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案件64「異世界に来ても過労死寸前!?2」

 再会の時間は短く、ご両親は直ぐにでも村を立つ準備を始める。


 元から着の身着のまま出てきたので、ちょっとした食料や移動用の馬車を用意するぐらいだが。


 そんな中、勇者ちゃん母が俺を呼び止める。


「勇者は、まだ大事な人は見つからないの? 少しぐらいの年の差なんて大したことないわよ?」


 このタイミングで言うことでは無い気がする。


 しかし、ご両親にとってはかなり重要なことなのだろう。いつ、どこで何が起こるかわからないような状況だ。


 それに気づいたエントラが甘えるように寄り添ってくる。


 困ったように首を横に振るも、(はた)からでは恥ずかしいのを誤魔化しているようにしか見えないようだ。


「大丈夫よ、勇者? 一人や二人くらい息子が増えたところで問題ないわ。大家族なんて楽しそうじゃない」


 お母さんよ、とんでもないことをいわんでください!


 そしてファラエも、ドサクサに紛れてすり寄ってくるんじゃぁないっ!


 ――。


 ―――。


 ――――。


 そんなことをしていた時期が羨ましい。


 ガチャガチャという目覚ましの音が、俺の耳朶を耳障りにつんざいてくる。


 もう目覚める時間か。陰鬱な気持ちを抱え、後五分とボヤきたいのを呑み込む。


「あー……もう少し寝かせてくれ。っと、そうか……俺はもう異世界に来てたんだったな」


 目を薄っすら開き、ポツポツと言葉を漏らした。


 視線の先には鉱物質の天井が広がっている。


 それだけなら、どこかの鍾乳洞に迷い込んだのだと思うくらいだ。しかし、壁に付着した明かりの球体は物質には見えない。


 やはり、ここは異世界だ。


 別の世界へやってきても、俺は精神力とスタミナを削って働いている。


 ホント、人間って働かないとやっていけないんだな……。


 スーツなんかの決められた衣装を身に着けて、人混みに揉まれながら仕事場に向かうわけさ。


 もうヤダ、ニートしたい!


「僕、もう疲れたよ……。あぁ、そう言ってもいられないんだよなぁ」


「そうですよ、勇者様。間者の兄さんが偵察に出ている今、ダンジョンの守りは僕達でやらなければなりません」


 聞こえてくる声は、俺に対して言っているのだろう。


 間違いなくエントラの、そんな檄に動かされて俺も立ち上がる。


 体は拘束されたままで、二つの塊が胸部で揺れる感触がある。俺の意識が女性の中に入っているというのは、夢ではなかったようだ。


「なんで、こんなところで過労死しかけてんだ……?」


 覇気が湧いてこない原因は、ここの数日の予定外と言える戦闘だった。


「仕方ありませんよ。ガーデンロードが、国の存亡を懸けて勇者様を捕獲しに来ているのですから」


 エントラが、戦闘になった原因を説明してくれる。


 そう、ガーデンロードはここにきてなりふりかまって居られなくなったのだ。


 偵察に向かっているユウガオの報告次第だが、既にスノードロップが動き出していることだろう。


 勇者ちゃんのご両親を捕まえられない間に、攻め込まれ始めている。打開策として、ダンジョンにこもっている勇者ちゃんを探しにきたわけである。


「スノードロップは少し時期尚早だと思わなかったのかしら? ガーデンロードも、私が強力すると思ってこんなバカをやってるの?」


「さて、本当にそれだけ切羽詰まってるんでしょうね。最悪、ダンジョンを人質……『ものじち』? にでもするつもりなのでは?」


 『ものじち』とか言う謎言語。そりゃ、俺の言葉にすると『物質』になるけどさ。


 これだけ必死の攻勢を仕掛けてくるのは、何もかもをひっくり返すつもりだからか。


 というわけで、俺達は今、ガーデンロードの猛攻をダンジョンに籠城して凌いでいるわけだ。


「私達はダンジョンを死守しつつ、ユウガオの流してくれた()が利くのを待つしかないわね」


 スノードロップへの偵察は、こちらの負担を減らすためである。


 デマを流すことで、ガーデンロード襲撃をストップせず後ろを突いてくれるようにしたいからだ。


 まぁ、それまでにダンジョンが落ちれば意味ないので体に鞭打つ。苦しいのは、皆同じ。


「僕はファラエさんと一緒に下の階へ行きます。勇者様は抜けてきた兵士を相手にしてください」


「わかったわ。強い奴らもこっちに回しても大丈夫よ」


「……無理のないように」


 お互いに言い合って、片意地を張って目的を見失わないようにする。


 ファラエとエントラであれば、細い通路で敵を迎え撃てばかなりの数を抑え込める。だが、突出した力を弾き返すのが難しい。本気のアサガオくらいの実力で突破できるだろう。


 逆に俺やユウガオは、そこそこの数も相手にできるが分散してみると余剰だ。いや、分散できないからこそ過ぎた力だ。


 しかし、アサガオほどの実力の敵ならちょうど良い。


 要は適材適所ということである。


「勇者、大丈夫? もうだいぶ敵の戦力を削ってる。僕も頑張るからさ」


 勇者ちゃんが目覚めるのを待っていたエントラと待ち合わせしていた、ファラエも声を掛けてくれる。


 こちらの首肯を見て、疲れの浮かんだ顔を微笑ませて励ましてくれた。


 なんというか、修行のお陰か強くなったよな……。単純に体力がついただけで、後は寝不足に強いだけとか?


 エントラ達が去っていくのを見送って、俺も伸びと一緒に気合を入れ直す。


「さて、まずは誰から来てくれる?」


 別のルートから進行してくるガーデンロード兵達に向き直る。


 敵も強い奴らを投入してくる。ここからが正念場だ。

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