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第十二話:公開告白のゆくえ

「お待ちください、レオンハルト様!」


聖女候補のクラリスが、レオンハルトの前にまっすぐ立ちはだかった。


(……いつまで続くんだ、これ)


レオンハルトは、いよいよ心が折れそうになっていた。その顔はゲッソリとこけ、血の気が引いて死人のような色をしている。


大陸随一の秀才と謳われるヴァルデンライヒ王国の王太子をここまで追い詰めるとは……。その衰弱ぶりに、傍らのルーカスは戦慄した。


クラリスは胸の前で手を組み、潤んだ瞳でレオンハルトを見つめる。


「わ、私……初めてレオンハルト様をお見かけした時から、ずっとお慕いしておりました!」


まさかの公開告白に、全校生徒たちがどよめいた。


「初恋なんです。どうか、私の想いを受け止めてくださいませ……」


可憐な美少女の頬を一筋の涙が伝う。


その健気な姿に、周囲の生徒たちはジーンとしていた。


だが、レオンハルトは一人、完全にシラケきっていた。


「僕は君に興味がない。……これで答えになったかな?」


一分の隙もない、鋼の塩対応。


「え……」


あまりの即答に、クラリスだけでなく周囲の生徒たちまでもが呆然と声を漏らした。


「で、でしたら……まずはお友達からお願いしたいです!」


必死に食い下がるクラリス。その一生懸命な姿に、いつしか周囲からは応援の声が上がり始めた。


「頑張れ、クラリスさん!」「負けるな!」


パラパラと拍手が起こり、ついには地鳴りのような「頑張れコール」へと発展していく。


「がーんばれ! がーんばれ!」


クラリスは周囲を見回し、


「ありがとうございます、皆さん!」


と感極まった様子で微笑んだ。


だが、レオンハルトはその微温湯(ぬるま湯)のような空気を、冷酷な一言で一蹴した。


「……正気かい?」


放たれた凄まじい威圧感に、講堂の空気が一瞬で凍りつく。


「王太子たる僕に対し、交際を前提とした友人になれ、と? 無礼にも程がある。――ルーカス、ゲベット神聖国へ抗議文を送っておけ。もちろん、公式な外交文書としてね」


「承知いたしました」


間髪入れず、ルーカスが事務的な従者モードで応じる。


無慈悲なレオンハルトの宣告に、生徒たちは言葉を失った。


「……っ」


期待に満ちていたクラリスが、ふるふると震え出す。


「大丈夫ですか、クラリスさん!?」


心配する声が飛ぶ中、次の瞬間、彼女はガバッと顔を上げた。


その瞳は、先程までの潤みとは別の、異様な光を宿していた。


「……私、レオンハルト様に好きになって貰える様に頑張ります!」


ぎゅっと拳を握りしめ、にこりと可愛らしくポーズを取る。


あまりにも前向きすぎる、いや、噛み合わない宣言。


周囲の空気が急速に冷めていく。


(……いや、さすがに無理じゃね?)


誰もが口には出さないまま、同じ感想を抱き始めた。しかし、クラリスの瞳はさらに爛々と輝きを増していく。


「これは神の試練なのです。私は聖女候補のクラリス! どんな困難にも負けません。私の全てをレオンハルト様に捧げます。そしてレオンハルト様は私とともにあります。神がお決めになられた事です。レオンハルト様が死ぬときはわたくしも一緒に逝きます。一緒に死ぬ運命……なんて尊いのでしょう。ねぇ、レオンハルト様。私が死んだ時も、一緒に死んでくださいますわよね……」


ニヤァ、とハイライトの無い瞳でレオンハルトをねっとりと見つめるクラリス。


「……え、こわっ」


王太子の口から、思わず本音が漏れた。


レオンハルトはぞわりと背筋を震わせ、じり、と後ずさる。つられるように、応援していた生徒たちも一斉に距離を取った。


完全に空気が反転したその場で、ルーカスが、すっと一歩前に出る。


「はい、王族殺害予告ですね。警備員、彼女を拘束してください」


まるで仕事の依頼のように、淡々と告げた。


直後、控えていた警備員たちが動き、クラリスの両腕をがっしりと掴む。


「な、何をされるんですか!? 私は聖女候補ですよ! レオンハルト様ーーーー!」


叫び声が講堂に響く中、彼女はそのまま引きずられるように連行されていく。


残されたのは――完全に生気を失なった王太子と、その側近だった。


「……ルーカス」


「はい」


「ゲベット神聖国に、王族殺害未遂の件で賠償請求も追加しておいてくれ。即刻だ」


「承知しました……」


ルーカスは胃のあたりを激しく押さえながら、静かに、だが深く頷いた。


こうして、レオンハルトを巡る騒ぎは――

ひとまず、収まったかのように見えた。


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