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案件57「努力に人一倍も二倍もありはしない2」

 さてさて、やってまいりました水の“マテリアル”ダンジョン。


 そびえ立つ氷の塔をサクサク登って行きましょう。登りたかったです……。


 当然だが、俺達の行く手を阻む魔族がいる。


「向こうから手伝ってくれるなら、喜んで相手をしてもらうッスよ!」


 意気揚々とアサガオが、身を隠すことなく向かっていく。


 初っ端から喧嘩売りに行く奴がいるか!?


 ここは土の“マテリアル”ダンジョンとは違って、巡回魔族が襲ってくる。襲ってこないことに気づいたのは、恥ずかしながらつい最近だ。


「では、ここを僕と盗賊ちゃんで引き受けましょう。上は勇者とエントラ君で頼むよ」


 ファラエまでやる気満々じゃないですか、ヤダー!


 まぁ、向こうからやってくるんだから正当防衛だよ、正当防衛。


「わかったわ。ちゃんと追いつきなさいよ。ただし、あんまり反感を買わないように」


 実に苦しい自己正当化をして、俺とエントラは先へ向かうことにした。二人の実力なら、まだ低階層であれば大丈夫だろうと思った。


 それに、今回に限ってはファラエもちゃんと装備を整えてきていた。


 “ニードル・シールドⅢ”と金属のフルアーマー姿だ。


 “ニードル・シールド”というのは平たく言うと、持ち手側以外から数本のぶっといトゲが突き出た盾。


 盾攻撃(シールド・バッシュ)をメインとした武器兼防具だな。隙を突いて攻撃できるから、生存能力が高くなる。


「はぁっ!」「そこッス」


 魔族を貫くファラエの裂帛の気合を背に受けて、確信と安心を抱いて上階へ向かう。


 正直言うと、ポインセティスで顔を合わせたとき、ファラエの顔って覚えてなかったんだよね。何の感慨も見せなかったと思う。


 最初から出会っていたんだよな、土の“マテリアル”ダンジョンの時点で。


「首を捻って倒した奴が、ねぇ……。あの細さで重鎧じゃ、話を聞かないとわからないわね」


 俺がボヤくほどには、不釣り合いな格好をしていたのだ。


 二度目も三度目も、最後にやられたので勇者ちゃんの姿は見ていたらしいが。こっちは覚えてなかったんだ、ごめんよ。


 四度目、奇しくもこのダンジョンで出会った時には、見飽きた顔だと思って気に留めなかった。


 そんなこと、口に出して言えるわけもなく……。


「まぁ、過ぎたことは置いときましょう。くるわよ!」


 内心で平謝りした後、俺も来る魔族の襲撃に備える。


「はいっ。えっと、これで『エアー・ロード』!」


 エントラが“智者の外套”から“スクロール”を取り出し、俺を含んだ前方に風の道を作る。高速化の魔法だ。


 自然と移動方向に追い風が吹き、空気の抵抗すらも低減させてくれる。


 続けて、創作の賢者が持っているようなネイルハンマーめいた杖を取り出した。


 “(ひか)(たま)う木人”と呼ばれる杖である。


 “智者の外套”は“魔エネルギー”により、その内部の四次元ポケット的なんやかんやにあるアイテムを操作することができる。


 要は、入れたアイテムを好きなように取り出せるってこと。容量が小さいのが難点。


「『サン・レイ』。『ウォーティング』。『フリーズ・ベルト』。『アタック・ガード』」


 “控え給う木人”を通して魔法を待機(・・)させた。


 それ自体の武器としての性能はとても低いが、魔法主体で戦う者にはかなり役立つ効果だ。


「ハァッ!」


 俺はというと、数体目の魔族を蹴り飛ばしたところでエントラの意図に気づいた。


「……良いわよ!」


 一撃に力を込め、宙へと高く舞い上がったところで魔法が炸裂する。


 眼下を熱線と水泡が満たし、包み込むように氷の帯が道を塞ぐ。着弾点に近い俺へ、外的な衝撃を緩めてくれる防御魔法がかけられる。


 キュキュキュ、ボッ!


 多分、そんな感じの音だと思う。


 熱せられた魔族の一体が水で急激に冷やされ、水蒸気を発生させることになった。氷の容器で抑圧されていた気体は膨大な体積で、いずれは外へと溢れ出しくるしかなかった。


 水蒸気爆発。


「ヒャワァァァー!」


 爆風を受けて、俺は吹き飛んでいく。


 天井を滑るなどという経験は初めてだ。


 まぁ、おかげで階段下のファラエ達を覗けたので良しとしよう。


「だ、大丈夫ですか? すみません、まだ威力の調整の推測が甘いもので……」


「防御のおかげで問題ないわ。でも、良くもまぁ意図的に作り出せるわね」


 駆け寄ってくるエントラに無事を知らせ、感心して見せる。


 理屈はわかっていても、それを実現させるのはそう簡単なことではない。天才たる所以(ゆえん)、賢者の名は伊達じゃないか。


「お風呂を準備している時に、使えるんじゃないかと。勇者様の知識に比べたらまだまだです……」


 雑用がまさかの役に立つとは……、人生は奇っ怪なものである。


「貴方はもっと自分のことを誇りなさいよ。それこそ、貴方の信じる私が確証を持てるからこそできることもあるの」


 ろくに頭を撫でて諭してやれないから、コツンと額同士をぶつけて活を入れてやる。


 謙遜は美徳かもしれないが、人の信頼を否定すべきではないと思う。


「ゆ、勇者様っ……」


 顔を赤くして戸惑うエントラを差し置いて、振り返り次の群れを見やる。


「さぁ、まだまだやるわよ!」

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