表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/17

第12話 対立はダメなのに……

 ――いまという時間に限りがあると知ったのは、中学生のとき。


 私の中学生活は、まさに苦行(くぎょう)とも言える(つら)い辛い日々だった。精神的(せいしんてき)に追い詰められていると、人はどんどんネガティブな思考に(おちい)ってしまう。当時の私もそうだ。


 心ない言葉を()びせられて、仲間外れにされて、私は失意(しつい)のどん底にいた。非常に視野が(せま)い年代ということもあり、『私はいつまで学校という(おり)のなかに幽閉(ゆうへい)されたままなのだろう』と日常的に悲観(ひかん)していた。


 辛いと感じるほど、時間はゆっくりと流れていく。時間が流れるたびに、周囲は変わっていった。私自身、何も変わることはなかったけれど、周囲は変わっていった。


 ――いまという時間が(とおと)いと知ったのは、高校生のとき。


 白く長い髪を二つに束ねた女の子――ミミフェン・スアサンさんが、私に教えてくれたのだ。彼女のおかげで、私はいま幸せだ。彼女がいなかったら、私はどうなっていたかわからない。


 彼女だけじゃない。広報部(こうほうぶ)・百合の花に加わってくれたクルミさん、カミーアさんもそうだ。四人で時間を共有し、四人で感情を共有してきた。


 物語はまだ序章(じょしょう)。百合の花にとって、これからが本当の勝負。


 僥倖(ぎょうこう)なことに、私たちは世間様から注目を浴びている。あのピクニック、たった一回で、そんな状況にまで進展(しんてん)してしまったのだ。


 いま、大切なことは、いかに基盤(きばん)(くず)さずに活動を続けられるか、だと思う。ここでいう基盤というのは、最初に決めた活動方針、方向性のことだ。


 私たち百合の花は、地域の活性化と学校の宣伝を目的としている。それを忘れてはならない。


 舞い込んできたチャンスを逃すことなく、四人で一致団結してやっていく。私は、広報部・百合の花の部長として、部員のみんなにそのことを伝えたかった。……のだが。


「サウナ! ぜーったいサウナに行きたいっ!」


「いいえ。こういうときこそカフェに行くべきでしょう」


 ミミさんとカミーアさんの意見が真っ二つに……。


 放課後、部室に集まった百合の花たちは、『さあ次はどこを訪れよう会議』を始め、冒頭(ぼうとう)こそ和気藹々(わきあいあい)としていたのだけれど……。いつの間にやら、二人は火花を()らしていた。


 いまこそ、四人一緒に行動したいのに……まさかこんなことになるなんて……。


 ふさふさっとツインテールを揺らして、ミミさんは主張(しゅちょう)を続けた。

(ちまた)ではサウナが流行しているんだよっ?! だったら、こういうときこそサウナでしょっ! ぜったいぜったいぜーったい、みんなも見たいってっ!」


 みんな、というのはもちろん、SNSで百合の花のことを応援してくれている方々のことだ。


 ミミさんの意見には一理ある。確かに、サウナが世間的に流行しているのは事実だし、下世話(げせわ)な言い方をすれば、多くの人の目を引くことだってできるだろう。


 私がミミさんに賛同しかけていると、今度はカミーアさんが艶感(つやかん)のある黒く長い髪を(なび)かせ、持論を展開した。

「サウナブームは重々承知していますが、このタイミングで行くのは露骨(ろこつ)でしょう。百合の花のお淑やかなイメージを守るために、まずは古民家カフェのようなところに出向くのが、長期的に考えて合理的だと思うのです」


 むっ、カミーアさんの意見も一理ある……。百合の花はこういう部活ですよ、と印象づけることを優先させてからでも、サウナのような超級のカードを切るのは遅くない。むしろ、強い手で勝負し続けると、平凡(へいぼん)な手を指したときにインパクトが(うす)れてしまう。


 悩ましい……どちらの肩を持つべきか悩ましい……。


 スパークする二人の視線。その鋭い眼光(がんこう)が、ギロッと私とクルミさんの方に向けられた。

「サウナだよねっ?!」「カフェに決まっています」


 意見を求められることはわかっていたけれど、まだ意思(いし)が固まっていない以上、安易(あんい)に返答できない。


 ……というか、私はどちらか一方に(かたむ)いてもいいのだろうか。仮にも部長という立場なのだから、私から『みんな一緒に』をしっかりと伝えないといけない。でも、それを口にしてしまうことで、みんながバラバラになっちゃわないかな……。


 返答に困窮(こんきゅう)する私。クルミさんもすぐには答えられないだろう、そう思っていたけれど……。

「私は、カフェが良いと思いますね」


 はっきりとそう言い切ったクルミさん。心なしか、彼女の表情は自身に満ち(あふ)れているように見える。


 味方が増えたカミーアさんは、クルミさんの手を握って、喜びを口にした。

「やっぱりクルちゃんはわかってる!」


 微笑(ほほえ)み返すクルミさんに、ミミさんは不服(ふふく)そうに(ほお)(ふく)らませながら()いた。

「クルミちゃん、サウナの方が良くない? どうしてカフェなの?」


「食べれるからですね」


 あー、ですよねー……。


 (なか)(あき)れる三人に、クルミさんは首を傾げる。

「そもそも、どちらも行く、というのはダメですかね……?」


 本来、部長である私から言わなければならないことを、クルミさんは平然と言った。


 クルミさんに感謝するとともに、私は自身の部長としての資質(ししつ)を疑ってしまった。私、部長とか向いてないよね……。


 ミミさんは、()ねたようにぼそぼそと(つぶや)いた。

「そりゃどっちも行きたいけれど、先にSNSに投稿するのはサウナが良いと思うの……。でもさ、二人がそっちに行きたいって言うんだったらさ、もう別々に行動したら良いんじゃないかなって。好きにやったら良いんじゃないかなって」


 子どもっぽいミミさんも可愛いなあ……。じゃ、じゃなくてっ!


 それまで発言ゼロだった私も、(たま)らず口を挟んだ。

「別々にっていうのは……ちょっとどうかな……」


 (ひか)えめな主張になっちゃった……?! うう、こんな言い方になるなら、黙っていた方がよっぽどマシだよ……。


 私の言葉はなかったかのように、カミーアさんは珍しく強い口調で言い返した。

「わかりました。ミミさんがそういう考えなら、私もクルちゃんと二人でカフェに行きます。一人は可哀想(かわいそう)なので、ミミさんはマナさんとサウナに行ってください。それで良いですよね?」


 誰に対しての問いかけだろう、と狼狽(うろた)えていると、ミミさんが一歩踏み出して答えてしまった。

「上等っ! ……そうだ、いっそのこと勝負形式にした方が良いかもねっ! それぞれで写真とか動画とか撮ってきて、それぞれでSNSにアップするの。そうすれば、あたしの意見が正しかったのか、それともカミーアちゃんの意見が正しかったのかはっきりするっ!」


「ミミさんが提案していることは、ミミさん自身の首を絞めていることに他なりませんよ? しかし、喧嘩を売られてしまっては、買うしかありません。勝負となれば、たとえミミさんが相手でも、マナさんが相手でも、私は手加減できませんよ」


「望むところっ!」


 ちょ、ちょっと! そんなこと望まないでよっ!


 ……と言うべきだったのに、私は口にできなかった。


 四人が集まって、寄り()って、一つの花になる。百合の花になる。そんなこと、みんなわかっていたはずなのに、このときばかりは、誰もが冷静さを欠いていた。


 さあ次はどこを訪れよう会議は唐突に終焉(しゅうえん)を迎え、四人は二人一組となり、散り散りになってしまった。次なる会議は作戦会議、そのなかで話し合われたのは『いかにして相手のペアに正しさを証明するか』という、百合の花の本分を完全に逸脱(いつだつ)したものだった。


 チーム制になってからも、私とクルミさんだけは情報共有をし合っていた。私たちミミマナペアはホォーヅリィの北部地域――テツナギにある、サウナ『ぽっかぽか~』を目指す。カミクルペアの目的地は、南部地域――カタヨーセの古民家カフェ『ララルラ』だ。


 私は、クルミさんからカタヨーセに行くと聞いて、正直胸を撫で下ろしてしまった。万が一にも、両者が(はち)合わせることがないからだ。


 だけど、そんな自分に苛立(いらだ)ちを覚えてしまう、私もいたことに気付いてしまった。

ご覧いただきありがとうございました!

ぜひ次話もご覧くださいませ!

評価とお気に入り登録、よろしくお願いいたします!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ