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第六話 聞き流す授業と小心者のへっぽこ探偵は過保護

 

 村を出て半日。昼頃には街に着き、俺たち四人は少女を保護してもらうべく冒険者ギルドへ送り届けた。冒険者たちは既に依頼に向かい、昼頃のギルドは人がまばらであった。


 事件の経緯を説明すべく、俺たち四人はそれぞれ別に事情聴取をされることになった。俺は行商人に乗せてもらったこと、森で夜襲を受けたこと、そしてこの街へと少女を送り届けたことを、ギルド職員へと事細かに伝えた。


 行商人の顛末は伝えたが、加担していた村の村長なんかは省いた説明を繰り返し説明し、解放された時にはすっかりと夜だ。悪事に加担していたのは村長一人。それでも全てを正直に話してしまえばあの村は大変なことになるだろう。それは俺の、俺たちの本意ではない。


 聴取を受けていた部屋出て、廊下の窓へと視線をやれば、街の街灯が照らす外の風景が見える。依頼を終え街に戻ってきた冒険者、自宅へと向かう街の住民、夜食を売り捌く露店なんかが見える。


 俺は長時間椅子に座り、すっかりと疲れてしまった。凝り固まった首を捻りながら、ギルドのホールへと向かう。


 報酬を受け取る冒険者たちを横目に、俺はギルドのホールを横切り、ギルドに併設された宿屋へと続く廊下を進んだ。次第にざわざわとした話し声が廊下に響き、俺は宿屋へと辿り着いた。


 ギルドに併設された宿屋の一階。そこは広間となっており、夕食時の広間では、そこらかしこのテーブルで冒険者や旅人が食事を囲んでいる。人に溢れ、騒がしい広間を見渡すと可憐な女性が俺に手を振っている。広間の視線は皆、大きな胸を揺らし、赤い髪をなびかせる彼女へと注がれていた。


「グラムズー!ここよ!ここ!」


 俺は軽く手を挙げ、彼女の元へと向かった。周りの視線が痛いほどに俺に注がれたが、俺は彼女の居るテーブルへ向かい、真っ直ぐに歩いた。


 はぁ。やはり街に着いたらアリーナは注目の的になってしまったか。こればっかりは仕方ないか。


「待たせたな。俺が最後だったか」

「グラムズは悪人顔だからね!仕方ないよ!俺とベニーはすぐ解放されたぜ?」


 無邪気な子供から悪人顔と言われてしまった。ならば誰からみてもそれは事実なんだろう。実に悲しい。


 アリーナが長椅子へと座ると、隣の位置をぺしぺしと叩き、俺へ席をすすめてくれる。俺は彼女の横へ腰掛けると、四人がけのテーブルにはようやく俺たちパーティーが揃った。


「それにしてもあの少女、かなり幼く見えたがドワーフとのハーフだったとはな。俺はてっきり十になるかどうかだと思ってたのだが。ジモンと同じ十五だとはな。二人とも小さいから分からなかったぞ」

「俺は成長期なの!これから!」


 口元に手をやり、先ほどの聴取のときに知った事実を俺は思い出していた。ジモンの噛み付く様な言葉は無視してだ。視線を天井の隅に向け思考していると、テーブルへ夕食が運ばれてきた。先に注文を済ませてくれていたようだ。三品がテーブルへと並べられる。


 温かいスープは湯気を立て、肉とハーブの香りを漂わせている。パンは焼きたてなのだろう、小麦の香ばしい香りが鼻を通り、自然と口の中に涎が溜まる。


 ここしばらく携帯食料と野営続きだった俺は、焼きたてのソーセージと豆類が乗った皿に手を伸ばした。フォークでソーセージを刺し、口へと運んだ。


 俺の向かいではベニーが、その隣ではジモンが同じように食事を始めている。肉と豆を飲み込み、空っぽになっていた胃袋へとスープを流し込む。


 ああー。腹の奥底へとスープが行き渡る感覚だ。体が温まる。村長宅の夕食は口に合わなかったからな、余計に美味く感じる。俺が感慨に耽りながら食事を進めていると、子供が騒ぎ始めた。


「なーなー!街に着いたら魔法を教えてくれる約束だろ?早く教えてくれよ!」

「はぁー。良いかジモン?そもそも、お前は常識がなってない。それに神様から洗礼を受けてないだろ?話にならんぞ」

「俺だって…グラムズみたいに燃えるウシを出したい!火を纏ったり、ベニーと一緒に風を操りたいんだよ!」


 俺はフォークでジモンを指し、先に食事を済ませろと注意をした。だが彼の興味はそんなことではとまらないようだ。ジモンは俺から視線を逸らし、ベニーの袖を引っ張り話をせがんでいる。


「良いですかジモン。この世界は…」


 この世界には大地や海、空を創った神様たちがいる。そんな眠たくなる話がベニーから語られ、それでも魔法を夢見るジモンは目を輝かせて聞いている。


 つまらない講義を聞き流している俺は、自分の皿へと視線を戻し食事を続けた。俺がフォークで焼かれた豆を転がしているとき、ベニーの講義は続いていた。


 世界を創造した神様たちが、地上を管理するために、地上へと神使(しんし)様たちを遣わした話だ。


 簡潔に言ってしまえば、神様の下請けが神使(しんし)様だ。


 そんな地上の管理を任された神使(しんし)様たちは、一様に生き物の姿をしており、地上に点在する祠に祀られている。


 人はみな魔力を持っているが、魔力だけでは炎や風、水なんかを操る魔法を使えない。ベニーはフクロウ、俺は雄牛の神使(しんし)様に見定められ、魔法を使えるようになった。


 人々は祠に出向き洗礼を受ける。そうして、ようやく人は魔法を使えるのだ。


 俺はベニーの話に耳だけを傾け、食事を続けていた。俺は肉を口に運び頬を膨らませると、パンが入ったバスケットへと手を伸ばした。


「はい、グラムズ。パン取りたかったんでしょ?」

「ああ、ありがとう」


 パンを手渡してくれたアリーナに礼を述べ、俺はふわふわの焼きたてパンを割った。そしてパンを口に運ぼうとしたとき、俺はピタッと動きを止める。そして、視線を感じる彼女の方へと向き直った。


「…なんだ?」


 彼女は軽く腰を浮かせ、長椅子に座る位置を俺の方へとずり動かし、耳打ちをした。


 吐息が俺の耳を掠め、こそばゆい気持ちを必死に堪えた。そして俺は動揺がバレないよう、静かにパンを口に運び平静を装う。


「ねーねー、ジモンじゃないけどさ、あたしも魔法興味あるのよ。あたしでも使えるかしら?」


 彼女もまた、ジモンのように興味があったようだ。だがジモンのように子供には見られたくないのだろう。俺はパンを飲み込むと、彼女にだけ聞こえるように小さな声で返答をする。


「ああ、洗礼を受ければな。どの属性なのか、どの神使(しんし)様たちが集う祠で洗礼を受けれるのか。適性次第だがな」

「ねえ!グラムズ!俺の適性は!?分かる?」


 アリーナにだけ聞こえるように話してたんだがな。ジモンは地獄耳なのか?周りのテーブルでも夕食を囲み、周囲は騒がしいはずなのに何故聞こえたんだ。


「俺が知るわけないだろ。適正ってのは生まれ持ったものだけじゃない。どう生きるか、どう考えているのか。そういうのを神様たちは見てんだよ。神様たちに聞け。それ以前に、お前はベニーからしっかりと話を聞くんだな」


 ベニーは王都で四年も勉強をしていたがそれだけじゃない。地頭も良いのだ。俺が見習うべき彼の少ない長所だ。それにベニーは人から頼られるのが好きだ。俺はジモンの相手をベニーへと押し付けているが、適材適所だろう。


 ジモンにどこの祠で洗礼を受けたのか尋ねられたベニーは、「私は空の大地、導きの祠で洗礼を得られました。ジモンの知っている通り、雲を纏った様なフクロウの神様ですよ」と回答している。


 話を聞いただけではしゃぐ子供は、自分がなんの属性か、どんな神使(しんし)様から洗礼を受けれるのか、それに思いを馳せて目を輝かせていた。

 

「俺、ネズミがいい!芸を仕込んで整列させるんだ!」

「あんたねー、神様よ?不敬過ぎない?」


 神様に認めて貰って魔法を使えると言うのに、ジモンは逆に芸を仕込みたいようだ。こんな子供を気に入ってくれる稀有な神様がいらっしゃるのかね?


「ねーベニー。あんた王都で四年間学んだんでしょ?なんで魔法って言うのか知ってる?神様に認めて貰って使う力なんだからさ、魔法じゃなくってさ、神術とか神力じゃないの?」

「アリーナ、あなたは烏滸がましいと思いませんか?いくら神々に認められ力を行使できたとしても、私たちは人です。神ではありません。愚かな質問ですよ?」

「…そ」


 …頼むベニー。もう少しやんわりとアリーナには言ってくれ。それにジモンに対する態度と違いすぎないか?なんで俺がアリーナに睨まれなきゃいけないんだ。


 それに俺もなんで魔法って呼ばれてるのかなんて知らない。アリーナと同じ疑問を抱いてたんだ。それなのに魔法を使える俺にこそ、愚かだと言ってくれ。


「…ベニー、アリーナの顔を見てみろ。もう少し優しい授業態度にしてくれないか?」

「私、アリーナの顔なんて見えませんよ?目がないんですから」

「…そうか」


 ベニーと俺たちは本当になんで意気投合したんだろうな。不思議でならない。俺は咳払いを一つし、食事を続けた。


 だがジモンの魔法への憧れはまだ続いている。指折り数え、どんな魔法を使うのか語っていた。


「先ずはベニーと同じ風がいいな!それにグラムズの火も!後は水だろー、それにー」

「っふっふ。ジモン、それではまるでおとぎ話の勇者みたいですよ?おとぎ話の勇者は全ての祠を巡り、全ての属性を使えたと伝えられてますからね。ただ、複数の属性を持つのは大変ですからね?良い行いを心掛けましょう」


 ベニーも俺も、一つの属性しか魔法を使えない。それは大半の人に当てはまるだろう。だが、ジモンはたくさんの神様たちに洗礼を受け、芸を仕込みたいそうだ。フォーク片手に、高らかに宣言をしている。


 そんな様子を見ていたアリーナは頬杖をつき、大袈裟にため息を吐いていた。


「ジモン。神様たちに芸を仕込むなんて言ってると、洗礼を受けれないかもしれないわよ?あんたのおじいさんの教えを思い出しなさい。そんで、いい子にするのよ?」

「任せてくれ!たくさん物を並べるよ!そんで認めて貰うんだ!」

「ちょっと!何でもかんでも並べるのってあんたのおじいさんの教えなの!?今すぐやめなさい!片すこっちの身にもなりなさいよ!」


 ああー。あの悪癖はジモンのジジイの所為だったか。ジモンの謎が一つ分かったが、何とも言えない気持ちだな。諌めるべきなのか、大切な人の教えだからそのままにすべきなのか。困ったな。


 俺はソーセージに突き刺したフォークを置き、食事の手を止めた。


 腕を組んで天を仰ぎ、ジモンの教育について悩み始めた。頭ごなしに否定することもできないし、どうしたものか。そんなことを延々と頭の中で繰り返していると、不意にジモンに問いかけられた。


「なーグラムズ。グラムズは祠を巡ったりして旅をしてたんだろ?勇者になりたいのか?」


 俺は腕を組んだままジモンへと向き直る。痛いところを聞かれてしまったな。


 俺は勇者を夢見ていた。だが一度は挫折し、諦めた夢だ。それに、ハッキリと人に夢を語るのが何だか気恥ずかしい。


 自分に自信がないみたいで情けない気もするが、自分の実力を把握している現状、遠すぎる理想を語るのが気後れするのだ。


 ただひたすらに憧れていた頃とは違う。挫折し、自分の未熟さを知った今では、常に苦悩している状態なのだ。


 それぞれ旅をしていた負け犬の俺たち。一癖も二癖もある俺たちは周囲に馴染めず、浮いていた俺たちがただ意気投合し、自然と四人が集まった。言ってしまえば細い繋がりしかないのだろう。それが今のパーティーの現状だ。


 先程までは気にもならなかった、周囲の喧騒がやけに大きく聞こえる。自意識過剰かもしれないが、俺たちのテーブルの様子を伺っているのでは?そんな気分にさえなってくる。


 ベニーの斜め後ろのテーブルから、女冒険者たちの視線が。ジモンの斜め後ろのテーブルからは、青年の視線が。沈黙する俺は、やけに周りが気になってしまった。


 俺は以前、正式にパーティーを結成するとき。「俺は祠を巡りながら世界を旅したい」とだけ伝えた。


 俺は夢を追い続けているが、旅の目的を彼ら三人にはハッキリと伝えていない。彼らもまた、俺に伝えていないのだ。お互い様ではある。


「…いや、強くなりたいだけだ。…そんなことよりジモン、空魔石をやるよ。それに魔力でも込めて、魔力の扱いを練習するんだな。魔法を放つよりも先に、身体強化くらいできる様にならないと苦労するぞ」


 やっぱり勇者になりたいとはハッキリ言えなかった。


 クソみたいな外野が嘲笑うのはいい。好きにしろ。俺が俺自身を信じてるんだから、外野の戯言なんて気にしない。


 外野とは違う、パーティーメンバーの三人を信用してない訳ではない。ただ、何故だか彼らには、正直に伝えられないのだ。それが何故なのか、俺には分からない。恐らく俺が情けないだけなのだろう。


 俺は親指の爪程のクズ魔石を一つ、ジモンに差し出した。


 こんなんで俺は良いのか?体よりも心を鍛えるべきなんじゃないか?心ってのはどうやって鍛えたら良いんだよ…


 フォークを突き刺されたソーセージが、自分のように見えた。


 理想とは程遠い、情けない自分に俺は項垂れた。視線を下げた先、俺の左手にある刺青が視界に止まる。


 俺たち四人が意気投合し、自然と集まり出したころ。他の冒険者パーティーが装備品に同じ紋様を施してるのを見て憧れた。繋がり感があって羨ましくなった俺たちも、なにかお揃いのものを身に付けたい。そんな話になった。


 俺たち四人は他人との繋がりが希薄だった。だからこそ、全員が憧れたのだろう。


 だがベニーは目が見えない。それならいっそ、体に刻めば分かるだろうとなった。


 正式にパーティーを組むとき、ノリと勢いで入れてしまった刺青。俺は自身の左手を見つめ続けた。


「この刺青、俺は気に入ってんだ」


 俺がまじまじと左手を見つめ、パーティーを結成した頃を思い出していると、右隣に座るアリーナが俺を小突いた。


 俺は彼女の方へと振り返ると、彼女は小突いた左手をそのまま口元へと当て「あたしも気に入ってるわよ」と、口のデザインがされた刺青で怪しい笑みを作っている。


 重く沈んでいた様に感じていた心が、フッと軽くなった気がした。彼女にはいつも助けられるな。


 アリーナの芯の通った心強さ、そんな部分を俺は見習わないとな。俺はパーティーメンバーを頼ってばかりな気がする。


 アリーナは以前、正式にパーティーを結成したとき。「あたし、壊れてるから目的らしい目的がないわ。けど、強いて言うなら幸せになるためよ。それがママとの最後の約束だと思うわ」と言っていた。


 自分探しの旅、と言ったところか。アリーナは心の強い女性で体術の心得もある。壊れているとは程遠いと思うのだが…


 繊細な部分もあるとは思うが、壊れてるとはどう言った意味合いなのだろうか?


 結成当初を思い出しながら、俺が食事を再開しようとしたとき、ジモンが口を開いた。


「二人は俺たちと会う前から一緒に居たんだろ?」

「ああー。そうね、あたしグラムズに」


 ペシッ!


 ジモンへの回答をするアリーナの太ももを、俺はテーブルの下で叩いて止めた。


 細く華奢なアリーナ。それでも女性らしく、程よく肉付いた太もも。ショートパンの際、時折見えるホクロが俺には妖艶に感じる。


 自然と目線だけが落ちる太ももから、俺はすぐさま視線を外し、彼女の顔を見た。


 彼女の面白がっている顔を見れば分かる。俺が彼女を買ったとでも言おうとしていたのだろう。


「アリーナとは以前、たまたま乗り合い馬車で知り合っただけだ」


 女性を買った、なんて変な誤解をされては困る。それにパーティー内の色恋沙汰はあまり良い噂を聞かない。わざわざ禁じては無いが、俺から手を出す気はさらさらないし、勇気もない。


 首を傾げるジモンを見つめ、俺はこの子供がパーティー結成時に言っていた言葉を改めて思い出した。


 ジモンは、「皆んなに自分の存在を知ってもらいたい。俺はここに居るぞって。俺もジジイも、誰にも見向きもされない人生だったからさ。それにジジイの難しい言葉の意味も、分かるかもしれないからな」と、思い出話を悲しそうに語るのではなく、希望を持った目をパーティーメンバーへと向け、旅の目的を話してくれた。


 今までの人生、ジジイと二人相当苦労をしたと思うが、幸せになってもらいたいものだ。


 俺はジモンのことを、どこぞの貴族の隠し子なのだろうと思ってる。世間から隠しひっそりと育てられ、物を知らないのだ。


 なによりあの豪華な短剣だ。貴族や高位の冒険者が愛用するような短剣だ。はっきり言ってボロを纏ったジモンには似つかわしくない。


 ジモンはジジイに貰ったと言う二振りの短剣を持っている。一つは豪華な短剣。もう一つは手入れがされているが、やや古めかしい短剣だ。


 本当に貴族の隠し子だとしたら、恐らく相当身分が高いはずだ。魔法の適性もいくつか併せ持つかもしれないな。ジモンもいずれは、次代の勇者番付に載る大物に育つかも知れない。


 そう言えば冒険者ギルドに立ち寄るのは久しぶりだな。明日、次代の勇者番付を確認してみるか。俺と同郷のあいつは今、何位になったんだろうな。


 明日の個人的予定を考えつつ、俺は器を持ち上げスープを飲み干した。空になった食器をテーブルに置き、正面に座るベニーへと自然と視線が向かう。


 ベニーは以前、正式にパーティーを結成したとき。「…私は、過去に。人生で最大の失敗をしました。そして人生で一番深い傷を負いました。今後の人生でこれ以上の傷はないと、今でも断言できます。なので、人生で二番目に痛い思いをしてまでも目を潰し、旅を始めました。私は大魔道士のように祠を巡礼をしている、と言ったところですかね」と言っていた。


 目を潰すよりも痛い思いが俺には分からない。だが俺と同様、相当な失敗を経験したのだろう。祠の巡礼と聞くと魔法を極めるためとか、強くなるためなんて風に想像するが、ベニーは違うのだろう。それだけは何となく分かった。


 それともう一つ分かった。


 ベニーはアリーナ含め周囲の女性に全く興味を示さない。そして人生で一番痛い思いをしたと言っていた。男性としての機能を切り落としたのではないか?そういった聖職者の風習を、俺は聞いたことがある。


 巡礼と言うのも大魔道士を目指してるのではなく、神様たちへの挨拶や懺悔、または啓示を求めてるんじゃないか?


 俺は気恥ずかしさから内容を濁し、外向けの説明をした。ベニーもまた、外向けの目的を話してくれたのだろう。だが、他人の心に土足で踏み入らない。そんな関係性に、俺たちは心地よさを感じていたのだ。正式にパーティーを組むには、それで十分だった。



 三人よりも一足早く食事を終えた俺は、着いたばかりの街での予定を立て、三人へと提案をした。


「やはり旅を続ける上でパーティーランクは上げたいな。護衛の依頼を受けれれば移動をしながら路銀を稼げる。なにより今回みたいな面倒ごとに巻き込まれることもないだろう」


 俺たちのパーティーランクは七段階の内、最底辺のストーンランクだ。駆け出しのパーティーに護衛を頼むような依頼人はいない。せめて一段階は上げないとな。


「グラムズ。私は冒険者に詳しくないんですが、どの程度パーティーランクを上げたら護衛を受けれるんですか?」

「…んんー。欲を言えば二段階は上げたいところだが、一つ上のブロンズランクでも依頼主によっては受けれるだろう」


 ベニーの質問にはこう答えたが、やはり二段階は上げたいものだな。


 正式に四人でのパーティー申請をしたのが少し遅かった。もう少し早く申請をしていたら、ブロンズ相当の依頼はすでにこなしているのだ。惜しいことをした。


 ベニーも食事を終え、俺と同様唸るように思考を始めた。指をテーブルの上で組み合わせ、顔を下げ考え込むベニー。彼の艶めくストレートの髪が、表情を覆い尽くす。


 両目を塞ぐアイマスクと整った顔が見えなくなると、女性と見間違える程の髪だ。これだけ綺麗な髪の毛なんだ、そりゃこまめに手入れをしたくなるだろう。


 俺は自分の短い髪の毛に手を伸ばし、軽く指を通した。ベニーとは違い、硬く短い髪だ。サラサラとした感覚はない。


 色合いは少し似ているだろうか?俺の髪は光の加減によっては青く見える黒髪だ。以前、アリーナには深海のような髪色だと言われた。髪に指を通した手を見てみると、藁が数本くっ付いている。


 今朝眠っていたベットの一部だろう。ベニーと同様になれ、とは言わないが少しは髪や身だしなみに気を付けてみたらどうだ?手のひらの藁がそう言っている様な気がした。


 …いや待て。身だしなみ以前に今日のベットはどこになるんだ?


 事情聴取を終え、俺は真っ直ぐに食堂へと向かい夕食を食べた。料理の注文はしてくれていたが宿は取ってあるのか?


 俺は正面のベニーへと視線を移した。彼はまだ悩んでいるようだ。俺は他の二人へと更に視線を移した。


「パーティーランクがストーンなのってさー、アリーナが自分の武器を壊しちゃったりするドジだからだよねー」

「あたしよりも足が速いのに魔物と戦うのが遅いジモンのせいじゃない?短剣を2本も持ってるのに、武器の持ち腐れなんじゃないの?」


 俺たちのパーティーランクが最低なのは正式な結成が遅かったからだ。臨時パーティーとしての活動期間もちゃんと申請をしていれば、既に上がっていたはずだ。


 この街で少し依頼をこなせばすぐにでもランクは上がり、護衛をしながら次の街にでも行けるだろう。


 いつもの掛け合いをしている二人に、俺は心配事を尋ねた。彼らは俺よりも早く事情聴取から解放されていたのだからな。


「二人とも、今日の宿は取ってあるか?」

「「…あ」」


 今日は冒険者ギルドの二,三十人が一堂に雑魚寝をする大部屋で眠ることになりそうだ。今からでは宿は取れないだろう。


「今日は大部屋だな。明日から安宿を取ろう。二、三日の休息日を取ってから依頼をこなし、パーティーランク上げと路銀を稼ごうか。当面の目標はそれで良いか?ベニー、お前も異論はないか?」


 二人は俺の提案に頷き返した。俺はベニーにも確認すると、彼も同意してくれた。


「構いません。元々仕事の多いこの街に稼ぎに来たんですからね。見知らぬ街ですし、情報収集と少しの休息を挟んでから稼ぎましょう」


 当面の目標を立てた俺たちは食堂を後にした。


 食堂の二階にある宿は個室も大部屋も既に埋まっている時間帯だ。俺たち四人は食堂から冒険者ギルドへと伸びる廊下を歩き、受付へと向かった。


 そして俺は、ジモンとアリーナへ受付での大部屋申請を頼んだ。二人が歩き、受付へと向かっていく。


「ベニー、俺と二人で不寝番をしよう。女と子供を連れての大部屋は心配だからな。それにこの街はまだ不慣れだ。いいか?」

「ギルドの大部屋なのに心配症過ぎませんか?まぁ、良いですよ。明日からは安宿ですからね。グラムズは朝の日課があるでしょう?私が先に番をするのであなたは寝てください」


 ベニーにも日課がある。だが俺と違い彼の日課はほんの数分で済む。だからだろう、夜中から朝方に掛けての不寝番を、彼は俺に譲ってくれた。


 受付から戻った二人を連れ、俺たちはギルドの大部屋へと向かい、階段を上がった。


 冒険者ギルド最上階の三階まで上り、通路の一番奥にある一室。寝泊まりの出来る大部屋は間仕切りも無く、家具も毛布一つすらない。ただの床に大勢の冒険者が横になっていた。


 なんの汚れなのか分からないシミ。武器や防具が擦れ、細かい傷だらけの壁と床。しっかりと清掃はされていても隠しきれない経年劣化が目につく。


 背負い袋や自分の腕枕で横になる彼らの間を縫い、俺たちは大部屋の一角へ、ミシミシと床板を軋ませながら向かった。四人がギリギリ横になれるスペースへ俺たちは横になり、眠りについた。


 ベニーだけは壁にもたれるように座り、不寝番を務めてくれる。


 周りに居るのは金のない冒険者だらけだ。物取りが居るかもしれないし、アリーナとジモンが心配だ。最悪襲われるかもしれない。


 それに俺自身、大部屋には良い思い出がない。



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