル。
「私、婚約者がおりますので」
きっぱりと言い切るエレナに対し、カイルの暴走は止まらない。
「ならば俺はその婚約者に決闘を申し込む! 君に相応しいのは俺の方だ!!」
必死に捲し立てるカイルの剣幕に、エレナは思わず引いている。
そのやり取りを冷めた目で見守るレオンハルトとルーカスは、もはや呆れて言葉も出ない。
なぜなら、カイルが今喧嘩を売った相手は――。
「……ほう。俺に、決闘を挑むだと?」
教室の入り口から、地を這うような、背筋を凍らせるほど冷徹な声が響いた。
全員が振り返った先にいたのは、冷酷な雰囲気を纏った、銀髪碧眼の美丈夫。
彫刻のように冷たく完成されたその美貌は、見る者の吐息さえ奪う。
彼が放つ圧倒的な覇気に、誰もが言葉を失い、教室は一瞬で静寂の檻と化した。
「あ、叔父上……」
レオンハルトがそう呼んだ瞬間、教室内を本物の「戦慄」が駆け抜けた。
ヴァルデンライヒ王国において、王太子が「叔父」と呼ぶ人物は、ただ一人。
大陸最強の剣豪にして、王国最強の騎士団長。その戦闘力から「雷光の英雄」と恐れられる男、ジャック・フォン・ヴィッテルスバッハ。
「え? ……え?」
カイルは混乱しつつも、ジャックから放たれる殺気にあてられ、膝がガクガクと震え出す。
「俺とまともにやり合えるのは魔道皇国の皇帝くらいかと思っていたが……よほど腕に自信があるようだな?」
一歩、また一歩と近付くジャックに、カイルは「ヒィッ!」と悲鳴を上げて後ずさり、無意識に最新型の静音魔道具を展開した。
「くだらん」
ジャックがマナを纏わせた一言を放った瞬間。
カイルが全財産を注ぎ込んで買い直したはずの特注魔道具が、ガラス細工のようにあっけなく砕け散った。
パリン、パリン、ガシャァァーン!
「お、俺の最新型がぁぁぁーーーーっ!!」
絶叫しながら、泣きべそをかいて走り去るカイル。
それを見送る生徒たちの脳裏には、強烈な既視感が浮かんでいた。
(あ……あの光景、前にも見たな……)
「……本当、アホしかいないな、この学園は」
「学ぶ価値、皆無ですね」
頭を抱えるレオンハルトに、無表情で頷くルーカス。
その傍らで、エレナだけが不思議そうに首を傾げていた。
(あれ? ここって、きらきらした乙女ゲームの世界だったはずじゃ……?)




