第十三話:成金公子の再起と福音の美少女
アイーゼ自由都市連合、アイーゼ魔法総合学院の中庭。
生徒会長、カイル・ヴァン・アイーゼは、ベンチでひとり、魂が抜けたように黄昏れていた。
カイルは打ちひしがれていた。
守ってあげたくなるような可憐な少女だと信じていたアリス。
彼女に抱いていた熱い想いは、レオンハルトが放った無慈悲な広域解除魔術によって、文字通り塵となって消え失せた。
「真実の恋」だと思っていた熱狂は、単なる「状態異常」に過ぎなかったのだ。
魔法が解けた後に残ったのは、恋心ではなく、焼野原のような虚無感だけだった。
さらに、ヴァルデンライヒ王国の王太子レオンハルトという存在が、カイルのプライドを徹底的にぶち壊した。
最高評議会議長の息子として、金と最新技術こそが世界を回すと信じて疑わなかったカイル。
大陸最強の一角を担う大国の継承者とはいえ、レオンハルトのことを「古い血筋にあぐらをかいた古臭い王族」だと内心で見下していたのだ。
だが、現実はあまりに無慈悲だった。
初対面の際、自慢の特注魔道具コレクションをジャラジャラと鳴らしながら威嚇した自分に対し、レオンハルトは「うるさい」というたったそれだけの理由で、指先一つでそれらをガラクタに変えてみせた。
さらに全校集会で見せつけた、最新の魔道理論すら超越したあの高密度な魔術。
どんなに金を積み、最新の魔道具を着飾っても、決して届かない――「本物の王族」が持つ底知れぬ実力差。
ライバルを自称することすらおこがましい圧倒的な現実を突きつけられたのである。
「……ははっ。折角、音が鳴りにくいタイプの魔道具を買い直したのにな……」
カイルは、新調したばかりの腕輪型の魔道具を力なく見つめる。
前回、ジャラジャラと金属音を反響させていたせいでレオンハルトに一瞬で破壊されたため、今回は静音性に優れた特注品を選んだのだ。
だが、それすらも今のカイルには、自分の惨めさを強調するだけの重石にしか見えない。
「……こんなものっ!」
込み上げる情けなさに耐えきれず、カイルは手首から魔道具をむしり取ると、力任せに放り投げた。
銀色の輝きが放物線を描き、キラキラと秋の陽光を反射しながら飛んでいく。
その高価な金属塊が、中庭を歩いていた一人の女生徒の足元に、ポトッ……と静かに落ちた。
「あれ……?」
鈴を転がすような、柔らかく澄んだ声。
「こちら、落とされました……?」
女生徒が魔道具を拾い上げ、ゆっくりとカイルの方へ歩み寄ってくる。
その瞬間。
ずっきゅーーーん♡
カイルの脳内に、かつてないほどの激しい衝撃が走った!
一目惚れだった。
そこにいたのは、整いすぎた美貌を持つ、神秘的な少女だった。
光を透かす淡い白金髪。そして何よりカイルを射抜いたのは、蒼と薄紫の、この世のものとは思えないほど美しいアシンメトリーの瞳。
彼女が歩くたびに、周囲の空気が清浄に書き換えられていくような、圧倒的な「格」の違い。
美少女は、呆然と口を開けて固まっているカイルに対し、慈愛に満ちた聖母のような微笑みを浮かべた。
「はい、どうぞ。大切なお品物なのでしょう?」
彼女から差し出された魔道具を受け取ろうとして、カイルの手が震える。
「あ、……あ、……はい」
顔を耳まで真っ赤に染め、カイルはまともに言葉を発することすらできない。
「失礼いたしますね」
少女は上品にペコリと挨拶をすると、流れるような足取りでその場を去っていった。
中身が「世話焼きママ」である彼女にとって、それはただの親切心に過ぎなかったのだが、カイルにとっては女神からの福音に等しかった。
数分後。ようやく酸素を吸い込んだカイルは、中庭の中心で拳を突き上げ、喉が張り裂けんばかりに絶叫した。
「見つけた……っ! 俺の真実の嫁を、ついに見つけたぞぉぉぉーーーーっ!!」
この後に起こる絶望をカイルはまだ知らない。




