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案件67「異世界に来ても過労死寸前!?5」

 さぁ、2対1で仕切り直しと行こうじゃないか。


 と、そうしたいのは山々なのだが、今の俺は半人前の力も出せれば良い方だろう。


 ガーデンロードの先発隊を凌いだ翌日に、土の“マテリアル”ダンジョンは休日を迎えて封鎖された。そして、今日で休み明けの三日連続勤務となるわけである。


 日に4時間程度の仮眠こそとっていたものの、やはり激務との兼ね合いを考えると辛い。


 こちとら自分の命に限らない色んなモノを抱えている。気力だけでなんとか凌いで来たが、能力の低下は避けられない。


 巡回魔族を投入すれば休めはしても、またレベルを上げ直さなければならなくなる。


 魔族を守って、魔族に守れるというおかしな勇者がここにいた。


 グリーンネストの常識からすれば異質なのだろうから、ガラムさんの反応もわかる。


 いや、そんなことより……何よりも。


 目の下のクマをブロスに見られるのは恥ずかしい! この三日で、あられもない酷い顔になっていると予想できんだよ……。


「久しぶりに見たかと思えば、酷い顔じゃねぇか。ジャングルの人間共のメイクが崩れたみたいになってるぜ」


 ほら、そうやって直ぐに憎まれ口を叩く。


 顔を覗き込むんじゃない!


「大丈夫か? ちゃんと、ご飯は食べてるのか? バランスは大事だぜ?」


 顔を逸したら逸したで、元の世界でのお母さんみたいなことを言う。


 こんなやり取りを見せられるガラムさんも、たまったものじゃないって顔をしている。


「ごほん……。とりあえず、始めて良いか?」


 気を取り直すかのように咳払いをして、ブロスの気を向けさせた。


 平の騎士団員との戦いを見て、勇者ちゃんのことはほとんど戦力に数えていないのかもしれない。それは割と正解だ。


 『毒使い(ポイズナー)』の力さえ使えれば、この状況からでも逆転は望める。


 しかし、わかっての通り毒の“マテリアル”を安々とバレるような形で使えない。だからこそブロスを味方に引き入れたのだ。


 後は、どれだけ足手まといにならないかを考えるだけである。


「ごめんね、ブロス。可能な限りサポートはするわ」


「あぁ。お前が居なくともこんな奴をあの世へ送るのは簡単だ。が、初めての共闘なんだから少しは楽しまないとな」


「あら。それじゃ、エスコートお願いできるかしら?」


「仰せのままに」


 言って少し前に差し出した手を、ブロスは取った。


 舞曲の類などあまり知らないが、頭の中で流れるのは自然とL=アームストロングのエル・チョクロだ。


 あまり早くない曲調であり、カトゥーンアニメーションを思わせる独特のリズムが体を動かしてくれる。


「シッ!」


 ゆっくりと歩んでいく二人に、ガラムさんは縦の振り下ろす一撃を繰り出してきた。


 手を話してそれを流した後、トトンッとターンを刻んで両脇へと立つ。ブロスの誘い込むようなゆっくりとした手刀をカイトシールドで受け流したかと思えば、足が宙を浮くような感触を覚えたに違いない。


 グラリと揺れた体を、足払いからの返す回し蹴りで軽く打ち上げる。


 辛うじて“ロングソードⅡ”の腹で受け止め、支え直した足で無理やりブロスへと盾攻撃(シールドバッシュ)を繰り出す。牽制の後、転がって間合いを取る。


「やりにくい動きを……」


 ガラムさんは忌々しく呟いた。


 その隙に、転びそうな勇者ちゃんをブロスが受け止める。さり気なく触れるべき場所に手を置いたことはこの際だから不問にする。


「次はなしよ?」


「ハハハハッ」


 ギロッと睨んでやるが、反省していない笑いしか返ってこなかった。


 これにガラムさんは意外なほど挑発されてしまう。


「乳繰り合うのもいい加減にしろ!」


 素直すぎた直線的な横薙ぎの斬撃。今度は“爆蹴ズⅢ”で完璧なほど高々と、剣を蹴り飛ばしてやった。瞬間的に、ブロスが背中合わせに反転した。


 カンッ、カカカンッ、カンッと綺麗に岩の部屋を無秩序に跳躍する。


 ブロスのお陰で服がめくれ上がったのは一瞬だ。クルクル回転を続けて、ゆっくりと収束していく。


 歩調がちょうど一致したのか、ガラムさんの前へとたどり着く。


 武器を失って呆然とした様子の男に、ブロスは軽いジャブを繰り出す。咄嗟に差し出された盾を砕くほどの攻撃を、ジャブと呼んで良いのかは甚だ疑問だが。


 ガガッ、ガッ。


 取手を除いてえぐり取られた板を前にして、ガラムさんもダンジョンマスターの恐ろしさを身に染みてわかったようだ。


「……」


 しかし、ここで退くほど温い覚悟ではなかった。


 仮にアイテムの類であれば、それを砕いた相手に立ち向かうなどという勇気は蛮勇と呼ぶべきだ。


「勝てないまでも、一緒に散って貰うぞ。『ファイアーボックス・シード』!」


 盾と剣をこちらへ投げつけ、トンットンッ回避している間に魔法を展開した。


 情熱的なダンスは終わり、舞台は火室へと変わってしまう。産み落とされる炎の種は、室内の燃えるもの全てを灰に変える。


 3000度の炎を相手に燃えカスが残ればまだ良い方だ。


 それほどに恐ろしいのが、火の“マテリアル”最強の魔法『ファイアーボックス・シード』である。


 何が最も残酷かと言えば、効果範囲の外周から中心に向かって1000度の熱が収束してくるという現象だ。熱を生み出し、()み、育つ。


 時間か、術者が己の意思で消すまで、逃げ場のない獄炎が敵を焦がす。

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