44 メイドって凄い
少女は立ち上がる。
助けを呼ぶ者のために、悲しみ涙する者のために、絶望し立ちすくむ者のために、立ち上がる。
少女はその者達にとっては塵芥に等しい存在だろう。
空と大地を埋め尽くす無数の魔、魔、魔。
少女の存在は町の者にとっても大きくはないだろう。
下を向く者、ただ祈る者、起き上がることすら無く倒れ伏す者。
少女は立ち上がる。
守るために、救うために、その全てを掛けて存在すら変える程に願う。
護りたい。
共に学んだ友を、優しい知り合いを、教え導いてくれた先生を、未だ遠くにいる両親や兄弟を……護りたい。
少女の思いは希望となる。
希望は光となり世界を照らす。
全ての者が少女を見る。
希望と敵意をもって少女を見る。
世界でたった一人でも少女は立ち上がる。
それこそが少女の生き方であり生きる意味だからだ。
少女は絶望へと立ち向かう。
あらゆる絶望と立ち向かい希望を背負い夢を守る。
魂は鼓動する。
ー◇ー
次の日の朝キュクの腕の中で目が覚めると適当に人の姿になり身支度を整える。
顔を洗って戻るとキュクが既に身支度を整え終わっていた。どうやって終らせたのか不明だが聞いてもメイドですからと返ってくるだろう。
メイドは偉大である。
使用人なのに偉大とはこれいかに?
「ロプス様今日はどうしましょう」
「ギルドに行ってDランクに上がりたいかな」
「ではそうしましょう」
俺はキュクに抱き上げられギルドへと向かう。
ギルドの中へ入ると冒険者達が一瞬だけこちらを見たがすぐに目を反らした。だが、ちらちらと視線を感じるのでこちらの様子を伺ってはいるのだろう。
「なんかいい仕事はあるかなっと」
内容は昨日とほとんど変わら無かった。
しかし俺たちの目を引くクエストが一つあった。
『盗賊退治』
盗賊退治か……定番だしやりたいがCからかまぁ初心者には頼まないよな。
「ではロプス様これにしましょう」
キュクが指差したのはゴブリン退治だった。
昨日もやったし特に異論は無いがわざわざ言うのは一体何でだ?
「この依頼は西の森です。たまたま盗賊の近くを通るかもしれません」
「なら町の中のクエストでいいな」
「な……何故ですか」
キュクはガーンとショックを受けていた。
「いや、面倒だし」
「ロプス様がそういうなら……」
俺はドブ掃除と宅配を剥がしてカウンターに持っていった。
「今日は宅配と掃除にするんですね?宅配は西地区、ドブ掃除は南地区となります」
リーシャさんは地図を出してこの辺と教えてくれた。
「どちらも一日の仕事になりますのでえっと……ロプスさんがドブ掃除でしょうか?」
リーシャさんはにこにこと言った。
一日かかる仕事だったのか。
「そんなことはしません、どちらもです。そもそもロプス様にドブ掃除をさせるなどとんでもない」
(じゃあ何でこの用紙持って来たの!?)
リーシャは内心の驚きを顔に出さずキュクに言った。
「えっともし出来なかった場合違約金が発生しますが」
「問題ありません」
「途中で抜け出すのも無しですよ?」
「問題ありません」
リーシャはこれ以上問答しても無駄だろうと思い内心ため息を付きながら受領印を押した。
「それではよろしくお願いします」
キュクは用紙を受けとり踵を返しギルドを後にした。
ロプス達が去った後リーシャは一応ギルドマスターに報告の連絡をした。
「あのメイドさん今日は掃除するの~?」
「そうらしいけど宅配もするんだって」
「二人で分けて~?」
アーニャが言っているのは一人が掃除一人が運搬ということである。
リーシャは首を軽く横に振った。
「一緒にやるけど一人でやるみたい」
「え~?」
「まぁ初心者によくある出来ると思って失敗するパターンだと思うんだけど……」
リーシャは昨日あの二人が光の柱の原因であることを知ったので完全には否定出来ない所があった。
「でも~あのメイドさんならやっちゃいそうだよね~」
「…………」
リーシャは軽くため息をつき依頼書を持ってきた冒険者の対応を再開した。
ー◇ー
南地区のドブ掃除場所へついた。
「今日はここからそこまでの掃除をする。終わったらもう一回集合して終わりだ」
そこには現場主任らしき男が集まった冒険者に説明をしていた。
説明が終わったのか冒険者達がバラバラと散らばり掃除を開始した。中には手慣れた様子で掃除道具を出す者もいた。
掃除好きなのだろうか……。
「おっ、おめぇらは掃除は始めてか」
現場主任らしき男が散らばらず見ていた俺たちと数人の冒険者に近づいて来た。
「そうだな……とりあえずこれが袋だ。とったゴミはこっちな」
親切に説明を始めたがキュクは歩いて行きゴミ袋を大量に取った。
「おいおい、あんたそんなに持っても使わないだろ」
「問題ありません」
キュクは現場主任の男を無視し掃除するドブの端へと立った。
「それでは始めます」
「おう、まかせろ」
「いえ、ロプス様はそこで見ていて下さい。こういうのは私の仕事です」
そう言うとキュクは箒を取り出した。一度だけヒュンと回すとキュクの目がキランと輝いた気がした。
「【メイド式掃除術:竜巻】」
おお、凄そうな名前だ。
キュクから魔力と闘気がうなりを上げて立ち上る。
それを見た冒険者達は全力でドブから上がって逃げた。危機管理能力が高いのは流石冒険者である。
トンッとキュクが飛び出すと高速で箒を振るいながらドブへと着地する。
しかしドブによって汚れることは無いそのヘドロやゴミは既に袋に入り川縁にドサドサッと落ちていた。
「…………!」
豪!!と箒を振るうと竜巻が生じゴミとヘドロを分別しながら川縁へとゴミ袋を増やしていく。
なんということでしょう。
先ほどまでヘドロとゴミで汚れ放題だったドブ川が今やこんなにピカピカに。
あれほど近隣住民を悩ませた悪臭もすっかり散らし清涼感すらあります。
さらに、よく見ると川底だけで無く川縁まで綺麗になっています。
これがプロのメイドの仕事ということでしょう。
これで掛かった時間はおよそ30分メイドの技がキラリと光ますね。
「終わりました」
思わず匠の技の紹介みたいになってしまったがとにかく終わったらしい。
これには現場主任の男もポカーンとしている。俺も同じ気持ちである。
「帰ってもよろしいでしょうか」
「あ……はい」
俺たちは次の仕事へと向かった。
次の仕事は宅配である。
流石にこれは俺でも出来ると動こうとしたがキュクの一声である。
「ロプス様(以下略」
そこで行われたのは分身だった。大量に分身したキュクが重いものだろうと軽いものだろうと凄い勢いで運んで行った。
およそ1時間で終わった。
倉庫で荷物貰い一軒一軒運ぶ仕事で本来ならばリヤカーを押し人しか入れない所へ運ぶらしい。
隣近所に住んでいた人はさぞ驚いたのでは無いだろうか?
同じ顔の人が沢山走り回っていたわけだしな。
そんな感じで昼には仕事が終わってギルドに戻ることになった。
仕方ないので外の仕事を受けるか。
ー◇ー
「すいません。これ受けたいんですけど」
俺はリーシャさんに薬草採集とオックスボアの討伐クエストを持って行った。
「…………あの、朝の仕事は」
「終わりました」
「…………」
リーシャさんの笑顔が固まっていた。キュクも基本は笑顔なのでお互い笑顔である。
「わ……わかりました。オックスボアは以外とタフなので気をつけて下さいね」
リーシャさんは壊れた機械のように固い動きで受領印を押した。
キュクはそれを受けとるとギルドを出た。
ロプス達が去った後リーシャはカウンターにゴンッと頭を置いた。
「意味が分からない。ドブ掃除は一日かかる仕事だし宅配はそんな簡単な量じゃないから冒険者の足を鍛えるのに最適で初心者に……」
「お~いリーシャだいじょうぶ~?」
「どう考えたってそう簡単に終わるわけが無いし……」
隣からアーニャが声を掛けるもリーシャはブツブツと何かを言っていた。
「リーシャ冒険者の人来てるよ~」
「だってありえないし……」
「え~っとこちらでお伺いしますね」
「常識的に考えておかしいし……」
暫くしてリーシャが立ち直るまでギルドマスターに報告が行くことは無かった。
(`・ω・)メイド!圧倒的メイド!




