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ヤリナオシ  作者: ジャク
3/8

chapter 2

 教室の周りには人の気配すらなかったのに、突然教室の扉は開き、教師の皮を被った人形はやってきた。見た目で判別するなら人間の男性だが、人ではない無機質なもの、それがオーラから伝わってくる。驚きで静まり返った教室。数秒前の賑わいが嘘みたいに消えて固まる俺たち。その前で淡々と教壇に立ち、そして瞬きもせず、淡々とこう言うのだ。


「あなたたちの世界は、あなたたちのせいで消滅しました。」


この世界の神の使いだかなんだか知らないが、いきなりそう言われては心外だ。それと同時に、俺は睨みつけるようにその人形の話を聞いた。

「これにより、あなたたち27人にはそのバグの修正をしていただきます。」

 その言葉が終わった瞬間には全員の机の上には黒いアタッシュケースが置いてあった。昨日人がいつのまにか消えていたのと同じく、あたかも今まで存在していたかのようにそこに居座っている。

(なッ、いつの間に⁈)

信じられないことが起こるには唐突すぎて声も出ない。

「そちらを開いてください。中にはハンドガン、ナイフの柄、ブレスレットが入っています。」

恐る恐る開いた中身はこれまた全てが黒い配色だった。

「これをどうしろってんだよ?」

 強気な態度に出たのは日堂(ヒドウ) (セイ)だった。


1年B組には高飛 星以外にもう1人、セイという名前のやつがいた。それが日堂。あいつとは、高飛のような単純な関係とは言い難かった。

 入学当初、1番最初に仲良くなったのがあいつだった。校歌をクラスで練習した時、俺があいつの口パクを指摘したことがきっかけだ。なにも注意とかそういうわけではなく、ただ笑って話しかけた。それをきっかけに次の日、昼飯を一緒に食おうと誘われて、それからよく一緒に帰ったり、寄り道したり、色んなことをした。


 ああなる前までは。


それからだった。みんながバラバラになってしまったのは。

あれは俺が悪かったのか、それともあいつらが悪かったのか。今でもよくわからない。ただ、一つよくわかっているのは、俺は地に堕ち、あいつは天に昇った。

今ではあいつとの交友は全くなく、あちらは違う友人を見つけ、不良混じり。


 でも、2年の頃、ほんの数回、あいつと話した。学校に遅刻した時。もう一つは帰りの電車の中で。確か、その時まだあいつは俺の連絡先をブロックしていなかった。今はどうか知らんが。



嬉しかったんだ。まだ覚えていてくれたことが。


また、そしてまだ、あいつらと話せるんだろうか。



 あいつに質問されたからか、元々話す手順にあったのか、心のない教師は話を進めた。

「みなさんにはこちらを使って、消えた世界を元に戻すため、バグを修正していただきたいのです。昨日、田中宗さんはこのクラス以外の人間に話しかけようとしたとき、気がついたらその人間が姿を消していましたよね?」

(ッ!?)

俺しか知らないはずの情報を、コイツは全て知っているみたいに言い当てる。

「なぜ、それを…。」

消えかかった俺の質問には答えてはくれなかった。そして不気味に感じる俺を無視して話は進んでいく。奇想天外な方向へ。


「あの現象は『キャンセル』といいます。あなたたちはこの世界の人間ではないため、この世界の人間と関わろうとすると、そのコネクションはキャンセルされてしまいます。それがあの現象です。もともとはこの世界の人間を、あなたたちが観測することは不可能なのですが、あなたたちの世界が消滅したせいでこちらの世界もバグの影響を受けています。そのバグを浄化することにより、消滅した世界の一部を取り戻し、そこから世界を修復させることができます。」


突然話のスケールを膨張させた挙句、無理難題を押し付けられるとは。とんだ事態になってしまった。

 周りにはガヤが飛び交っていた。それもそうだろう。2つの世界を救うためにろくに戦ったこともないこの先行き不安な面子で、3つの道具を持って戦いに駆り出されるんだ。俺もそんなのはごめんだし、血も涙も無理だ。


「ご安心を。戦闘を行うことであなたたちが傷ついたり、死ぬことはありません。ただ、痛みは感じますし、ダメージに耐えきれなくなると、1度消滅します。誰か一人でもそうなった場合、あなたたち全員でバグ修正を最初からやり直しとなります。」


「なぁ、これゲーム?」

後ろの谷田がこれまた能天気に聞いてくる。

「お前は空気を読め。確かに俺も思ったけど。」

肩かけられた手を下ろしてやりながら、前のめりの谷田を落ち着けた。

「それでは、みなさんがバグと戦うための道具を紹介します。まずは…。」

「ちょっと待ってください。なんで俺たちのせいなんですか?この世界は何なんですか?」

 実野(サネノ) 湯伯(ユハク)が質問した。俺の右隣の席だ。

実野とは学年が上がってクラスは違えど、よく話をしていた。ゲームやアニメが好きな割に、バスケがよくできるやつだ。俺もそりが合って付き合いやすい。ついこの間も一緒に遊びに行ったな。寡黙そうに見えて、仲良くなると案外よく喋る。

「…」

黙り込む抜け殻。

「バタフライエフェクトです。正確にいえばそれもバグのせいなのですが。」

今の質問には答えるのか。気まぐれなんだか計画的なんだか。

「とんだとばっちりじゃねーか。」

ため息を吐き捨てて俺が言うと、

「ねね、バタフライエフェクトって何だっけ?」

と、実野が聞いてきた。高飛、谷田も俺に寄って聞き耳を立てていた。

「ほら、1年の頃、生物基礎でちょっと先生が言ってたじゃん。蝶が飛んだら、その影響で世界が滅びるみたいな、何も関係ないことが何も関係のない別のことを引き起こすっていうような考え方のこと。」

 また1年の頃のことか。まぁ、生物基礎は楽しかったし、成績もそこまで落ちなかったからいいんだけど。

「おぉー。」

周りの3人が感心している。さらにその周りの微々たる反応、他のやつもこっそり聞いていたらしい。

「いずれにせよ田中宗さんはなかなかのキーマンでしょうね。」

「俺がですか?」

少々荒く言葉を吐き出した。

 キーマン?俺が何をしたというんだ。バタフライエフェクトだってバグのせいだとか言っていたくせに。最終的に俺に世界を滅亡させた罪でも擦りつけるつもりなのか?

「えぇ、今はまだわからないでしょうけど、いずれ思い出します。すべてを。」

やめろやめろ、俺にそんなプレッシャーをかけるな。周りの目が怖く見えるだろうに。

視線が集まるのが嫌でもわかる。だからずっと教師を睨んでいた。

 ただでさえ、このクラスメート達とは微妙な関係が続いているんだ。悪化する火種を投下しないでくれ。俺はただ平和にいたいだけだ。

「では今度こそ、道具の説明に移らせていただきます。まずはナイフの柄を取り出してください。そちらはトリガーナイフ。文字通りバグとの戦いの引き金になることでしょう。」

 開いたアタッシュケースから黒光りする柄を取り出した。ひんやりとした質感に重みがある。

「ロックをはずしてみてください。柄の下についているボタンを押せるようになるはずです。」

言われた通り、柄の広い面にあるロックボタンをスライドさせる。次に柄頭についたボタンを押す。すると突然、ナイフの鍔の溝からビーム状の刃が出てきた。

もう一度ボタンを押すと刃は消えるようだ。


 あの無機質な教師が説明したナイフの役割は主に三つ。

一つは一時的、一部的にこの世界の分子を体内に流し込み、俺たちをバグと戦えるようにこの世界に適応させること。一時的、一部的なのでこの世界の人間とは今まで通り関われない。

二つ目はバグと対等に戦えるよう身体を強化すること。通常の人間より軽い身のこなしと強靭な肉体を持つことができる。見た目に変化はない。三

つ目は、出現するバグを他のメンバーにも見えるよう可視化すること。見えるようにするだけで、使用者以外は戦えない。逆に言えば、使用しなければダメージは受けないし、バグにも発見されない。


なるほど、誰かを見殺しにすることもできる訳か。ま実際死ぬわけじゃないが。


「このトリガーナイフは一回の戦闘で連続で使用すればするほど身体が強化されます。ですが、一回でも使用すれば多少体に負担が訪れます。使用すればするほど身体は強化されますが、その分リバウンドも大きくなりますので、お気をつけて。この負担に耐えきれなくなった場合にもみなさんは消滅してやり直しになってしまいますのでそれもご容赦ください。」

このナイフは、いわばドーピングも兼ねているようだ。


「使用方法は?」

日堂がぶっきらぼうに問う。

「刺していただきます。」

は?今なんつった?と、俺が思ったことを日堂はそのまま口にした。

「ですから、刺していただきます。体の部位はどこでも構いません。」

これは…、何といえばよいのやら。使用した絵面を想像すれば、自傷行為や自殺行為が嫌でも連想された。更にやる気の失せる。

「痛みは感じませんのでご安心を。ですが一瞬、刺した部位周辺が痺れたような感覚が起こるかもしれません。」

それを想像して尚、なのか、日堂がナイフを適当に振り回してみせる。周りの奴らがそれに慄いた。きっと日堂に怖いものなんてないんだろうな。

「ちなみにそちらは戦闘用ではありませんので、バグには無効です。」

チッ、と吐き捨てながら日堂はナイフを乱暴に置いたのだった。


「武器は最後に紹介します。次にみなさんから見て右手にあるブレスレット。『ホールダー』といいます。」

 腕時計に似たホールダーと呼ばれるブレスレットを各々取り出す。コンパクトで腕につけても邪魔にはならなそうな設計だ。


「そちらを身につけて、みなさんにはバグ処理にあたっていただきます。ホールダーにはキャンセルが起きたときに、ホールダーを身につけている方全員以外の時間の進み具合をゆっくりにする効果があります。つまり、キャンセルが起きたということはホールダー装着者に意識的に共有されるわけです。トリガーナイフは、キャンセルがおきた瞬間に使用しないと意味がないのです。そこでこのホールダーが必要になります。」


覚えることが多くなってきた。こんなんで本当に戦えるのだろうか。

 アイツが言ったことを頭の中で一つ一つ置いて整理していく。多分、今この話がまずこの世界で生き残る術になるだろうから。

 ホールダーはキャンセルが起きると自動的に発動する。発動してからのタイムリミットは30秒。その間にトリガーナイフを使用するかどうか決断しなければならない。すなわち、バグと戦うかどうかの決断だ。

一度トリガーナイフを使用してしまったら、周辺のバグの気配が消え、戦闘が終了するまで効果が止むことはないので、くれぐれも慎重に。

 そしてもう一つのホールダーの効果。それは誰かがトリガーナイフを発動した、戦闘を開始したということも、キャンセルの発生に加えてこのホールダーを介して全員に共有されるというのだ。これで俺たちも半ば一心同体というわけだ。


 トリガーナイフとホールダー、残るは中央にしまわれたハンドガンにスティックのようなものがついている、武器、だった。

握りしめたそれは三つの中で一番重厚で、教室の暑さをやわらげるには向かない冷たさをもち、プレッシャーをひしひしと感じさせるものだった。


「では、皆さんお待ちかねの武器です。そちらは『リヴィジョン』。そのリヴィジョンでバグと戦っていただきます。見ての通り銃ですので、撃つことが可能です。弾数は無限に精製されますのでマガジンを変える必要はございません。そしてもう一つ。そのハンドガンについているスティック。そちらを慎重に抜いてみてください。」


言われた通りクラス全員、ハンドガンのハンマーあたりからまっすぐ取り付けられたスティックを引き抜く。間もなくスティックからビームが放たれ、光の剣となった。これが今までの紹介で一番驚いたことかもしれない。

まるでどこかの有名SF映画みたいだ。

「近接戦闘にはこちらをお使いください。ハンドガン、そしてそのソード共に、バグにダメージを与えて消滅させることができます。ですが、」

「いってっ!」

 言いかけたその時、誰かの痛んだ声が聞こえた。また日堂だった。

「そう、その二つはあなたたちの自身にもダメージを与えることができる。」


 ただバグを修正すれば良いだけなら、こんな機能は必要ないはずだろう。何故こんな機能が付与されているのだ。この進行役は俺たちの殺し合いでも見たいのだろうか。

 トリガーナイフといい、ホールダーといい、便利な道具だが全てに枷のような余計な効果がある。

刺した分だけ身体を強化するトリガーナイフは刺せば刺すほどリバウンドが大きくなってしまう。それなら負担を分散させるために群れなきゃ戦えない。全員がホールダーをつけるなら、全員が戦闘状況を把握してしまう。気にしたくなくても、頭に割り込んでくるわけで。

リヴィジョンに至ってはバグだけでなく他人を傷つける仕様だ。

 こんな足枷みたいな真似、まるで強制的に仲良く協力しろとでも言われているみたいだ。


次から次へと気が重くなった。


「もちろんこちらで同士討ちをして消滅してもやり直しとなりますのでよろしくお願い致します。」

 そうだろうな。蓄積したダメージに耐えられず消滅する、それがたとえ仲間の刃であったとしても同じだ。リヴィジョンは血の出ない凶器と一緒なんだ。バグという敵に特効性のある必殺の武器じゃない。

「説明は以上です。リヴィジョン、トリガーナイフ用のホルスターは机の中に入っていますのでお役立てください。では、ご武運を。」


 淡々と捲し立て、長く感じた説明とは裏腹に颯爽と教師は去っていった。

何人かが後を追おうと立ち出したので、それにつられてクラスの大半が教室の外に出ていった。


ま、俺は行かなかったんだけど。

「あれ、宗行かないの?」、と立ち上がりかけた高飛が聞いてきた。

「うん」

俺は答える。だって…


「いない…!!」

谷田のわざとらしい声。

 やっぱりな。二つの意味でやっぱりな。あの教師もどきは消えてるだろうと思ったし、谷田もそういう言い方をすると思った。どうしてこう谷田は微妙な状況の時にふざけてしまうんだろうか。

コイツってやつはまた…あ〜いいや、考えんのよそう。



・・・



「はーい!はーい!皆ちゅーもーく!!」


 それから教室で俺たちは話し合いをするような成り行きとなった。

周りが騒ぐ中、一旦場を静まらせたのは間野だった。


 間野 奈々(マノ ナナ)、このアンポンタンは……見てるだけでむかっ腹が立つ。いつもヘラヘラしやがって…。


「とりあえず、みんなで話し合ってみようと思います!司会進行は優香ちゃんで〜す」

間野と入れ替わって角屋が前に出た。

「まず、バグと戦うかどうか、多数決をとってみたくて。バグと戦った方がいいと思う人は手をあげてみて。」


 チラ、ホラ。

ザッと8人くらいが手を上げた。残る全員はみんな反対…な訳ないよな。反対に手を上げたのは5人程度。

「あれ、上げてない人はー?」


 どっちつかず。

わからない、興味ない、めんどくさい。この3つに部類されるだろう。俺もこの多数決に関してはどっちつかずで手を上げなかった。

面倒だとかそういう理由じゃなくて、ただ単に決断ができない。今何を信じればいいのか、わからない。それがどっちつかず勢の大半の理由だろう。まぁ、にしたってうちの高校は優柔不断な雰囲気が強いのだが。

「まぁ、そうだよね、まだわからないか。じゃあ、バグと戦うかについてとりあえず話そう。何か意見がある人?」



 それから話し合いをぼんやり流し聞きしていたが、一向に決まりそうにない。無理もないか。この状況で、しかもみんな今はバラバラなんだし。間野とかは知ってる面子巻き込んで色んな人に聞き込みをしてるけど、何もリーダーシップって訳じゃないしな。


 間野。別にあいつが嫌いなわけじゃない。ただ、あいつと話すと、あいつを見ると、自分が小馬鹿にされているような気分になる。

疎遠になった今、関わり方が更にわからなかった。


 窓際、角、人の後ろ。無性に沸いてくるイラつきを抱えながら段々と俺は目立たないような場所に陣を構えた。つもりだった、が…


なんだ?桐田が、こっちを見て、笑ってる。

からかいか、哀れみか。心の隅で警戒していた。でも今回はそうじゃなかったみたいだ。

「なんだよ桐田?」

「いや、宗いるなぁって思って。」

「いちゃ悪いか?」

「うん。」

「は?」

「嘘だよ、泣くなって。」

「泣いてねーから。」

お互い笑いのある会話、少しはこの場にいるのが楽になった。

桐田の隣にいる日堂が何を思っているか怖くはあるが。


こういう時の桐田は良いんだよな。


 桐田(キリタ) 新介(シンスケ)

なんであの時、あんなことを俺に言ったんだ。

それが疑問だった。一緒に話してる時は楽しいんだけどな。


いつも桐田と会った時は、表面上は平和な会話だった


「え、シューウ泣いてるのぉー?」

 このねっとりした声は、品原(シナバラ) (タク)か。

「だか泣いてねーって。」


品原は桐田と中学からの友人で、1年の頃はよく2人でくっついてふざけあってたイメージがある。最近はクラスが違うからべったり一緒ではないみたいだが、今でも仲は良いだろう。俺とも仲が悪いわけではないが時々でしか言葉を交わさない。

「泣いて良いんだよー?」

「いや泣かねーよ」


 この2人に日堂、あと矢田(ヤダ) 朋輝(トモキ)がいて。


日堂含めた三人がふざけてゲラゲラ笑っている。


あそこにほんとは俺もいたんだけどな…。


周りの皆、笑ってるあいつら。

これだけ見ると1年の始めと何も変わっていない、ただの、あの日の日常みたいだった。



 でも、少なくとも、・・・俺はもういないんだ・・・。


「宗っ!」


 焦点の合ってない瞳が無理矢理合わさったのは、間野が視界に入ってきたからだった。


「…んだよ…」

乱暴に、ボソっと呟く。


うまく会話ができない。


「怖っ!何〜もう〜」

「こっちの台詞だよ、なんだよ?」


まただ。


「なんでそんなイラついてんの?」

「イラついてねーよ。」


違う、こうじゃない。


「まいいや。宗はどう思う?」

「は?何が?」


前みたいに話したい。


「何がって、聞いてた?話し合い」

「あー、まぁ、ちょいちょい」


じゃあなんでなんだ。


「ちょいちょいって、頑張れよ〜」

「何を?」


いつから俺は


「話し合いを聞くこと」

「あーはいはい」



こいつに心を許せなくなった?



「テキトーだなぁ、もう」

「うるせー」

「バグと戦うかどうかってこと」

「あぁそれか」

「それだよ」

 少し考えて、俺は口を開く。

「戦いたくはないけど、戦わなくちゃいけないらしいし、でもそのバグがどんなものかも知らないし。まだわからないってのが俺の思ってることかな。」

「じゃあ、日堂たちとか連れて敵の偵察に行ってみれば?」

「できない」

「え、なんで?」

「あいつらが一緒に行ってはくれないだろ?」

「そんなことないよー。それに私たち仲間でし…」


あいつがそう言いかけて手を肩に置こうとした時、


「仲間じゃない!」


俺はその手を、勢いよく払いのけてしまった。



 一瞬、俺もあいつも黙り込んでしまった。


「ッ…ごめん…」

「いや…ごめん」


わからない。


俺にはわからない。


俺が悪かったのか、あいつらが悪かったのか。


どうやって関われば良いのか。


どうやって分かり合えばいいのか。


わからない。


俺にはわからない。


「俺は、仲間だと思・・・」


だめだ。


その先の言葉が出てこない。


なんで


なんで


あんなにも簡単だと思っていた言葉が


今はもう


出てこない。



「第一、あいつらが仲間だとは思ってくれてないだろうし…お前だってそうだろ?」


 ため息をつく。

一歩目を踏み出しながら俺は言う。すれ違い様、

「ごめん、用事思い出した。」


ずるい一言だよな、これ。


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