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第20話 褒め殺し

 星明りの下で夜道を歩きウィル達4人はようやく村にたどり着いた。まだ日の出は先なので誰も外にはいなかった。毛皮やトロフィーを重い思いをして担ぎながら村の来賓館に入ったが予想通り誰もいなかった。ウィルはとりあえず自分の部屋に行って鎧兜を脱ぐとそのままベットに崩れ落ちて深い眠りに落ちた。



火計で気が動転した白い耳の狼はひたすら森の中を遁走していた。何時間も走って我に返った白耳はまず狼王の指示を仰ごうと単騎で北東の山に向かった。山頂にたどり着き見回したが狼王も近衛も誰もいなかった。焦った白耳は狼王がいつも鎮座していた岩の周りをグルグル回っていると4頭の狼がやって来て白耳に軽く吠えた。その呼びかけで白耳は落ち着きを取り戻しその狼達を率いて狼王の臭いを手がかりに探すことにした。すでに日は上がりすっかり明るくなっていた。丸一日以上寝ずに歩き通しだったが群れの危機の前にそんなことに構っていられなかった。焦げ臭い森の中を進んでいく内に白耳の胸中は不安でいっぱいになった。


(もうじきパトロール隊が普段水飲み場に使っている小川に差し掛かる)


白耳がそう思った瞬間に鼻腔に入ってきた臭いが不安を絶望に塗り替えた。暗澹たる気分を抱えながら小川を越えると狼王と近衛隊だったもの、全身の皮が剥され頭部を失った赤黒い塊の数々が目に入った。目の前に広がっていた光景は白耳が昨日の昼間に見たものと同質の暴虐だった。


(あいつらだ……)


変わり果てた狼王の姿を見て白耳達は激しく動揺した。自分たちが対峙している人間はあの狼王よりも強くしかも残虐非道なのだ。白耳はあの4匹の人間がこれから何をするのかはっきり悟った。根絶やしにされる。俺たちだけでない。巣にいる母子も根絶やしにされるのだと。なんとか生き残りの仲間をかき集めて巣を守らなければならない。白耳は率いていた仲間達に指示を出した。


「おじさん、起きなよ、おじさん!」


誰かに体を揺さぶられてウィルは目覚めた。目の前に見覚えのある少年が立っていた。ウィルは欠伸をしながら起き上がるとすでにトラップは身支度を終えて椅子に座っていた。椅子の傍にある小さな机の上には携行食料の包み布が広がっていた。既に食事を済ましたらしい。


「ウィル、起きたか」


気の責かいつもよりトラップの声が低い。


「今何時だ? 」


「もうじきお昼だよ。おじさん、寝坊は良くないよ。怠け者の始まりだよ。」


「で……なんだ?坊主。昼飯のご招待か? 」


少年は大げさにため息をついてから言った。


「昼ご飯どころじゃないよ、おじさん。御祖父ちゃんがカンカンだよ!」


「お爺ちゃん……ああ村長さんの事か」


「そうだよ!村長だよ!本当に呑気だなぁ」


少年もカンカンのようだ。


「とにかく早く顔洗って支度してよ。ちゃんとしてくれないと僕が怒られちゃうんだから!」


「なるほど。それは悪いことをしたな」


「おじさん寝ぼけているでしょ!とにかく早くしてよ!」


 昼前とあっては起きるしかない。ウィルは少年に急かされて身支度をしダイニングルームに行った。ダイニングルームにはシルフィールとマチルダが座っていたがウィル達の姿を見ると立ち上がった。


「おはようございます、ウィル様。疲れはとれましたでしょうか? 」


シルフィールはいつも通りに微笑を浮かべて会釈した。ウィルも釣られて挨拶した。


「いつまで寝ているのよ。こっちの心証が悪くなるじゃないの」


マチルダはプリプリと怒っている事から恐らく現状は芳しくないに違いない。


村長を相手にする前に先ずはとにかくこの女魔道士の機嫌をとらないといけない。

ウィルはシルフィールのマネをして褒め殺しをすることにした。


「昨夜はみんなのおかげで危機を脱する事ができた。本当にありがとう」


ウィルはみんなを見回しながらお礼を述べてから、マチルダの瞳を正面から見た。


「マチルダの力添えが無ければ小屋から脱出も出来なかったし狼王を倒す事もできなかっただろう」


 そう言ってからウィルはマチルダの両手を取りながら頭を垂れ謝意を示した。


「……誉めたって何も出ないわよ……」


 マチルダは顔を赤くして大いに照れたようであった。実際、マチルダの呪文が無ければ依頼の遂行どころか全滅していたのは確実だったのでウィルの本心ではあった。仮にシルフィールが彼にセンスライを掛けても虚偽の発言とは判定されなかっただろう。それはさて置きマチルダの機嫌は大いに改善されたし、ウィルが率直にお礼を言ったのを聞いて他人に善行を強制するのが習慣になっているシルフィールも大いに満足したのであった。


「おじさん達、早くしてよ。御祖父ちゃんは応接室で待ち構えているんだよ」


少年が少し呆れながら促すとトラップもそれに同調して言った。


「みんな揃ったみたいだし早く行こうぜ。村長がお待ちかねのようだ」


ウィルは頷き仲間に目配せすると4人は少年を先頭に依頼主の元に向かった。

 神聖魔法「センスライ(看破)」は嘘発見呪文として定番ですね。至高神に仕えるクレリックはこの「センスライ」で不届き者を見つけ、「ホーリーフィスト(聖なる鉄拳)」で制裁をするとされていることから、「キュア(治癒)」の他に「センスライ」と「ホーリーフィスト」の2つを詠唱できる事が一人前の術者の条件となっています。

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