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案件72「この兄妹は・・・3」

 カキーン。


 響いたのはまさにそんな感じの音だった。キレイなホームランボールを打った時みたいだ。


 ユウガオが、庇うように槍の軌道へと飛び出して“短刀Ⅲ”で受け止めたのである。しかし、無茶な体勢で止めたせいで武器を落としてしまった。


「兄者……!」


「大丈夫、でござるか?」


「大丈夫ッス。無理しなくても大丈夫ッスよ? まぁ、助かったッスけど」


 大技とまではいかないまでも、かなり仕留めに来た一撃だった。


 ユウガオも、受けた手がやや痺れているらしい。俺から見て、アサガオが言う通り問題はなかっただろう。


 そしてまた、パキラとの睨み合いが始まる。


「……拾っても良いでござるか?」


「ダメに決まっているだろ」


 当然のことを拒否されて、ユウガオは落ち込んだ。


 この膠着状態は結構拙い。


 まず、ユウガオが“短刀Ⅲ”を拾いに動けば、盾を失ったアサガオに槍が飛ぶ。一秒強で、“蒸気銃Ⅱ”の銃弾を回避して首を刈るくらいはできるからな。


 もちろん、アサガオが拾いに行くと、武器を持たないユウガオの首が飛ぶ。


 どこぞの女斥候達ほど油断はしてくれない。


 後、下手に“蒸気銃”のバックパックに蒸気が貯まれば暴発の可能性だってある。


「二律背反ですね。これでは、余裕で目標の2分を超えそうですが?」


「困ったな」


 もう声の主を探すことさえ諦めたリーサ。


 まぁ、最悪の時は手を貸すことも考えるけどさ。このままリーサに失望させたままってぇのも癪だが、今直ぐどうこうしようっていうのも二人に対して失礼だ。


 俺も背に腹は変えられない状況だな。


「アサガオ、左方からドデカイのをかましてやるでござる」


 ここで兄妹が動いた。


 シンプルに攻撃の隙を突いて拾いに行く作戦かと思ったが、声に出していては効果など期待できない。


 何かのフェイントかと目を凝らしても、ユウガオがそれらしい仕草を見せた感じはなかった。長く一緒に戦ってきたのだから俺は逃さない自信がある。


 なら、二人だけでしかわからない符丁でもあるのか?


「わかったッス! 『ウォーティング』! 『クラッシング・アイス』!」


 集められた水が固化し、パキラに向けて投げつけられた。


 来ることがわかっている攻撃など、簡単に避けられてしまうのは明白だ。大きさでゴリ押すというわけでもなく、パキラが少し横へ移動すれば素通りしてしまう。


 そもそも、大きさが邪魔をして早く飛ばせないのだから、軌道を見てからの回避余裕でした。


「勇者の部下がその程度かい?」


「うーん、ダメッスよ。兄者?」


「まぁ、まぁ。まだ準備段階でござるよ。『ウィンド・バースト』!」


「『ウィンド・バースト』!」


 パキラほどの実力者に、愚策な戦いなど利かないことはわかっていた。


 アサガオはまだ隠し玉があるようだが、また左方からの攻撃を繰り出すだけだ。それも、同じ竜巻の魔法で相殺されてしまう。


「トッ」「クッ」「ッス!」「ざる!」「キャッ!」


 巻き込まれていく風に少しバランスを崩しかけた。俺やリーサは、髪のセットが崩れるくらいで済んだが。


 打ち消しにくることを予想して、風圧でパキラを縛り付けるつもりだったのだろうか。


「防戦だけかな?」


 槍を構えて、ユウガオを挑発してきた。


「大丈夫ッス。まだまだこっちから行くッスよ!」


 アサガオは挑発に乗ってしまったのか、大事な銃弾を放った。


 魔法があるとは言え展開に僅かなラグがあり、これで敵を牽制する術がなくなった。


「『ミスト・ヴェール』」


「敵の眼の前で隠れてどうする?」


 水の膜をまとい、姿を見えづらくしたアサガオ。


 遠目に見えなくする――もしくは迷彩――程度の役割しか持たない魔法である。見えているところでやっても、モヤのように人型がわかるので何の役にも立たない。


「こうするんでッスよ!」


 アサガオが走り出し、パキラの側面へと走った。


 銃弾の補充もなしに!?


「だから無駄だっと! なっ!?」


「はっ?」「ほぉ」


 当然ながら、俺もリーサもパキラも声を上げた。


 一方は何が起こったのかわからないと、もう一方は感心したのであろう声を。直ぐ近くにいたはずのパキラでさえ、自身の右側へと槍を振るったことで漸く異常を察知した。


 直撃したはずの斬撃は、モヤを切り裂いて素通りしていく。


「何が無駄なんでござるか?」


「……」


 パキラにしてみれば頭がおかしくなったかのように感じたはずだ。


 気がつけばユウガオが“短刀Ⅲ”を拾っていて、アサガオに横側面を取られている。攻撃した側とは反対の左を。


 俺達からは、普通に兄妹が回り込んで行ったようにしか見えていない。


 それなのにパキラが攻撃したのは、全く別方向だ。


「えー、解説のリーサさん。何が起こったのかを……」


 リーサに尋ねた。


 何らかの魔法による幻覚かと思ったが、俺の『毒使い(ポイズナー)』みたいな力でもなければ無理だろう。


蜃気楼(しんきろう)だな」


「蜃気楼?」


 俺が鸚鵡返しになるほどだ。もっと説明することはないんですか?


「砂漠とかで起こる現象の、蜃気楼よね?」


 地平線に隠れた景色が浮かび上がるとか、逆にあるものが隠れてしまうって自然現象だ。


「その蜃気楼で間違いない」


「魔法じゃないんだから、そんな都合良く分身を作るようなことなんてできるの? だいたい、こっちからは見えなかったじゃない」


「都合よくも無ければ、キレイじゃなくても良い。光の加減だから、方向によっては見え方も違うさ」


 全くわけがわからないよ。

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