43 変人に好かれる者
少年は戦火で全てを失った。
少年はただ見ていることしか出来なかった。
犯される母を、刻まれる友を、連れていかれる妹を、守ろうとして切られ死にゆく父を、見ていた。
未熟な体は何の役にも立たなかった。
辛うじて生き残った少年に待っていたのは瓦礫の山と群がるモンスターと略奪者の群れ。
少年は走った。
生きるために、逃げるために。
隠れて、怯えて、少年は考える。
何故こんなことが起きる!
少年にはスキルも魔法も無かった。
ただ弱く未熟な肉体があるだけだった。
少年は考える。
弱かったから……。
弱かったから……皆死んだ。
少年は願う。
強く……強くなりたい。
世界中の理不尽を吹き飛ばしてどんな運命も変えるような強さが……欲しい。
少年はその時スキルを得る。
『急成長』
それは運命だった。
だが……少年は拒絶する。
ふざけるな!と。
何も救えなかったスキルなど何の価値も無い。
都合の良い時だけ手を貸す神などいらないと。
運命を拒絶する。
神の恩恵とも言われるスキルを拒絶し走る。
少年は走る。
戦う為に、強くなるために。
運命すら打ち砕く為に未熟な拳を握り締め走り続ける。
肉体は脈動する。
ー◇ー
俺たちはギルドに戻ってクエストの報酬を貰い宿を探した。
受け付けの人がリーシャさんから兎の獣人に変わっていた。アーニャさんと言うらしい。
日も落ち始め街を茜色に染め上げていた。俺たちは茜色に染まる煉瓦の町並みを歩く。
石を漆喰で固め煉瓦を積んだ家々、店じまいをする露店商、馬車を走らせ宿へと向かう商人や冒険者、そんな中を俺たちは歩く。
石を敷き詰めた道は歩く度にコツンコツンと音を立てて心地いい。
そんな周りを見ながら俺はキュクに訪ねる。
「どこに泊まる?そもそも宿は何処にあるんだ?」
「ふむ……ギルドで聞いた所この辺りに宿屋が沢山あるそうです」
キュクが指差した建物を見るとベッドの書かれた看板が脇に吊るされた建物が並んでいた。
『ドラゴンの角』『ドワーフの火酒』『モンスターパーティ』『美しき薔薇の宿』など様々である。
というかモンスターパーティって中入った瞬間襲われそうな名前だな……。
俺たちはその中の一つ『魔女の箒邸』へと泊まることにした。入り口の上の看板には箒に乗った魔女が描かれていた。
何で跨がってじゃなくサーフィンみたいに乗ってるんだ……。
中へと入るとカウンターがあり左右の壁には沢山の箒が掛けられていた。
「いらっしゃいませ」
周囲の箒をキョロキョロと見ていると宿の受け付けらしい魔女が話しかけてきた。
「とりあえず1週間くらい泊まりたいんですが」
「素泊まり一泊一名様、4000Ashです。朝夕食事付きなら6000Ashとなります。
どちらにいたしますか」
受け付けの魔女は14くらいの少女だった。髪はショートにしており頭の魔女帽子からふわふわの栗鼠耳が飛び出していた。
つまり獣っ娘で魔女だった。人懐っこい笑みを浮かべ一生懸命仕事をしている姿を見ると癒される者も多いだろう。
「素泊まりで一週間……カードでお願いします」
キュクは冒険者カードを取りだし渡した。以前何処かで言ったかもしれないがお金は銀貨までが一般的である。
それ以上は持ち歩くのも両替するのも面倒だからだ。
では結構な金額を払う時はどうするのか?それぞれ冒険者なり商人なりのギルドが発行しているカードを使い払うのだ。
カードにはデビットカードの機能が備えられており店でその為の機器に通せばお金を支払うことが出来る。
ちなみに俺の自由に出来るお金は殆ど無い。おこずかい制である。
「はい、ありがとうございます。お部屋の希望はありますか?」
「二人部屋でしたら問題ありません」
「ベッドはダブルとツインがありますがどういたしましょうか?」
「ダブルで」
受け付けの女の子の顔が少し引きつった気がしたが気のせいだろう。
「はい、では201の部屋となります。二階に上がって左に曲がった所にあるお部屋となります」
鍵を受け取り、俺たちは部屋へと入った。
部屋の中はダブルベッドがあり扉が一つあった。扉の先はお風呂とトイレがあった。
バストイレ付きの部屋なのか……転生者頑張り過ぎだろ……違うかもしれないが。
全体的な雰囲気としては黒っぽい色で揃えられ魔女っぽさみたいなのを出している。
実は結構高級宿ではないだろうか。カーテンとかすべすべなんだけど……。
キュクはベッドに座ると頬を染めた。
「や……やさしくしてね」
「何やってんだ」
わざわざアニメ声を出してアホなことを始めた。
「いえ、お約束かな?と思いまして」
そうだろうか?
「普段とキャラが違い過ぎるだろ」
「ギャップ萌えという奴ですよ」
「ねーよ」
キュクとはそういう仲であるにはあるが何時も俺が襲われる立場である。
間違ってもこんな感じでは無い。
「ふむ……やはり女騎士とかで無いからやる気が起きませんか?」
「いや、そういうことじゃ無いから」
俺たちの夜は更けて行く。
ー◇ー
ギルドマスターの事務室にて帝都のギルドマスターである老婆はため息を付いた。
彼女の前にあるのはラムスのハリー=マンソンから上がって来た資料と今日テストを受け合格した問題児の資料である。
どちらもメイドと何かである。
彼女もこのタイミングで何も関係ないと思うほど純粋では無かった。
それ故にため息である。
「はぁ……どうにもまいったねぇ」
もしも冒険者の町ウルバク近郊であった大破壊の後が彼らのものだとすると穴までは良い……いや、良くは無いがまだ問題無い。
だが穴の近くにあった崩壊が彼らの行った物ならば良いが違った場合は面倒が起きるのは確実である。
そしてあのハリーが【災禍の者達】だと言うのならば恐らくそうなのだろうとも思ったのだ。
ギルド内では単眼メイドのモンスターは大きな驚異として確認されているので然るべき手順を踏んで討伐することが決定している。
しかし【災禍の者達】が関わって来るならば話は別であった。
「とりあえず監視は……危険か……今は放置かねぇ」
老婆は【念話】を使い職員を呼び出す。
しばらくすると扉から控えめなノックが響いた。
「はいりな」
「失礼します」
扉を開け中に入って来たのはリーシャである。
「あんたあのメイドの冒険者を担当したね」
「はい」
「あんた今後はそいつらが来たら担当しな」
「えっ……」
リーシャはこの世の終わりのような顔をした。
「そんな顔してもダメだよ。ちゃんとボーナスも出すからたのむよ」
「……はぃ」
「それで、何か変わったことがあったら全部上げてきな」
「そんなに危険なんですか?確かにいきなりベンツさんを攻撃したのは危険ですが」
「あんたも一週間ほど前の光を見たろう?」
リーシャは天へと繋がるほどの光の柱のことを思い出した。
「あれ多分あいつらだから」
「エエエエエェェェェェェ」
リーシャは思わず叫んでしまった。
「いや……ちょ……無理です」
「あんたなら大丈夫さね」
老婆はとりつく島も無い。
「まぁ頼んだよ」
「…………はぃ」
リーシャは何故自分ばかり変な人の担当になるのだろうと思いながらギルドマスターの部屋を後にした。




