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最終話 冒険者は羊のように眠れるのか?

ギルドが管理している宿泊施設は満員だったのでウィル達は少し歩いて「酔いどれドワーフ亭」で宿をとってから遅めのランチを摂ることにした。


「おばちゃん、鶏スープ定食4人前ね。それとエール4杯」


「あいよ。お勘定は一緒かい?全部で銅貨20枚だよ。それで仕事ははかどったかい? 」


「……ああ。何とかなった」


おばちゃんはカウンターに置かれた銅貨を受け取るとエールを大きな錫のジョッキに入れて持ってきた。


「さあみんな、まずは乾杯しよう」


 ウィルが言うと4人は立ち上がってジョッキを合わせるとエールをあおった。乾杯を済ませて座り直したところにおばちゃんが厨房から山盛りの茹でジャガイモと熱々の鶏肉スープを持ってきた。


「さあ、熱いうちに食べよう。お、キャベツがいっぱい入っているぞ。冬キャベツは甘くて旨いよな」


「あなた、本当にキャベツ好きよね」


マチルダが呆れたように言った。


「うん、体に良いし旨いし言う事なしだよ」


案の定、ウィルに皮肉は効かなかったようである。


「あー、ウィル。それで報酬の話だが」


トラップが伺う様に言ってきた。


「それならこの飲食代それに各人の武具の修理代に各種消耗品の費用を差し引いてから4等分で良いか? 」


「わかっていれば良いよ。しかし狼退治がこんな事になるとは思わなかったぜ」


報酬の取り分が決まってトラップはすっかり安心したようだった。


「そう言えばウィル様」


「なんだ?シルフィール」


「なぜ砦の2階建ての建物は調べようとしなかったのですか? 」


3人の視線を受けてウィルは難しい顔した。


「あれか。勘だな。もうちょっと詳しく言えば兵舎の暖炉だ」


「俺が見たやつか。蜘蛛の巣が無かった、あれか」


トラップが天井を見ながら呟いた。


「山賊がどうのこうのという話でしたね、ウィル様」


「狼よりも強くも無く弱くも無い山賊……未だに謎が解けないわ」


マチルダにとってはクロスワードを解くようなものだろう。


「大昔に放棄されたはずの兵舎の暖炉が最近まで使われていたらしいので、俺は砦の中には山賊がいるものとして考えたんだ。山賊がいるとしたらどこにいるかと」


ウィルはジョッキのエールを見ながら言った。


「それでどう考えたわけ? 」


マチルダは興味深そうに訊いた。


「ほとんどの砦には脱出用の抜け道がある。抜け道があるとしたら指揮官がいる建物だろうと」


ジョッキのエールの泡が弾けていた。


「ウィル様、平屋よりも2階建て、ということですか? 」


シルフィールは瞬きしながら言った。


「うん。指揮所は兵舎よりも頑丈に作られているし守り易いというのもある。守りが堅くて外への逃げ道もある事が多い。狼から逃げるならそこだろうと。でも物資が豊富な倉庫も捨てがたい。で、トラップが倉庫に狼の妃がいると言ったからそれで決まり。狼がいるところに山賊はいないからな。あの時はもうみんな消耗しきっていたから山賊との戦闘は避けたかった。だから2階建ての方は知らぬふりして立ち去ったわけだ」


ウィルの話を聞いて3人は唸った。


「あなた、すこぶる単純に考えるのね。……私とは真逆だわ」


「難しいのは苦手なんだ。そういうのはマチルダに任せるよ」


「まあ良いわ。あなた合格よ。複雑な事は私がやるわ。それが合理的よ。……これからも一緒に仕事しましょ」


「ありがとう、マチルダ」


「俺は報酬が公平なら良いよ」


トラップはクールに決めたつもりだったが照れ隠しなのは誰の目からも明らかだった。


「私は……みなさんが人の道を踏み外さないように手綱を取ります!まずはお財布を管理します。いいですね? 」


シルフィールは高らかに宣言した。


 どうやら俺はリーダー試験に合格したらしい。

ウィルはほっとした。


「そっか、じゃあみんなこれからもよろしく。おばちゃんエール4つ追加で!」


 これから面倒な事が起きるかもしれない。だが今日の所はそんな事は忘れて良いはずだ。安酒の力を借りてすっかり打ち解けた4人は四方山話に花を咲かせた。盛り上がっている4人に呼び寄せられたのか、あのハーフマンの吟遊詩人が店に入ってきた。


「あ、お兄さんたち帰ってきたの?早速僕に冒険談を聞かせてよ。まずは景気づけに一曲歌っちゃおう!」


冒険者は因果な商売

 西に妖魔を潰し東に食人鬼を倒し

 僅かな銀貨と引き換えに命のやりとり

勇者だ英雄だとおだてられて

 その実やっていることは汚れ仕事

 そのうち南の竜を倒して

 お姫様を射止めたらと夢見ても

 今日も仕事は山賊退治

 せめて今夜は高い酒飲んで

 夢の中で王侯貴族



 喧噪の中で吟遊詩人の歌声を聞きながらほろ酔い加減のウィルは今回の依頼を振り返った。狼王との死闘、真っ赤に燃える丘、白耳達との総力戦、朱に染まった妃、そして子狼の円らな瞳……



 白の子狼を殺めた時、俺も仲間もルビコン川を渡りきってしまった。


 もう平凡な一市民のように、羊のように眠ることは叶わない。


 ささやかだが、幸せなぬくもりは、両手から零れ落ちてしまった。 


 これがマチルダが泣いていた本当の理由……なのかもしれない。


 ……冒険者は因果な商売、か。歌詞がザクザク心に刺さる。 歌のように今日の狼駆除がそのうち山賊退治になって、今飲んでいる安酒が高級酒に代わるのだろう。


 ……ドラゴンスレイヤーまで上り詰めたら見える景色は変わるのだろうか?




ウィルは手元の錫のジョッキをしばらく眺めてから何かを振り払うように一気に飲み干した。




〘ウィル雷撃隊1ー冒険者は羊のように眠れるのか?〙おわり


ようやくフィナーレを迎えられました。

今まで長編どころか短編さえ書いた事が無く、初作品に初投稿と初物尽くしでした。

拙い文章ですが、最後まで読んでいただきありがとうございました。


我儘を承知で恐縮ですが、いいね・高評価・感想などよろしくお願いします。

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