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案件78「賢者が賢者じゃないことはよくあること2」

 土の“マテリアル”の魔法において最強。それが『サンドキャッスル・トランク』だ。大地よりいでたトランク《幹》は、全てを砂の城の如く割り砕いていく。


 故に、ダンジョンの入り口まで綺麗さっぱり崩落しているわけだ。


 なるほどと、記者Aこと俺は惨状の理由を把握した。


 語り手の男であるファラエの説明を、色々と推測した上で構築してみたが。


「……」


 彼が小さく肯く程度には、ある程度近似した物語を作れているようだ。


 当のE氏。ご存知の通りエントラは、“魔エネルギー”を使い果たして眠っていた。


 今の話をしたという事実が知れれば、きっと子供心ながらに深い傷を残すかもしれない。


 賢者が賢者じゃなかった、などという話は割りと多いので気にしなくても大丈夫なんだけどな。役立たずをパーティーから追い出したりした後、後悔するなんて日常茶飯インシデントだ。


 この程度のブチギレも、俺達のシマじゃノーカンだから。


「盛大にやらかしたみたいだけど、これで他の兵士達も入ってこれないから良しとしましょう。こっちへ来る時にある程度の侵入者は倒したし、奥に向かいながら残りも掃討するわよ」


「うん。じゃあ、賢者を背負っていくよ」


「良いわ、今回も私が背負うから、後ろから支えて頂戴。……これが終わったらファラエにも甘えさせて上げるから、許して上げて。ね?」


 おっと、腕を拘束されている状態でそんなことができるのかとでも言わんばかりだな。大丈夫、一応は子供一人ぐらい背負える。


「あ、いや……。別に、そういうわけじゃ……」


 エントラだけ密着してズルいと言いたげにしていたファラエを説得して、背中に大きくなった体を預かった。


 これで二度目だが、その度に大きくなっているように感じた。


 ファラエは思わず顔をこすり、顔に出ている言葉を消そうと努めた。ブロスのように強引でなければ、こういうヤキモチを見ているのも悪くはない。


 さてさて、こちらも急いでダンジョンの最奥へと向かわないと、ヤキモチでは済まない熱々のお怒りを受けることになる。おわかりの通り、リーサだ。


 せっかく会いに来たというのに、ガラムさんとの戦いの後からずっと隠れっぱなしだった。そのため、兄妹の戦いが終わった後で姿を見せたのに、気付かず奥へ進んでしまったのである。


 勇者ちゃんがダンやブロスの待つフロアに居なかったら、一体どれだけのショックを受けるかわかったものじゃない。


「急ぐわよ!」


「はい!」


 急いだ。


 本当にギリギリだった。


「や、やめろ、リリシアっ!」


「止めて欲しければ、あること無いこと全部ぶちまけてもらおうか?」


 無いことまで話したら、本当に脳髄ぶちまけるつもりなんでしょう?


 俺がたどり着いた時、リーサはブロスの首を締め上げて何かを吐かせようとしていた。ダンは戸惑いつつもケロッとしているから、片方だけが口を滑らせたんだろう。ほら、ダンジョンマスターのブロスが泡吹いて意識を失ってらぁ。


 もちろん、エントラはファラエに預けている。


「な、何をしてるのよ?」


 二人の間に割って入るのは一旦止めておいて、傍観者に徹しているダンの方に訊ねた。


「おう、勇者か。リリシアが、ブロスから勇者の匂いがすると言ってな。どこかに隠したのではないかと詰め寄ったんだが、見事にカマかけに引っかかってあの様だ」


 端的に起こったことを説明してくれて、呆れたように肩を竦めてみせた。


 抱き合っていたときの匂いを嗅ぎ分けるほど、さすがのリーサでもできるはずがない。……ないよね?


 このまま見ていても仕方ないので、止めにはいることにする。


「こらぁ、リーサ。それぐらいにしておきなさい」


 スッと耳元に顔を近づけて、純白の小ぶりでプルッとした耳朶(みみたぶ)へと話しかけた。


「ヒャウッ!」


「フゥー」


「ヒゥン……」


 追撃とばかりに息を吹きかけてやった。


 解説の時は色々としてくれたので、悪口を言って止めるのも忍びないと思ったのだ。これならご褒美だろ?


「落ち着いた?」


「すっごく落ち着かなくなったぞ……」


 ちょっと利き過ぎたようで、服まで真っ赤になってもじもじと太ももをこすり合わせていた。


 気づかなかったのは本当に本気だったのだろうかと思ったが、結構な部分でうっかり気配を逃すことがあるのでそうなんだろう。


「大丈夫、ブロスとはなんにもなかったわ。ちょっと一緒にダンスをした程度よ」


「そ、そうなのか……」


「こんなに気になるなら、また時間があるときにでも付き合ってあげるわ」


「……」


 ちゃんと説明して慰めると、リーサも納得してくれたようで小さく首肯した。


 そうしていると、ダンが訊ねてくる。


「ところで勇者よ、あの大きな揺れはなんだったんだ?」


「あれはねぇ。エントラが『サンドキャッスル・トランク』を使ったのよ。私の仲間って、ここまでのことが出来たのねって驚いてるわ」


 ダンジョンマスターのくせにできそうにないことなので、ちょっと嫌味のつもりで言ってみた。こんな小さな子どもにできて、大人のはずのダンは出来ないのかと。


「俺にもそれぐらい使える」


「えっ?」


「え?」


「嘘でしょ……?」


 馬鹿にしたら、馬鹿に出来なかったってオチだった。


「たどり着いたであるぞ、元勇者とその他ども!」


「嘘ではない。あんな魔法は人外の所業だ。使う気は起こらん」


「貴方が普通に人外なのよ?」


 このやり取り、どっかで……って、今の誰だ?


 見渡せば、俺と何人かは良く知っている人物の顔があった。

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