案件63「異世界に来ても過労死寸前!?1」
顔面を蹴り飛ばされ、首を180度くらい捻られたユウガオ。
なんで生きてるの?
きっとそんなデタラメも許される空間なのだろう。溜め息を吐くのに視線を少し下げれば、次に見た時には元通りだ。
「家のどれかに隠れてたんじゃないの?」
変な幻覚は忘れて、俺が尋ねる。
「妹のパンチラがそこにあったでござる」
ハハッ、流石お兄様。
「オグッ!?」
バカなことをほざいて、アサガオに締められる光景も久しぶりな気だ。
「兄たるもの、出ていかずしてどうするでござるか!」
「よし、世に居る妹持ちのお兄様達に謝ってこいッス!」
また余計なことを言って、お空の星にされる。
「勇者様、ご両親はこちらに……フッ、フハハハハッ」
エントラもやってきて、変わらぬ俺達のあり方に久しく笑みが溢れる。
何もかも変わらず、いつも通り皆が戻ってくる。エントラが勇者ちゃんの服の裾を掴み、ちょっとはにかんだ顔を見せれば全てが丸く収まる。
「勇者ッ」「あぁ、無事で良かった」
手を振る両親のところへ歩み寄った。
安堵した表情を見て、自分達はまだ大したものは失っていないのだと認識する。
「お父さん。お母さん。二人共、無事で良かったわ」
二人の家こそ今は取り返せないが、俺なら言ってやれる。
「家に帰れないのは残念だけど、もっと良い家を私が建てて上げるわ。それまで、少しだけ辛抱して頂戴」
「そう。でも、無理はしちゃだめよ?」
勇者ちゃん母は心配してくれるが、鼻息荒く――気持ちの上では――胸を叩いて任せろと言い放つ。
しばしは村で隠れ住むことになるだろうけど、一段落したらダンジョン前にでも移住してもらうとしよう。
たぶん、この村だけでなく他の場所を転々と移動した方が良い。
後は、この村がガーデンロードに攻められないことを祈るばかりだ。
「村の人達は、やはりご両親がいることに不安を感じているようです。場所を移して、適当な村を隠れて渡った方が良いかと」
エントラも同じ意見だ。
もう少しガーデンロードの捜索が厳しかったら、村が焼かれていた可能性だってあった。
今無きリーフィスウッドに属する村で、友好国だったからこそなんとかなったのだろう。
同盟国に避難した者達も居たはずだ。下手に焼き討ちなどしようものなら、内部で反乱が起きる。
ここまでのところで、勇者ちゃんのご両親を逃がす場所は決まった。仲が良くも悪くもない南のサウスパラディスである。
あの辺りは国と呼ぶには少しまとまりが無いのが不安だが、一応は『多民族共和国』を謳っているから大丈夫だろう。魔族退治で恩もあるので、悪いようにはならないはずだ。
「じゃあ、サウスパラディスに逃げて貰った方が良いわね。アサガオに護衛させましょう」
「護衛をつけるなら旧都でも……あぁ、サウスパラディスは共和国制でしたか。幸い、懇意にはしていますからね」
エントラも納得してくれる。
確かにエウアンサス・パニィでも良いが、護衛のためにアサガオを置き続けるのは厳しい。
これまではただの退廃地区として見過ごされてきた。しかし、この機に浄化の名の下に滅ぼされる可能性も出てくる。
あそこの住人など、居ないものとして扱われているのはご存知の通りだ。
まだ残っているってことは、住民の抵抗が激しいってことだろうしな。
「アサガオと旧都の住民だけでも、多少は抵抗できるでしょうね。でも、それだけ戦力を割くのはリスクが高いわ」
「攻められない可能性もありますからね。身を隠すだけなら、ジャングルのほうが良いでしょう」
「というわけで、勝手に決めて悪いんだけど」
話し合いを終えて、勇者ちゃんのご両親に向き直る。
二人は、俺達の邪魔にならないのならどこでも良いという態度だ。
今になって、アサガオの言っていた言葉がのしかかってくる。魔王が課した拘束の意味も。
殺さずに済むほど強くない、か……。確かに、『毒使い』の力をフルに使えば殺さず国の一つや二つを征服できるわなぁ。
拘束により指向性を失うことで、今度は逆の作用が発生する。無差別に力を行使しないよう気をつけてしまっている。
ありがたい反面で、とても申し訳なく感じる。
「ごめんね、二人共。いつもいつも、私のせいで辛い思いをさせて……」
こんなことを謝られたくなかっただろう。
けれど、決して勇者ちゃんを責めたりしない二人だからこそ、言葉にしなければいけないのだと思う。
「良いのよ。私は、お父さんと一緒に居られればどこでも良のよん」
「僕も、お母さんと一緒ならどこへでも行けるよ」
クスクスと笑って、二人は見せびらかすように肩を組んで抱き合う。
「ちょっと、いちゃつかないで」「勇者殿、せっかく再会した妹と離れ離れにするつもりでござるか?」
文句を言おうとしたところで、どこからともなくユウガオが現れる。
「ヴェイッ!?」
これには俺も飛び上がった。
星になったんとちゃうんか!?
「あらまぁ。そう言えば、間者のお兄さんは寂しがっていたわね」
「腕の怪我よりも、妹さんに会えないことで死にそうになっていたぐらいだったよ」
看病している間のことを思い出してか、ハハハッと笑う父母。その光景が容易に想像できてしまう。
アサガオと離れたくないとごねるユウガオを、ちょっとの間だけだと説得するのだった。
「貴方が『レビテーション』さえ覚えていれば」の一言で全てが片付いたが。




