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第21話 報告と弁明と雷

応接室には村長が顔を赤くし目を吊り上げて待っていた。

誰が見ても怒っているようにしか見えない。

ウィルの顔を見るや否や村長は怒鳴りだした。


「お前だな!私の牧草地に火を着けたのは!ナイリスから報告を受けているんだぞ!」


村長の右1歩後ろに控えていた鹿の毛皮で作られたプーケとベストを着た男が会釈してきた。

彼がナイリスらしい。

細身の体に矢筒と長弓を背負い左腰にファルシオンを吊るし脇腹には刃渡り12センチ程度のナイフが黒革の鞘に入れられて横向き取り付けられていた。

形状と長さから多分ハンティングナイフに違いない。

身なりといい装備といい狩人だろう。

年は二十代後半と言ったところか。

それよりも目に留まったのは赤銅色の肌と薄い金褐色の瞳だった。


ウィルがナイリスを凝視していると村長が噴火していた。


「言い訳できるならしてみろ!この若造!」


ウィルは村長の血走った瞳を見ながら静かにしかし力強く答えた。


「貴殿に言われるままに森に行ったところ200頭の狼に襲撃されました。数頭倒しましたが衆寡敵せず丘の小屋に一時撤退しました。ところが今度は包囲され孤立無援となりました。そこで私達は考えたのです。もしも200頭の狼が村を襲撃したらどのような惨状になるか。村長様は想像できますか?腹を空かした200頭の狼が村を襲ったら?ここで放置すればそれは時間の問題でしょう」


ウィルの切り返しに村長は赤くなっていた顔を蒼くしてから怒鳴った。


「出鱈目言うな!200頭も狼がいるわけがない!」


ウィルは礼儀正しく無視して話を続けた。


「そこで私達はまず狼達をじっくりと観察したのです。すると牛よりも大きな狼が群れの主だということが解りました。私達はその狼を狼王と呼んでいます」


村長は唾を飛ばしながら大声で叫んだ。


「そんなバカな!狼王だと? 」


ウィルは村長を宥めるような口調で続けた。


「そして時は経ち夜の帳が下りて狼の刻がやってきました。狼を近づかせないためには灯りが必要です。我々は松明をかざして少しでも狼を遠のけようとしました。ところが狼王が襲ってきたのです。恐るべきことに狼王は獣なのに火を恐れないのです!狼王の鋭い爪が振り被り窓から出していた手を抉り取ろうとしました」


村長は青かった顔を赤くして怒鳴りつけた。


「いい加減にしろ!法螺にもほどがあるぞ!」


ウィルは村長には構わず続けた。


「手を抉られる前に引っ込めようとしたところ狼王の鋭い爪は松明をもぎ取り、松明は草原に吹き飛ばされました。そしてしばらくすると思い出すも恐ろしい火事が起きたのです」


村長は興奮しすぎて声が出なくなった。

後ろに控えていた狩人の男は心なしか笑いを堪えているようだった。

どうやら狩人の男はこの話を気に入ったらしい。

気を良くしたウィルは話を続けた。


「草原の火は燃え上がり小屋を囲んでいた狼達は逃げ出しました。そこで私達は小屋を後にしたのです。ところが執念深い狼王は私達に襲い掛かったのです!小川に差し掛かったところで狼王は10頭の近衛隊を率いて襲撃してきました。我々は死力を尽くし何とか狼王とその近衛隊を倒してこうして今ここに帰ることが出来ました。これも神のご加護と村長様の英知のおかげでしょう」


ウィルは話を〆た。

村長は机に両手を置き肩で息をしていて話をできる状態ではなかった。


村長の様子を見て孫である少年が興味津々に訊いてきた。

今なら祖父に怒られないタイミングと思ったのだろう。


「じゃあおじさんが持ってきた大きな毛皮って狼王なの? 」


ウィルは少年に軽くウィンクすると村長に向けて続けた。


「狼王の毛皮だけじゃなくてトロフィーも持ってきました。後ほどお改め下さい。それと10頭の近衛隊のトロフィーも持ってきましたのでよろしければオプションの報酬を頂けると嬉しいのですが」


ウィルはいけしゃあしゃあと言ってのけた。


すると村長は顔を上げてウィルを睨みながら言った。


「オプションだと?……良いだろ払ってやる。約束だからな。だがつがいはどうした?狼王の相方の雌だ。お前はまだ依頼を達成していない。どんな言い繕ってもお前が私の牧草地を焼き払ったのは確かだ。依頼を達成できなかったらお前はただの犯罪者だ。衛兵に突き出されたくなければつがいを殺せ。狼王の子供がいたら皆殺しにしろ。狼王の血筋を完全に断て。逃れると思うなよ。この男、ナイリスが私に代わって厳しく精査するからな。……森の中でウッドエルフのハンターに狙われて助かった者はいない事を覚えておけ」


村長はそういうと荒々しく応接室を出て行った。

応接室にはウィル達4人と少年、そしてナイリスという男が残っていた。

ナイリスは改めて優美に挨拶をするとウィルに仕事の話を切り出した。


「村長さんのおっしゃる通り、まずは狼王の検分を行いますね。それから狼のトロフィーを預からせてもらいます。オプションの報酬についてはここで確認次第その場で支払いますが持ち合わせの問題がありますのでこれからは事前に概数を教えてください。ここまでよろしいですか? 」


ウィルが頷くのを見てナイリスは続けた。


「では早速始めましょう。まずはこの部屋にトロフィーを持ってきてください。10頭ぐらいでしたら直ちにお支払できますよ。それと狼王がいたと言う証拠品も」


「了解しました」


ウィルとトラップは顔を見合わせると迎賓館に向かった。


シルフィールも一緒に行こうと思ったがマチルダは動こうとしない。

シルフィールがマチルダに声を掛けようとした矢先にマチルダはナイリスに話しかけた。


「ナイリスさんでしたっけ? 」


「ええ、そうですが何か? 」


「私はマチルダ・チェンバレンという者です。あなたが南の山の狩人さんですか? 」


マチルダは少年をチラりと見ながら言った。


ナイリスは事情を呑み込めたみたいでクスっと笑ってから答えた。


「ええそうです。南の山の狩人さんです。村長さんとは、否、村長さんの一族とは代々懇意にしている者です」


「100年ぐらいですか? 」


マチルダに言われてナイリスは少し驚いたがすぐに元の微笑に戻った。


「良くご存じですね。如何にも今年で100歳になります」


「そうですか。友人にエルフの魔術師がいたのでちょっと懐かしく思いお声を掛けました。御無礼があればお許し下さい」


「いえいえ」


「不躾を承知でお尋ねしますがファミリーネームはやはり森に縁があるのですか? 」


「ええ、フォーレストと言います。ナイリス・フォーレストです。こちらこそ自己紹介が遅れて失礼しました」


「いえいえ、お気になさらずに。用がありますのでそれではまた」


マチルダは話を切り上げてさっきから服を引っ張っているシルフィールに目配せすると迎賓館の宿泊室に戻った。途中で麻袋を担いだウィルとトラップとすれ違った。トラップが二人に少しは手伝えよと言ってきたがマチルダは鼻で笑ってスルーした。もちろんシルフィールは直ぐに手伝いますからと言ってフォローしたがトラップの舌打ちが聞こえた気がした。

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