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第23話 馬耳東風

【登場人物】


ウィル   :主人公。重装歩兵部隊出身。得物はヘビーメイス

トラップ  :ウィルの相棒。猟兵部隊出身。

シルフィール:至高神に仕える女僧侶。15歳。

マチルダ  :若き女魔道士。モダンマジックの使い手。


ナイリス  :ウッドエルフのハンター

ウィルは迎賓館のダイニングルームに座って台所から調達したキャベツスープに持参してきたライ麦の四角い黒パンを浸して食べ始めた。ウィルの隣に少年が座って拳大の小麦の丸パンを齧っている。そんな様子を見てマチルダが疲れた口調で文句を言った。


「……あんたねぇ、余計な事を言わないのよ……私達の立場、わかってるの? 」


マチルダに詰られてもウィルは何も言わずに無心に食べ続けた。


「本当にもう、ご飯の事ばかり考えて。あなた祖先がハーフマンかなんかなんでしょ」

そういうとマチルダはウィルから少し離れた席に座って机に突っ伏した。


マチルダに代わってシルフィールが小言を続けた。

「ウィル様、良いですか?いくら相手が剣呑なことを言ってきても口車に乗ってはいけませんよ。子供じゃないのですから」


小さな子供に言いつけるようにシルフィールは叱ったがウィルは構わずマトンの干し肉を口いっぱい頬張りきつい塩味に顔をしかめた。


「ウィル様!人の話を聞いているんですか? 」


シルフィールはパシッと机を叩くとウィルはスープでマトンを飲み込んでから言った。


「俺は虎の威を借りる狐が嫌いだ。あいつは、ナイリスとか言うハーフエルフは」


ウィルはスープを平らげると話し続けた。


「あのハーフエルフは村長の雇人に過ぎない。いくら強くても俺たちと似たようなもんだ。そんな奴がマウントを取ってくるのは許さん」


「まったくもうっ!人の話を聞きなさい!」


遂にシルフィールは怒りだしたがウィルは続けた。


「あいつがマチルダとシルフィールを殺すと脅してきた時に奴との実力差を真剣に考えた」


3人は驚いてウィルの顔を見た。


「質の悪い冗談じゃ無かったのか? 」


トラップが呟いたがウィルはそれには構わずに続けた。


「あいつは俺らを躊躇いも無く殺せることがわかったからな。俺たちだけじゃなく村長以外のすべてをだ」


ウィルは木のコップで水を一口飲んだ。


「奴はかなり強い。軍団でも敵う者は数えるほどしかいない。もし奴が仕掛けてきたら俺が何とか組みつく。俺が刺し殺されている間にマチルダとシルフィールが攻撃呪文をぶつけて手負いにする。特に足を潰して動けなくする。その間にトラップがブラビルのギルドに報告するのが最善手だ。そうなれば奴は裏社会に行くしかなくなる。村長のお情けで辛うじて居場所があるに過ぎないからな。ハーフエルフなら尚更だ」


冗談を通り越したウィルの話に3人はしばらく凍りついた。最初に沈黙を破ったのはトラップだった。


「お前、そんな事考えていたのかよ……そりゃあ奴はいけ好かないが、どうしてそう思ったのだ? 」


「応援出動で城内のろくでなしを捕まえたことがあった。とんでもないクズで女子供も平気でバラバラにする殺人鬼だった。通報があって衛兵が踏み込んだら逆に何人も殺されて。それでたまたま定期巡回に来ていた俺の分隊が呼び出されてさ」


まさかの経験談に4人は聞き耳を立てた。


「10人がかりで盾と棍棒でボコボコにしてやっと捕縛できた。鉈や手斧で激しく抵抗してきたからこっちも怪我したよ。捕まえてからどんな凶悪面しているのかと見たら信じられない事にこれが何と優男。虫も殺せないようなイケメンさ。だがそれより問題なのは瞳だった」


「瞳、ですか? 」


シルフィールが確認するように言った。


「ああ、瞳だ。瞳が冷たいんだ。直前まで俺らと殺し合いしていたのに熱さが無いんだ。蛇や蛙の目だ」


「放心していたんじゃないの? 」


興味を引いたらしくマチルダが乗り出してきた。


「瞳孔は普通だったからそれはない。それに格闘した直後なのに至って普通に受け答えできていた。放心していたらそれこそありえない。で、そいつの家の一室を開けたら死体だらけだった。奴をふん縛って引きずってその様子を見せて質したんだ。“お前がやったんだろ”ってさ。そしたら奴は“子供の死体がどうしたのか?軟らかいからバラスのは簡単だったよ”と平然と言った。何を言ってるんだコイツと思って俺は奴の目を見たが奴の瞳は冷たいままだった。何も変わらなかった」


ウィルが一息いれるとマチルダがやれやれといった風で言った。


「まったく……その殺人鬼の瞳とあの狩人の瞳が同じだと言うわけ?考えすぎでしょ。その殺人鬼のような狂人は確かにいるけどそういうのは誰か一人の為に長期間仕える事はしないと思うわ。情動障害を起こしているから他人と長い付き合いが出来ないのよ。それに彼はハーフエルフだから情動が人間と違って当然よ。エルフは植物的な性格の持ち主がデフォルトだから人間と一緒にしたらダメよ」



トラップが疑問を口にした。


「だとしたらやっぱり危険なんじゃないか?情動が読めないんだからよ」



マチルダは小さく笑い右手を軽く横に振りながら答えた。


「大丈夫よ。余程の事が無い限りいきなり物騒な事なんて考えない種族だから」



それまで考え込んでいたシルフィールが顔を上げて言った。


「そう考えるとナイリスさんは最初からかなりご立腹だったという事でしょうか?エルフが生来静かな性格だとしたら、事情はともあれ敵でもない初対面の人間にあんな事言わないでしょうに。優美に微笑んで受け流すのではないかと」



腕を組んだトラップは少年に聞かれても大丈夫なように慎重に言葉を選んで言った。


「う~ん、やっぱり火事が不味かったのかな?」


「ウッドエルフとか狩人とか言っていたからそうかもね。エルフじゃなくてハーフエルフだけど……あっ!そういえばウィル、どうしてあなたナイリスがハーフエルフだとわかったの?あなたエルフなんて見たことも無いのにハーフエルフかどうかなんてわからないでしょ? 」


マチルダはこの男が知識をどうやって引き出したのか興味津々に訊いた。


「そんな事か……人間の村の近くにエルフの里なんてないだろ?エルフの里なんてこう……もっと伝説的なものじゃないか。もしエルフが暇つぶしに人間と混じりたいなら農村は有り得無いだろ……普通は都じゃないのか?それにプライドの高いと言われるエルフが人間の村長に仕えるなんて想像もできないよ。かなり場数は踏んでいるのに防具も貧弱そうで冒険者にも見えないし……だからカマをかけてみた」


ウィルは念願の冬キャベツの甘さを味わいながらのんびり答えた。


「なるほどねぇ……」


ウィルの言うエルフの特徴は誇張された素人伝聞にすぎない。だが単純化しすぎたステレオタイプの鑑別要素でも組み合わせればフィルタリングに使えるわけか。マチルダはウィルを見直した。


するとそれまで黙って食事をしていた少年がウィルに言った。


「おじさん、あの狩人さんはそんなに悪い人じゃないよ。たまに村に降りてくるけどいつも何だか寂しそうだった。昔色々あったみたい。爺ちゃんがそんな事言っていた」


「そうか」


「でも、おじさんのお話、面白いね。僕気に入ったよ」


「ありがと」


「おじさん達、都から来たのでしょ?都に行ったら面白い話がいっぱい聞けるのかな? 」


「ああ、いっぱい聞けるさ。吟遊詩人がいっぱいいるからいっぱい聞ける」


「そっかぁ、いっぱい聞けるのかぁ」


少年は瞳を輝かせながらダイニングルームの天井を見上げていた。


少年の小さな頭の中では魔法使いや騎士やドラゴンが遊んでいるのだろう。

ウィルは少年の瞳を見ながら幼い時の自分を思い出した。


シルフィールはウィルと少年が食べ終わったことを確認すると頃合い良しとばかりに促した。


「ウィル様、腹ごしらえも終わったようですしそろそろ行きましょう」


「そうだな。待たせているもんな。行くとするか。じゃあな坊主」


「うん。帰ってきたらお話聞かせてね」


「いいとも。良い子で待っていろよ」


 マチルダが椅子を元に戻す音とトラップのブーツの音が響く中でシルフィールが立ち上がったウィルに重ねて注意した。


「ナイリスさんが何を言ってきても受け流してくださいね?小一時間も険悪なやりとりなんて困りますから」


「わかった、わかった、心配するなシルフィール。あいつが何を言っても返事しないから。お前が代わりに相手してくれ。任せたぞ」


「……全くもうっ!」


悪戯っぽく笑うウィルを見てシルフィールはほっぺたを真っ赤にして膨らませた。


「さあ早く行きましょ」


マチルダの声が聞こえた。ウィルが声の主に視線を向けると開いた扉の傍にマチルダが立っていて外にトラップとナイリスが見えた。ウィルは少年にもう一度一声かけてから本当に急いだ。


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