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案件70「この兄妹は・・・1」

 ガラムさんが消えた後、ブロスと二人っきりとなった。そして虚しい残された部屋があった。


 部屋と呼ぶには無残な姿で、ところどころが煤だらけになって砕けている。廃墟の一角かなにかと言われた方が納得できる。天井からパラパラ落ちてくる小石も、危うさを演出している。


 後、暑い……。


「さーて、勇者っ」


 クルリと赤鬼の顔がこちらを向いた。そこにあるのはヤンチャなお兄ちゃんな表情ではなく、少し興奮を浮かべたケモノのものだった。


 ハァハァと、なんとか理性を押し留めているのが伝わってくる。


 野獣になりきらないだけ、ブロスの頑張りを褒めてやろう。


「考えるとは言ったけど。って……お、落ち着いて、痛っ!」


 ガシッと肩を掴まれた。


 茶化して終わりにしようとしたが、それでどうにかなる問題ではなさそうだ。


「今の戦いで、俺も久しく燃え上がっちまったぁっ。もうちょっとやそっとじゃ鎮火しねぇぞ!」


 ブロスがグイグイ押し込んでくるので、崩れた天井の残骸へと下がった。


 こちらとて、簡単に「はい、どうぞ」と操をくれてやるわけにもいかないんだよ! もちろん、ブロスのことが嫌いとかそういうことじゃなくて……。


「ね、ねぇっ。こういうのは、心の準備とか、もっと雰囲気なんかを大事にねっ?」


「勇者!」


 必死に断ろうと、宥めようとした。


 しかし、ブロスも食い下がってまっすぐに見据えてくるのだ。男は皆、好きを伝える時に同じ顔をする気がする。


 エントラやファラエと同じ、情愛と誠実の混じり合った表情がそこに見られる。


「お前の傷つくことはしたくないと思ってる! 気持ちを収めるため、世話好きってことにして色々としてきた! ワガママかもしれねぇけど、少しぐらい見返りがあって良いんじゃねぇかっ?」


 ブロスが抱き寄せてきた。体が密着した所為で、僅かな物音さえ伝わってくる。


 その言い分だって最もだと思う。


 ダンジョンマスターに無償の愛など期待しても無駄だし、自身でもそんな一方的な気持ちになど納得できない。


 ダンジョンの共同経営こそ断られたが、これまで良くしてもらった恩を考えれば何かお礼をしても良いと思う。


 だからって、色々と順番を無視するのはどうなんだ? あぁ、でも、最初にぶっ飛ばして求婚したのはこちらか。


 目まぐるしく思考を回していると、不意にそれを感じた。


「ブロス……!」


「勇者!」


 突き放すでもなく互いに名前を呼んだ。


 そのまま跳び上がって、瓦礫の山の向こうへダイブする。30秒くらいの間があった後、何かがズバーッて滑ってくる。


「……」


 うつ伏せの状態で停止して、白い少女はしばし沈黙を保った。


 なんでリーサが、すっごい速さで飛び込んでくる? いや、それよりも、この状況を見られたらどうなるやら……。ブロスと合わせて、五回くらいは殺されるんじゃないか?


「……だぁっ!」


 長い沈黙の後、邪智暴虐の女王リリシアが顔を上げた。


 よし、泣かなかったな、偉いぞ。


「なんだ、アイツラはっ? 盗賊の小娘を届けにきてやったというのに、飛んでるところを相乗りだとっ?」


 どうやらアサガオを連れてきてくれたようだ。ありがとう!


 反面、道中で何か邪魔が入ったようである。


「チッ、小娘め。振り落とされたか」


 呆れて言い放つも、結構ヤバイことやってますね。


 滑り込んできた勢い……は完全にはわからずとも、それなりの速度が出ていたことだろう。よって、そこから転げて無事な方がおかしい。


「まぁ、死んではないだろうから待つか」


 これまたリーサらしい選択をして、瓦礫を椅子にするため近寄ってくる気配がする。


 ブロスも身の危険を感じたのか、情動など忘れて死角へ逃れるために動く。勇者ちゃんの体を抱え、一緒に四つん這いになって移動する。


「ぅん?」


 さすがに僅かな物音を聞き取って、上から覗き込んだはずである。


 しかし、この時には既に瓦礫の側面へ。リーサも横へと回り込んでくるので反対側へと逃げる。


 一周回って探しにくる。


 こちらも一周回る。


「む?」


 逃げ切った……。逃げ切ったぁ~!


 リーサは気のせいと片付けて、瓦礫に腰を降ろした。


「……」「……」


 ブロスと共に安堵の息。


「バッ!」


 なんて油断すると思ったか?


 もう一度はくると読んで、側面へと二手に分かれる。


 これで漸くリーサは諦めてくれた。彼女の方にも動きがあったらしく、足音がいくつか部屋に入ってきた。


「あー、待っていてくれたんッスね」


「お前を連れて行かないと、勇者に嫌われかねないからな」


 アサガオの言葉に、ツンケンと答えるリーサ。


 続けてユウガオの声も聞こえてくるではないか。途中で合流できたようで良かった。


「素直じゃないでござるなぁ。拙者が妹に向けるこの気持ちのように!」


「よし、もう一発殴るッス!」


「兵士どもの壁を超えるのに、私にくっついてくる馬鹿がいるとは思わなかった。滑り落ちたのもその気持ちが重すぎたからだしな」


 リーサも呆れるほどか、この兄妹はぁ……!


 アサガオがユウガオに『マジック・センテンス』さえも割砕く拳を繰り出している音が聞こえる。


 愚かな兄である……。それでなくとも、リーサのところでストレスを溜めてきたというのに。


「じゃれ合うのもそこまでだ。私がお前らをめちゃくちゃにしない内に、さっさと勇者を探してこい」


「はいッス……」「はいでござる……」

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