案件60「努力に人一倍も二倍もありはしない5」
アサガオが、兄妹で戦う手段が違う理由はそいういうことか。
元々、気質さえ違うのだから仕方ないのだが。
ガガガガガガガガッ!
「同じくらいに始めるか、先を行く人がサボっているなら、一倍や二倍の努力でなんとなるッスよ」
「なるほど、単純な習熟度で言えば先に行ってる奴が勝って当たり前ね」
もしくは、どちらも優れた才能がないという前提だ。
圧倒的に開いた訓練の差を、埋めるのは至難の一言では済まないだろう。同じ土俵ならなおさらだ。
「そもそも、何かをこなそうって奴の、努力って考え方が気に入らないッス」
多才を好きと物量でこなしてきたアサガオだからこそ、思うところがあるのもわかる。
ドギャギャギャギャギャギャッ!
「何かをなそうと、それに向かって必要なことを必要なようにやっているだけのことッスから!」
気合を入れて言っても、素手で金属鎧のファラエを吹っ飛ばすのは違うと思うぞ?
ズシャァーッ!!
手を保護する薄い魔法の布“ハイクロースバンド”で作った手袋があるとは言え、それで合金の板を凹ませられるというものじゃない。
なお、手袋はファラエ作。
「い、痛たっ……。もう少し、お手柔らかに、頼めないかな?」
ダウン負けしたファラエが、兜を脱いで訴えた。
ちなみに、ほぼ手も足もでていなかった。
「良い感じの手袋にしてくれたッスけど、弱音は聞かないッスよ~。じゃ、鎧が直るまではこっちッス。このゴムを限界まで引っ張って踏ん張るッス」
「……」
アサガオの指示に、ファラエの顔が青ざめるのがわかる。
「いや、結構やりすぎだったわよ? 限界を突き詰めるのはわかるけど、ね?」
さすがに、ゴムを伸ばした後、引き戻される側に“ニードル・シールドⅢ”を設置するのはどうかと思う。
危ないから“ニードル・シールドⅠ”にしておきなさい。
「怪我をしても、賢者様が治してくれるから大丈夫ッスよ」
「……死なない程度にしなさい。以上」
結構スパルタだった。
ファラエは、涙目になりながら訓練を始める。
私とは違って、傷つくのは体だけなんだから良いじゃない。
「えーと、エントラは……」
俺を傷つける原因の一つを、特訓に使っている部屋を見回して探す。
少し前のことを覚えていらっしゃる方は、俺の完全な自業自得だとご存知のはず。
「つーん」
「あの?」
「けーん」
「そ、そろそろ、機嫌を直していただけないでしょうか……?」
無理やり眠らせて、“魔エネルギー”の回復を図ったのを怒っているわけだ。
一応は無事だったと言っても、直ぐピンチになった上、アサガオ達に助けられるというヘマをやらかした。しかも、あの1WAVEくらいはエントラと二人で乗り越えられなくもなかった。
このお怒りはごもっともということである。
「どーん」
「グスッ……」
オノマトペを口で言うくらいには、もう本気で怒っているわけではないのだろう。
エントラのことを思ってのことだったので、絶交を言い渡されるようなこともなかったのも幸いだ。
信仰の対象とも言えるような勇者ちゃんが、信者に頭を下げて謝ることも許してくれず。ただ、時間が解決してくれるのを待つという結果になった。
「まぁ、そう落ち込むな。我が一抱えの花束よ」
「……」
慰めてくれたのは、その気障なセリフからわかる通りヘルである。
女には優しいとわかっているんだが、それも時と場合と状況による。
俺をペットのように侍らせてそのセリフはないな。
「どうした、可憐にして強情なる綿胞子? 繋ぎ止めるためのラッピングが、可愛くなくてご不満か?」
「可愛かろうと、鎖と首輪で飾られたんじゃ不満も出るわよ」
ジャラリと、重く金属が擦れ合う。
今、勇者ちゃんの首には革製の輪っかが巻かれている。それに繋がる、鉄製の鎖がジャラジャラうるさい。
お察しの通り、俺はヘルのペットとして過ごしている。
「特訓期間の二週間だけではないか。それほど悪い生活はさせていなかろう?」
ヘルの言う通り、アサガオ達の特訓が終わる二週間はこうして彼の側に侍っていなければならないのである。
終始、構われることを除けば、別に悪いことがあるわけでもない。
ただただ、惨めなだけだ。
その悔しさを受け入れているからこそ、エントラもこの3日で少しずつ機嫌を直しているのだ。
「そうね。これぐらいのことは、我慢しないと申し訳が立たないわね」
例え一部はアサガオの計略だとしても、今の彼女らに報いる術は他にない。精一杯、やれることをやってみせるのが勇者ってもんだ。
「ただし、二週間よ。私をこの程度の薄っぺらいベルトと、細い金属で繋ぎ止められると思わないで頂戴ね」
まだ私の意思を尊重してくれているのか、ちょっとした道具でなんとでもなる代物だ。
まぁ、どちらかが折れない限りは、どちらかが倒れるかの勝負になるからな。
「せいぜい、やれることをやりきるんだな」
応援しているのか馬鹿にしているのか、ヘルが言い放って笑った。




