案件59「努力に人一倍も二倍もありはしない4」
どう生き残るか、思案する二秒ほど前まで遡る。
「この……離れろッス!」
ほぼマウントを取られてもなお、“蒸気銃Ⅱ”でギリギリの防戦をしていたアサガオ。
俺にシンキングタイムができたのを察して、魔族をこちらに蹴りつけてくる
踏みとどまろうとするキツネは銃弾を浴びせられ、ヨロヨロと俺の方へと近づいてくる。
魔法発動まで――残り1秒。
「秘技、膝カックン!」
「膝カックンッスか、それっ?」「絶対違うっ!?」
技名を恥ずかしげもなく叫び、キツネ魔族の膝裏を蹴った。ベキベキッくらいの音は響いたと思う。
思った以上に二人の息がぴったりだった。
体勢が崩れたところを、背中で支えて魔法魔族の前へと突き出してやる。
魔法発動まで――残り0秒。
突如として壁が目の前に現れたことで、発動された魔法はその場で力を広げる。
ゴォォォォォォォッ――!
盾にしたフモフモキャラクターを通して、冷気が爆発する音がする。
「ザブッ!」
魔族達の声にならない断末魔の叫びを聞きながら、寒さに打ち震えるのであった。
直線的な『ブリザード・ドーザ』という冷気の魔法だったのも、幸いしたのだろう。
しかし、少なからず周囲に被害が及んだのは確かだ。
「皆、大丈夫?」
背中で凍りつき、砕け、粒子と化した魔族達を見送り、仲間達の安否を確認する。
「こっちは大丈夫だよ。エントラ君もね」
一番遠かったファラエ達は問題なさそうだ。
「こっちも大きな被害は無いッス。けど、早く温まりたいッスね」
アサガオも少し遅れて、モウモウと立ち上る冷気の向こうから現れる。
俺とは違って、盾はなかったはずなのに良く無事だったな。何か、『フリーズ・ベルト』みたいな壁でも作ったのか?
「あぁ、そういうこと」
少し考えた後、アサガオが手にした“蒸気銃Ⅱ”のバックパックを見て察する。
銃の銃床につながっているはずのチューブが外れているのだ。
バックパックの蒸気を放出して、来る冷気にぶつけることで凌いだらしい。
「はははっ、これぐらいどうってことないッス」
「考えたとして、魔法じゃなくてそっちを試そうって気はしないわね……」
咄嗟に判断して身を守ったあたり、本当に思い切りが良い。
「本当だね。『フリーズ・ベルト』の方が、まだチャンスがあるように思えてしまうよ」
ファラエもエントラを連れて来て、苦笑を浮かべる。
金属鎧が冷えているせいで、背負われているエントラは寒そうにしている。
“智者の外套”のおかげで体は寒くなかったのに、顔に冷たい金属を押し当てられて可愛そうだ。
「私が背負っていくから、預けて頂戴」
幾ら腕が拘束されていたとしても、小学生ぐらいの子を背負う程度どうということはない。
しかし、ずっしりと背中にかかってくる重みがあった。
あぁ、たった一年でこんなにも大きくなったのだな……。
それは単純に体の成長だけではなく、エントラにそれだけ私が支えて貰っていたということだ。起きたら、無理に寝かしつけたことを怒られるかな。
「もう、子供じゃないのね」
小さく呟いて、直線の通路を歩き出す。
あれ? 眼の前が歪んで行くぞ?
「勇者様、今『ヒール』するッスから」
「勇者、顔が酷いことになってるよ」
冷気で少しダメージを受けていたのを、アサガオが治療してくれる。ついでに自分にもしていた。
ファラエも、“鋼鉄ポケット”という鎧に付けられる収納アイテムからハンカチを取り出して、顔を拭いてくれる。
顔のいろんな体液が凍りついていて、剥がすのが痛かった。
「『ヒール』! 『ヒール』! もういっちょ『ヒール』ッス! うわ、やる気なくなるッス……」
アサガオはアサガオで、“マジック・チャーム”の“魔エネルギー”を使い切っただけなのに虚脱状態になってやがる。
そうはならんやろ。
しかし、最良質のチャームが最後の一つになったようだ。
「新しいチャームッスよ!」
元気百倍?
「また手に入れてこなくちゃね。このダンジョンでさえ、なかなか手に入らないから」
この戦いで、修行云々の前にたくさんの消費をしてしまった。
相当数の巡回魔族も倒したので、ヘルを説得できなかった時は力ずくだ。
勝てるかどうか、微妙なところだなぁ……。
「ヘル様、神様、魔王様。どうか、あまり怒っていませんように!」
祈りを捧げる。
さっきの魔族達で、このルートの敵は全部だったのか。俺達の歩く音ぐらいしかしてこない。
沈黙に耐えきれず口を開いたのは、ファラエからだった。
「それにしても、盗賊ちゃんは凄いね。“蒸気銃”の扱いにしても、体術にしても、僕なんかより断然才能があるよ」
とても感心したご様子。
アサガオもこれに得意顔をするが、次の瞬間に豹変した。
「努力してるんだろうね。僕も、人一倍……いや二倍も三倍も頑張らないとダメだね」
「は?」
語尾を忘れる程度には、聞き捨てならないセリフだったようだ。
怒っているわけではなさそうだが、愉快でもなく。蔑むとまでは言わずとも、呆れているような。
とても難しい顔だ。
「ファラエ、それは違うッス」
「違う?」
否定され、ファラエも困惑する。
俺だって、何が違うのかわからない。
アサガオにはセンスがあると思うし、体を鈍らさないよう運動も日頃からやっている。
「努力の基準を他人に求めたところで、それは背中を追っているだけなんッスよ」
俺達は以前も潜った巨大な門を通り抜ける。




