クラッシュ・スター(キズモノ)。
傷を負い果てた星々は再び運命を紡ぎ出す。織女と牛郎の絆は再び灯された。
男の言葉を反芻しながらジュウゴはFが居るであろう部屋の前に立ち、伝言を声に出す。
「・・・ユキが戻ってまいりましたが、発熱がひどく現在来ることが叶いませんので私が参りました。…彼は聖命使としての役割をちゃんと熟せましたよ。……私は少しこの星を離れますので、ユキのことをよろしくお願い致します。」
返事こそ返らずとも内容はしっかりと彼に届いていると分かるからこそ、ジュウゴは館を早々に立ち去った。因果に手繰り寄せられた男の情報に思いの外身の内の使命感にも似た思いに背を押されていたのも一助となり彼の言葉を無視する事が出来なかったのもある。何故なのかは分からない。魂一つで輪廻を繰り返してきたクラッシュ·スター(キズモノ)の生き様の何処かで今回の化け物と接触している気がしたのだ。
(・・・蛟・・・まだ生きていたのか・・・)まあ、四凶も神の一体であるということだけに、倒されようとも生き返る存在ではあるが、その存在は寓話に出てくるドラゴン達よりも質が悪く、八岐の大蛇よりも変生性が高い。数多の星々を喰らいつくし、運命の物語を蝕む存在なのだ。そうやって砕かれた星達は器を変えて生まれ変わろうとも蛟の呪いで碌な人生を送ることができない。
そういう存在達が疲れ果てて巡り着く先こそがこの時間が流れぬ最果ての空間である。輪廻に疲れ、因果から逃れ、犯した罪を償う…そう言う存在達にとって、この地は確かに理想郷であった。とにかく戦闘準備をする為にジュウゴは売店に向かうことにした。ユキを待たせない為にも、的確に処理する必要があったからである。本来なら依頼として受けるべきなれど、直接伝えられた依頼は受付課には案件はいかない。受付課に受理されるのはFが認めた内容だけである。売店に向かう途中ジュウゴは一人の女性と会った。
「…貴女は確か受付課にいる…ユリさん、ですよね?」ジュウゴの言葉にユリは嬉しそうに頷いた。「…昨日、ユキ君の受付をしました。お元気そうで良かったわ。聖命使は自らの命を削りながら人間達の物語を修正していく存在…その中でも薄命の呪いを受けたユキ君はさぞかし辛いでしょうに、立派です。」ユリの言葉に親代わりとなってきたジュウゴの表情が緩やかになる。「……ありがとう。魂を引き裂かれるほどの絶望の中でも、あの子がいればこそ生き抜いてこられた。皆は我々にそんな優しい言葉を投げはしないのに、ユリさんは優しいな…」
ユリの鼓動が高鳴る。(…言いたい…貴男と私は縁深い仲だったと・・・!)ユリはその昔、別の銀河で夫婦であった。だが、父である天帝の酷い罠に嵌まり、二人は夕雅の河に引き裂かれたのだ。その折に関わった妖魔の名も【蛟】である。その頃の蛟は蛇の妖魔と大差ないほどの魂であったが、あれから幾億光年、人間や神を喰らい神格を持つ魔物となった。
(…私の父の天帝を唆し、夫の牛郎を河の向こう側に隔離して父を喰らって神へと進化条件を満たした。進化前では牽牛に負けると分かっていたからこその作戦だった。)しかし、父を殺された織女は泣くことしかできず、牛郎はその命を賭して天帝を救い、代わりに蛟と共に入滅してしまった。天帝は騙されて忠臣を失った牛郎を憐れみ、生前飼っていた牡牛共々星として奉った。それだけしか天帝には出来なかったのである。
織女は泣くことしかできず、ただひたすらに機織を続けた。それだけしか愛した牛郎に報いる術を持たなかったからである。反物に染み付いた涙は天の衣を透き通り星となって、銀河の星々の集合体の【七天結羽河】になった。後の銀河系の世の【天の河】と呼ばれる河の誕生の瞬間でもあった。この時流した織女の涙は時代を世紀を経て【織姫の涙】となり一人の仙女を救う一助ともなるが、既に入滅した織女は知る由もないのである。彼女の星は哀しみと傷を負い二度と父親と会えない銀河に天の河に因って運ばれた。…愛した牛郎ともう一度会いたいと願いながら…その魂の願いを聞き届けたのがAである。無数の銀河すべてに存在する女神たちのまとめ役であり、自身も美しい容姿の美青年ではあるが、全ての女神がその尊顔を拝することはない。傷つき、それでも愛を見失わない女神だけに彼は慈悲の手を差し伸ばすからだ。女神への応護は等しく振り注ぐが、決してその姿を見せることはない。彼の力で聖命女使の肉体を経て目覚めた彼女はこう説かれた。
【……新たな聖命女使·ユリよ。先ずは、君の誕生を心から祝おう。君の愛の灯火が私に救難信号を届けてくれたのだよ。君は、君の愛に再び殉じる覚悟があるだろうか?この銀河には君が生前愛した男がいる。しかし、深く傷を負ったその宇宙御魂には君と愛し合った過去が記憶の奥底に封印されてしまった。人間達のように巡り合い愛し合う…そんな未来は忙殺される毎日を経てもないかもしれない。それでも、耐えられますか?】
(…私は、私の運命に感謝した。愛を喪っても手放さなかったその愛こそが、銀河の海原を飛び越えた先の牛郎と再び添わせてくれたのだから。)ユリは決意溢れる眼差しを記憶もない彼に向けた。「この依頼の間は私がユキ君の面倒をみます。だから、安心して無事に戻ってきてくださいね。」
ーーージュウゴは何処か懐かしい優しさに触れて、差し出されたユリの手を握り返す。「・・・はい、行ってきます。」その男に記憶があろうとなかろうと、彼女の愛が潰えることはない。ユリはAとFの慈悲を深く噛み締めるのだった。ーーー
しかし、牛郎は記憶も命も一度は消滅し、再び再会したはずの妻と彼女との記憶を喪っていた。
…と、言う織女と牛郎の私的解釈妄想ストーリーをpixivにあげたオリキャラ含めて現在進行中です。




