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案件65「異世界に来ても過労死寸前!?3」

 さてはて、戦力の基準になるアサガオだが。この場にはいない。


 土の“マテリアル”ダンジョン内にいないのは確かだ。零細企業の常なのか、生憎とこのタイミングで出張中である。


「連絡は、無いわね……。リーサ、早く済ませてよ」


 『マジック・センテンス』を覗いて、進展がないことに焦りを覚えた。


 つい三日前、リリシア(リーサ)からヘルプの連絡が来た。『砂漠の国が大勢(たいぜい)で押し寄せてきている。勇者ヘルプ(キャピッ☆』とのことだった。


 なので、サウスパラディスまで向かってるアサガオを変わりに向かわせた。


 『レビテーション』を使えば俺の方が早いが、ここを抜けるわけにもいかないだろう。


 あと、『キャピッ☆』じゃねぇよ! 余裕があるだろうって、そう思っていかなかったのも大きいよっ!


「独り言か? 敵を前に、ずいぶんと悠長なんだな」


 俺が集中していないことに、目の前の人物は気づいた。


 それでも攻撃してこないのは、俺の立ち位置が明かりの真正面だからである。逆行で目眩ましをしている。


 さて、慎重に出方を伺っている蓄えられた赤い髭が懐かしい男性は、教会騎士団の隊長ガラムさんだ。


 なんで、こんなところに?


「教会は基本的に中立を謳ってるから、おかしいわ……?」


「確かに、どこの国にも属さないのが心情だ。しかし、異端者を狩るのに協力しているだけだとしたら?」


「ただの詭弁ね」


 返ってきた答えに、俺は溜め息を吐く。


 言い訳としては通じるが、心情の上では許せるものじゃない。第一、狩られる側に何らメリットがない。


「そんなデメリットを、良いですよ~なんて言えるわけなじゃない」


「その通りだな。だが、生憎とこっちも手段を選んでいられないからな」


 俺の不満に対し、ガラムさんも妙な苦笑を返してくれた。彼自身、このやり方に納得していないのかもしれない。


「仕方ないわね。1対1(サシ)ならやったげるわ」


 戦わなければならないようだ。


 こちらは逃げて巡回魔族達と合流する手もあるため、互いに不利な条件を排除する。


 そういうのも、ガラムさんの背後にもう一人の見覚えがある人物が居たからだ。


「やぁやぁ、俺は別にガーデンロードとは関係ないんだ。退避指示があったが、俺にも目的があって無視してきたぞ」


 ハハハッと愉快に言ったのは、ズタ袋覆面に上半身裸の男。


 マスクメロだ。マスクメロ、その人でしかない。


「この男性とは何のつながりもないから安心しろ。それとも、勇者の知り合いだったか?」


「いいえ、全く知らない人よ」


 きっぱりとガラムさんの質問を否定する。


「全くとはつれないじゃないか。一応、一度は顔を合わせた中だろうに」


 マスクメロの困ったようなセリフに、俺は小首をかしげる。


 二度は顔を合わせているはずだが、覚えていないのか?


 一度目は、ダンデリオンことダンに挑もうとした時だ。


 二度目は……あぁ、攻略本販売の途中だったから変装してたんだっけ?


「そ、そうだったわね。関係ないなら出ていって欲しいんだけど……」


 大人しく引き下がってくれれば、ここでの負担は格段に減少する。人間的に受け付けない奴だが、マスクメロの実力は決して過小評価していない。


 ガラムさんと同程度はある。


 いや、なければここまで来る間に追い返されているはずなのだ。


「そうと勇者娘。すまないが、ここで本を売っていたお嬢さんを知らないか? フワフワの白兎ちゃんなんだが」


「えっ? あ、えっとぉ……アルバイトに雇った子ね。ガーデンロードの兵士として、臨時で働いてるって言ってたわねぇ」


 どうやらマスクメロは、あの変装した勇者ちゃんそのものだったと気づいていないようだった。


 幸運とばかりに、嘘を吐いた。


「そうか! では、さっさとダンジョンマスターを倒して戻るとしよう。では!」


 咄嗟(とっさ)に出た嘘だったが、信じて俺の横を通り過ぎていった。


 思わず横に退いて、距離を取ってしまう。


 だって、匂いとかでバレるんじゃないかって思うじゃん? しかし、凄い喜びようだな……。連絡先に何も送ってないけど、フラれたとか思わないのか?


 その先には、もう少し進むとダンが居る。二人を会わせるのは気が進まないものの、ガラムさんと合わせて足止めなどする余裕はない。


「……今は、目の前のことを片付けましょうか」


 心配しても始まらないため、俺はガラムさんに向き直った。


 そこで、俺は騙されたことに気づいた。


 何せ、ガラムさんの後ろからゾロゾロと騎士団の奴らが姿を表したからだ。


「なっ。一人じゃなかったのっ?」


 当然、抗議の声を上げる。


 ワラワラと通路を抜けてくる集団は、大人しく観戦していますって空気じゃない。


「誰も、一人でやってきたなどと言った覚えがないんだ。サシでの勝負も、俺がいつ承諾しただろう?」


「ッ……」


 思い返せば、ガラムさんの言う通りだ。


 巡回魔族がまだ手前の階層を固めていたなら、一人でここまで到達するのは至難のはず。余裕があるのに見えるのは仲間がいたからだ。


 もはやタダの屁理屈だが、先に勘違いしたのは俺である。


 だから言い返せない。


「卑怯とは言ってくれるな?」


「チッ……。まぁ、今回は私の負けよ。やってやろうじゃない!」


 生き残りを掛けた戦いに、卑怯もクソないんだ。わかって居るから今回は一本譲ってやった。


 しかし、命までは譲ってやらねぇ!


 俺はザンッと足を踏み出して構えた。

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