案件62「集結」
俺達は、パーティーをほっぽり出して走っていた。
準備までして貰って、申し訳ないと少しだけ思っている。
大きなパーティー会場で、ヘルが一人でご馳走の前に座ってる光景を想像してしまう。
「何がパーティーだぁ!」とか言って、台無しにしないか心配である。戻ったら、ちゃんとやるからね?
さて、ここまで走ってきたのには理由がある。つい三日くらい前に届いた、『マジック・センテンス』だ。
それが送られてきたぐらいまで、記憶を戻すとしよう。
――。
―――。
――――。
「あら、『マジック・センテンス』? 誰からかしら?」
開けば、待ちに待った人物の名前がある。
『送り主:ユウガオ』『タイトル:遅くなって申し訳ないでござるよ』って具合だ。
「ユウガオ、無事だったのね……」
ここまで遅れて連絡があったということは、ある意味で無事ではなかったということなのだろうが。
それでも、連絡できたことに安堵する。たぶん、俺以上に安心したのはアサガオだろう。
巡回魔族との無茶なスパーリングをしていたのも、欠けたユウガオの代わりを努めようとしたがためだろう。
「良かったわね、アサガオ。無理せず、今まで通りの中衛ポジションで良いわよ」
「そうみたいッスね。頑張って損したッス。バカ兄者には、私の時間を返して欲しいッスよ」
そして、この嬉しそうな憎まれ口である。
放って置くとブツブツと文句を並べていそうなので、俺はさっさと本文を読むことにした。
「えーと、なになに。私の両親が人質に利用されるかもしれなかったから、連れて逃げたのね」
助けて貰ったことはお礼を言わなければならない。
本当に、世話をかけさせてしまった。
逃げる途中で敵と交戦し、追い返したものの手に酷い凍傷を追ってしまった。エントラの住んでいた村に身を潜め、治療に専念してしていた。連絡が取れるように快復したのがついさっきだった。
そんな内容が端的に、しかしマメに記述されている。
『ガーデンロードの兵士の姿も見られたので、探しに来なくて正解だったでござるよ』とある。
「まだ病み上がりだし、いざということも考えて迎えに行きましょうか」
アサガオも、早く無事な顔を拝みたいだろうしなっ。
こうして、パーティーを後伸ばしにして、村へ向かうこととなったのである。
が、とりあえずは最後まで読んでしまおう。
「どうせ、調子に乗って怪我をしたんッスから、自業自得ッス」
「『――などと言っていても、ただの照れ隠しでござるから、責めないでやって欲しいでござるよ』ですって」
アサガオは、完全に言動を先読みされていた。
俺が堪えきれない笑みを浮かべていると、目の前を何かが掠めていく。
「フッ!」
アサガオの裂帛を乗せた拳が、通り過ぎたのだとわかった。
こ、こいつ、魔法の手紙を素手で割りやがった!?
「なんっていうデタラメを……。ファラエ?」
驚きのあまり、確認してしまう。
首を横に振って、俺の想像を否定する。
普通なら無理だが、“マギクロースバンド”なら『マジック・センテンス』を消すことはできる。
奴は割ったけど。
しかし、それが“ハイクロースバンド”単体であることは間違いないようだ。
「さぁ、迎えにいくッスよ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ。
――――。
―――。
――。
そして現在に至る。
別に『レビテーション』で飛んで行っても良かったわけだが、これも修行の一環ということで走っている。
「ハァ……ハァ……」
傍らではエントラが、息を上げつつも足を動かしている。
単純なスタミナ面では、どうしても勇者ちゃんにさえ劣ってしまう。良くぞここまで走ってきたと褒めてあげたい。
「え、えっと……エントラ? 『ニトロ・ブースト』くらい使っても良いのよ?」
ブロスの使っているところを見ているはずなので、俺は勧めてみる。
「いえ、大丈夫、です……ハァッ。これぐらい……フゥ……できなくては、ハァ、ハァ……」
拒否。
ショーック! あ、これは……。
まだ怒っているのかとも思ったが、これは勇者ちゃんへの当てつけだ。言い方は悪いが。
「うぅ……」
謝れない。ケンカもできない。手も貸せない。
無茶な修行とかをしている仲間をただただ見ているだけというのは、最も心に来るのだ。
草葉の影で弟を見守る、お姉ちゃんの気分を味わった。
それでも、これが最後の反抗心だと思う。これ以上溝が広がらないことを祈りつつ、俺は岩肌の荒野を駆け抜けていった。
「やっとたどり着いたわね。えっと、ユウガオを探さなくちゃ……ね?」
「さすがに、休憩24時間だけというのは辛いね。エントラ君は少し休んでいてよ」
ファラエがナイスフォローだ。
エントラには、勇者ちゃんから言っても聞かないだろうから休憩ついでに村人の相手を任せる。
「はい……」
返事を聞いた後、匿われている場所を探して村へと入っていく。
疎らに家屋が立ち並ぶ、小さな集落だ。それほど時間はかからない。
などと高を括ってはいけない。
「……どこに隠れてると思う、アサガオ?」
迎えに来ることは伝えていないため、今でも身を隠していることだろう。隠れている間者を見つけるのは簡単じゃない。
声を掛けて探すにしても、直ぐに見つかる保証はない。
よって妹としての勘に託すことにした。
「簡単な方法があるッスよ」
アサガオは言って、前開きの単衣の裾を少し捲り上げた。
次の瞬間、ユウガオの頭部を掴み上げていた。その間0.2秒。
顔面に膝蹴りを繰り出す。加えて、跳びつつ首を捻り背後に着地。
久しく、全員が集結した。




