案件69「異世界に来ても過労死寸前!?7」
ガラムさんに止めを刺そうとするブロスの前に割り込み、譲らない覚悟を持って訊ねた。
もし大人しく話してくれない場合、少し手荒な真似をしなければならない。多少なりとも痛みに耐える訓練を積んでるだろうから、少しで済むかも不明だ。
あまり誰かを廃人にするような毒の使い方はしたくないため、ここで口を割ってくれるよう祈る。こちらの世界の住人が、薬などに対してどれくらい耐性をつけられるのかもわからないしな。
ブロスはもうちょっと乱暴なやり方が好みかもしれないけど、今回は譲って貰う! さっきの約束について加点もしてあげるから……。
「甘いな、勇者」
ガラムさんが発した言葉はそれだった。
ダメかぁ……!
俺の気持ちを察してか、期待はずれのことを言ってくれる。
もしかして、ガラムさんもちょっと乱暴な方が良かったりする?
「そんな甘さにほだされたのは確かか……。一つくらいなら、大人しく教えてやろう」
「マジ?」
「何を驚いている? 一つだけなのが気に入らないか?」
俺が浮かべたおかしな表情を、そっちの意味で捉えたようだった。
これも、ガラムさん流のからかい方なのだろうか。
いずれにせよ、こちらとしては一つ答えてくれるだけで十分なのである。敗因はそこを見抜けなかったことだぜ。
「じゃあ、単刀直入に聞くわ」
「む……」
俺のセリフに、自分の過ちに気づいた様子だった。
しかし、一度言った言葉はもう飲み込めないぞと、ニヤリと口を吊り上げて笑ってやる。
「聞きたいことは、教会の目的よ」
顔を髭面へと近づけて、苦労させてくれた分も含めてやり返してやった。
「言った手前、答えたくないとはほざけないな……。しかし、それを知りたい理由がわからない」
「簡単な話、相手にしないといけない戦力なんかは内の間者が持ってきてくるわ。でも、そういう組織の事情は各地を回らないと行けなくなるの」
「時間がないから、俺に聞くと? しかし、それを知ったところで争いが終わるわけではないだろう?」
「えぇ、楽にはならないわ。けどね……」
溜めを作って、顔を離した。ブロスが何やら不機嫌な唸り声を発し始めたからだ。
なぜ教会がガーデンロードに加担するのかを聞きたい理由は、言ってしまえば罪悪感を無くすため。
「私はその望みを全力で叩き潰さなくちゃならなくなるの。理由がわかっていれば、可能性は低いけれど少しぐらいは譲ってあげられるかもしれない。それが出来ない場合、自分の心を守りたいのよ」
自分の弱さを隠すように振り返って、気持ちを話していった。
勇者としての全力を出すってことの意味を、ガラムさんは知らないだろうけど。
「……なるほど。意外と繊細で驚いた」
「馬鹿にしてるでしょ? まぁ、さっさと教えて頂戴。話を聞く前に、猛獣が貴方をぶっ飛ばしそうなのよ」
ガサツな奴だと思われていたのは心外だ。
もう少しゆっくりと皮肉の応酬などしていたいところだが、生憎とそうもいかないらしい。
ブロスがガラムさんを邪魔に思い始めて、排除のためにボルテージを上げている。これには騎士団長も苦笑を浮かべて、急ぎ足で話してくれる。
「こっちの秘密はある程度知っているだろう? キレイなことばかりをやって行けるほど、こちらも楽ではないんだ」
「とんだ不良神官どもね……。アヘンの売買やスノードロップとの癒着、ガーデンロードに手を貸してまで他の何を企んでるのよ?」
「そこまで知っていたか。侮れないな。まぁ、簡単に言えば名誉と金を手に入れた者が、次に何を求めるかだ」
ガラムさんも呆れるほどの情報収集能力なのは、今更なことだろう。諜報員の娘さんを持っているから、余計に勇者ちゃん組の凄さがわかるのかもしれない。『マジック・センテンス』のことを考えれば、この世界の情報伝達の速度はそれほど遅くないはずだ。
ユウガオもさっさと『マジック・センテンス』で情報を送ってくれれば良いものを、何か変な拘りがあるのか口頭でしか話してくれない。
さておき、ガラムさんの問いの答えを状況から察することは楽勝だった。
コロンビアである。
「国、ね」
「あぁ、国だ」
スノードロップがガーデンロードを獲れば、雪原の国の空席に教会が座るって腹だ。そういう確約をしている可能性が大きい。
「ガーデンロードに手を貸しているというよりも、動きを完全にせき止めるためね」
「そういうことだ。勇者を味方につけることができず、かつダンジョンの全ても手に入れられない。詰みだ」
二人で納得し合って、互いに呆れた声で頷いた。
やっぱり、この仕事をすること自体は嫌だったんだ。どちらかというと、勇者ちゃんを倒すという名目だけで戦ってたもんね。
内心、止めてくれたことに感謝してくれてる?
「やることがエグいわねぇ。でも、これで胸を張って負けを報告できるわよ」
手口がヤクザ並の詰ませ方だと思いました。
なので、最後の締めは化物に任せて全部ぶち壊して貰うとしよう。
「漸くか! 待ちくたびれたぜぇ!」
ブロスの嬉々として振るわれた拳が、国を掛けた策謀を一つ破壊し尽くした。




