第14話 部長たるもの、ガールフレンドたるもの
ミミマナペアのターゲット――サウナ『ぽっかぽか~』は、テツナギではそこまで知られていないサウナ施設だ。しかし、評価が低いかと言われれば、そうではない。一般的な知名度がないだけで、知る人ぞ知る玄人好みのサウナなのだ。
ミミさんの解説によると、サウナの温度が九十度、水風呂が十五度という、バランスの取れた環境……らしい。らしい、というのは、実は私、今回のサウナが人生初のサウナ。温度の話をされてもちんぷんかんぷん。というか、サウナと水風呂の関連性がわからないから、その二つを注視する理由も見当がつかないのだ。
ぽっかぽか~の最寄り駅に降りたミミマナペアは、改札を抜けたところで二人揃って伸びをした。その拍子に、ミミさんは快活そうに言った。
「んー! 今回も快晴っ! あたしの晴れ女っぷりには惚れ惚れするねっ!」
「自画自賛じゃないですか……でも」
見上げれば、空には雲一つなく、透き通った青が塗り広げられていた。よくもまあ出かけるたびにお天気に恵まれたものだ。
私自身は晴れ女という自覚はない。一人でお出かけをするときは、雨に降られることもあるからだ。そう考えれば、ミミさんの言うことも納得できる。
本日のミミさんの装いは、白のTシャツにブルーのジーパン。前のピクニックのときは、確か上は同じで、下が黒のスキニーだったはず。ミミさんはシンプルが好きなのだろう。実際、客観的に見ても、女の子女の子しているファッションよりも、多少ボーイッシュな方がミミさんらしい。
ファッションというのは不思議なもので、いくら材質が良くとも、デザインが凝っていようとも、価格が高くとも、万人に似合う服はただの一つもない。誰かが似合う服は、別の誰かにはミスマッチだったりする。だから面白いし、だから人々はその魅力から抜け出せないのだろう。
かくいう私は、白のオーバーサイズのTシャツに、カーキのパンツを合わせてみた。ピクニックのときは、桜色のパーカーを着ていたけれど、夏に向け気温が高くなることも考えてのチョイスだった。季節や気温、さらには時代まで、様々なことに思いを巡らせながら、洋服を買う。それもファッションを楽しむコツだと私は思う。
ファッションファッションファッション。さっきからずーっとファッションのことばかりのモノローグだけれど、いざサウナに入るとなれば、身に纏っているものは関係ない。ここから先は、未知の付き合いになる。
私とミミさんは、『一応』交際していることになっている。広報部・百合の花が正式な部活として認められたあの日、間違いなく二人は契りを交わした。そこに、嘘も偽りもなかった。
けれど、依然として……というか、以前よりも一層、私たちの関係性は曖昧なものになっていた。デートらしいデートだってしたことがないし、それどころか、お互いに口数も減った。
意識をすればするほど、アクションを起こしづらくなる。距離を縮めていこうという気持ちは、形式上、二人とも合意している。だからこそ、また意識してしまう。
繁華街をミミさんと並んで歩きながら、私の頭のなかはそんなことで埋め尽くされていた。そこに……。
「どったのマナちゃん」
こめかみの辺りを突いてくるミミさん。私もすかさず突き返した。
「どうもしてませんよ」
「痛いな……。ってか、どうもしてないなんて嘘でしょ。さっきからずーっと上の空って感じだし」
「いいえ。ちゃんと集中して歩ていましたから」
「歩くのに集中なんて必要ないじゃん……。もしかしてさ……あたしと出かけるの、嫌かな……?」
私は、予期せぬ問いに取り乱しながらも、ミミさんの目を見据えて、しっかりと首を横に振った。
「嫌じゃないです。むしろ楽しみにしていたんです。だって……二人きりでどこかに行くとかってなかったじゃないですか……」
「あはは……。それを言われるとバツが悪いな……。ごめんね、あたしも同じ気持ちだったけれど、マナちゃんのことを考えると、何だか言い出せなくってさ」
「謝らないでください、私も同じですから。……私、色々と勘違いしていたというか、思い上がっていたなって思うんです」
「勘違い……思い上がり……それって……?」
「百合の花の部長に選んでもらって、ミミさんとも付き合えて、すべてが追い風で……。でも、肩書きを手に入れただけでは変わりませんでした。関係性に名前を与えただけでは変わりませんでした。考えてもみれば、それって当たり前ですよね、私は何も変わっていないのだから」
「……そうかな」
「えっ……」
繁華街は人でごった返している。それなのに、彼女の囁くような言葉ははっきりと聞き取れた。
「マナちゃんにとっては、マナちゃんは変わってないように見えるかもしれないけれど……。だけど、マナちゃんは変わろうとしている。それはわかるよ。あたしでもわかる。きっとカミーアちゃんもクルミちゃんも気が付いていると思う。変わろうとしていることがもう、変わってきているんじゃないかな」
「ミミさん……。お世辞でも、ミミさんにそう言ってもらえると、心が軽くなった気がします」
「マナちゃん、いまのはお世辞じゃないよ。百合の花のことだってそう、今回もさ、あたし暴走したじゃん? それに歯止めをかけてくれたのはマナちゃんだしさ」
「結局、突っ走っちゃいましたが」
「それを言っちゃあお終いよっ?! ……いやまあ、全部あたしが悪かった。あのときは暴走したけれど、家に帰って思ったんだよね。あー、言い過ぎたなって。すぐに後悔できたのってさ、きっとマナちゃんが仲裁に入ってくれたからだよ」
「結局、突っ走っちゃいましたが」
「そうだねっ?! うんもうそうだねっ?! それは言わない約束にしよっか?!?! ……話は逸れたけれど……カミーアちゃんのことを考えているからこそ、その気持ちが昂って、そして空回りして、とうとう謝れなかったんだ」
唇を噛むミミさん。自分を責めるようなその姿を見ると、どう声をかけるべきかわからなくなった。だから私は、いまこの胸に湧き上がってきた気持ちを言葉にした。
「でも良かった。ミミさんが謝りたいって思ってくれているなら、ひとまず良かった。私、このまま元通りにならなかったらどうしようって、不安だったんです」
「ごめんね。次、みんなで集まるときは、カミーアちゃんに謝る。約束」
「約束、ですね!」
「うん、約束。ねえマナちゃん、指切りしよっか」
「はいっ!」
「いくよ? 指切りげんまん」
「嘘ついたら」
「ハリセンボン飲ます」
「指切った!」
指切りを交わし、小さな約束が結ばれた。そして、話は約束からとある契約へと移る。
「マナちゃんは恋愛のことも、マナちゃんなりに思い詰めて、変わろうとしてくれたでしょう? だからさ、この機会にもう一歩だけ接近してみない?」
「というと……?」
「あたしたちの間で、隠しごとは禁止にするのっ! 思っていることは口に出して、ちゃんと相手に伝えるの。ほら、伝われ〜って念じても、伝わらないことはあるじゃん? だから、ちゃんと相手に伝えるっ!」
「難易度の高いことかもしれませんが、確かにそれができれば、もっと接近できるかもしれませんね……!」
「そそっ! そうすることで、衝突することもあるかしれないけれど。それでこの関係性が白紙になるほど、あたしたちの想いは柔じゃないからね」
「ミミさん……イケメンですね……!」
「イケメンってのはあんまり嬉しくないかも……」
ミミさんは、尖った耳を折りたたんで、苦い顔をした。
……。……。……。
「ぷっ!」「ふふっ」
「あはははははっ!」
少し間が空き、私たちはお互いの顔を見て笑い合った。
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