案件71「この兄妹は・・・2」
今は既にブロスと離れているものの、ここで兄妹に見つかると言い訳が苦しくなる。
敵から隠れていたことにするか?
ユウガオとアサガオがこっちへ来る様子はなく、リーサのハッと息を飲むような音が聞こえるだけだ。
「ゆう……いや、違うな」
リーサが言いかけて否定した。
おいおい、どうしたんだ?
気になって瓦礫から頭を僅かだけ出して、起こっていることを確認する。リーサ達と対峙している長髪の人物が、どこかで見たことあるように感じた。
「パキラ殿? またお会いしたでござるな。お元気だったでござるか?」
ユウガオがにこやかに名前を口にして、漸く何者なのかを理解した。勇者ちゃん母が昔にファンをやっていた、元ガーデンロード兵で現探索者という人物である。
しかし俺は、パキラを女性だと思っていなかった。セミロングの黒髪をハッチング帽で隠していたこともあるし、何よりも完全に男として振る舞っていたからだ。
「何が、お元気だったか、だ! ふざけるのもいい加減にしてくれ! 後、殿などと白々しい!」
作っているのかそれとも元からなのか、低いめの声でユウガオを威嚇した。
「パキラ? 誰ッスか? 変装させた勇者様に似ているッスけど、どっかで見たような見なかったような……ッス?」
アサガオはあまり記憶にないようだった。しかし、思わぬ発言で気付かない内に影響されていたことを知る。
覚えが無いのも仕方ないため、ユウガオはいつもの通り説明する。
「えーと、『やられ方が格好良いパキラ』でござるよ」
「……あぁっ。わからないッスね」
って、わからんのかーい!
「兄妹……? して揃ってふざけたことを。ここで雪辱を晴らさせて貰う!」
言って、パキラは黒々とした柄と赤々とした穂先の槍を構えた。
俺は心の中でツッコミを入れつつも、避けられないであろう戦いの行方を見守ることにする。
「3対1で……」「あぁ、私は手伝わないから」
「2対1でござるが、構わないんでござるか?」
リーサは頭数に入らないというだけで、割とパキラにも勝機がありそうだった。
ためらいがちな確認に対して、射抜くように釣り上がった瞳を僅かに伏せた。なかなかの自身の現れだが、俺の見立てではユウガオとトントンってところなんだが。
「さっさと片付けろ。2分で終わらなかったら、三人まとめて吹き飛ばす」
暴虐の女王らしいセリフを吐き捨て、完全に観戦モードに入るリーサ。
スタートの合図のために手を上るものの、パキラはそれを手で制止する。
「最後に一つ利かせて欲しいんけど」
「何でござる?」「うん?」「手短にな」
パキラが慌てた様子で質問を投げてきた。
リーサは、早く勇者ちゃんに会いたいのか急かせかしたような態度を見せる。別に逃げたりしないから、ゆっくり見ていこうぜ。
「変な……ズタ袋を被った短パンの男をけしかけたのは貴女? ついさっきから、迫ってきて怖いんだけど……」
パキラの不可解な訊いに、何やら引っかかるものを感じた。
どこかで見たことのあるような容姿を頭の中で思い浮かべれば、思い当たる人物が直ぐに出てくる。ごめん、それ俺がやったことだわ……。まさか、変装した勇者ちゃん似の娘がいるとは思わなかったし?
しかし、それをアサガオに向けるというのはよくわからない。
「私が、男をけしかけるような女に見えるんッスか?」
当然彼女は、それは見当違いだと言いたげに答えた。
「悪いけど、見える」
「そうッスか?」
なかなか鋭いなパキラ。
「もう良いか? さっさと始めろ」
「……」
追求したかっただろうが、ダンジョンマスターであるリーサが急かすものだから諦めざるを得なかった。
「仕方ない、始めよう」
パキラが槍を構えた。いやにユウガオが警戒しているのがわかるから、たぶん普通の武器ではないだろう。
「見た目からしてヤバそうッス」
「呪いの槍でござるよ。とりあえず、いつも通りやるでござる」
「了解ッス」
兄妹で軽く会話をした後、武器を引き抜いた。
ユウガオが“短刀Ⅲ”で、アサガオが“蒸気銃Ⅱ”だ。
いつも通りとは言ったものの、上手く戦えるかわからないな。修行やリーサとのコンビを乗り越えた新生アサガオに、果たしてどれだけユウガオがついていけるか。
実践を見たリーサの方がわかるだろう。
今の隙にブロスはダンの待つ部屋の方へと逃げているため、少しは自由が利くようになった。瓦礫の山から顔を覗かせて尋ねた。
「この戦いどうみます? 実況のリリシアさん?」
「うーん、ちょっとしたことで天秤が傾くだろうな。あの呪いの槍“フェリダーラース”のネタを知っているから言えることだが、最悪が引き分け……」
神妙な表情をするくらいに、あの槍はヤバい代物らしかった。
「うん?」
不自然なことに気づいて、リーサはこちらを見た。しかし、俺は既に側面へと回り込んでいた。
何も見つからないので首を傾げる。
「気の所為か……?」
「では、2分以内とおっしゃいましたが、実はかなり厳しい設定であると?」
「いんや、2分は制限時間だ。その時間で終わらせるくらいじゃないと、最悪になる。えっと……?」
そっちは質量を持った残像だ。じゃなくて、俺は普通に瓦礫の正面側へと来ていた。
リーサが視線を戻したらまた裏側へと戻る。
「おい、何か言ったか?」
今度は気の所為とは片付けず、アサガオ達に声を掛けた。
「何も言って無いッスよ?」
「ハァッ!」
「ゲッ!?」
対峙して睨み合っていたパキラは、アサガオが僅かに視線を逸した瞬間にしかけた。
おっと、これはリーサさん戦犯ですねぇ。




