案件49「盛大な進捗4」
さて、告白など受けた後だが、冷静を装って攻略本販売を続けよう。
休ダンジョン日でも、買い物にはやってきたりするからね。
そう思ったのも束の間、ダンジョン入り口の影に誰かが隠れていた。
「け、賢者君……?」
先に気づいたのはファラエだったが、顔の引きつり方を見て振り向くのが怖くなった。
「え、エントラ……? ど、どうした、のよ?」
それでも、反応しなければそれはそれで怖い。
ぎこちなく首と腰を捻ったならば、静かに佇み睨みたる賢者がおられました。
寝た子を起こすな、などとはよく言ったものだが……。焼け木の燻っていたのが、再燃してしまったというわけだ。
「いえ誰が勇者様を好きになろうと勝手ですので。僕は勇者様を信じて居ますから」
酷く平坦な口調で、物陰から体の横半分を出して答えてくれる。
こ、怖い……。
何を信じているのかも、やや曖昧なので逆にどうすれば良いのかわからない。
勇者としての目的を果たすのであれば、多少の色恋くらいは許容してくれているのだろうか。
ダンジョンマスター達への求婚も、黙認はしてくれている様子だったし?
「もちろん、直ぐに返事をくれなくても良いよ。何番目になっても、この気持は変わらない」
「ファラエ……」
続けざまに熱烈なことを言われては、困るというものだ。
いつ答えられるかもわからないというのに、寵愛の多寡すら気にしないなんて、聖人君子か何かなのだろうか?
「そんなに良い子やってると、いつまでも順番は回ってこないわよ……」
「小さい頃から良く言われてた。でも、意外に回ってくるし、その時の恩恵が一番大きいんだよ」
しかし、待ってくれるというから待たせるなんて言うのは、ただの逃げだと思う。
相手が真摯なら尚更、向き合わねばならない。
けれど、今のままでは進んだ先にある樹木にぶつかってしまうだけ。
「そ、う……って、エントラっ?」
悩みあぐねているそこへ、腰に抱きついてくるエントラ。
「僕も待ちます……。だから、どうか忘れないでくださいっ」
見上げてくる瞳には、一点の曇りもない光だった。
押し付けないまでも、そこには強い力が見られた。
木にぶつかるどころか、巨大な渦に飲み込まれようとしていたのである。
それは彼らとの関係だけにとどまらず、世界が動き始めていた。それを知ったのは少し後になってのことだった。
「えっと……わかったわ。少し考える時間をくれる?」
「良いですよ」
「あぁ、ゆっくり考えていいよ」
二人に許可を貰い、その日からしばし考える日々が続く。
正直、それで頭がいっぱいになっていたせいか、ここ数日のことはおぼろげにしか覚えていなかったり。
3日目に至るくらいなのだが、未だに結論がでていない。だから、誰かに相談することにした。
そりゃ、最初こそ独りで考えてみたさ。
それでも答えが出ないんだから、人の知恵を借りるしかないだろう。
人間、独りで生きてるんじゃないんだ! 誰かを頼るのは恥じゃない!
「――とは言ったものの……」
ロクな返事は得られなかった。
ダン、ブロス、ヘルの三人は順に「わからんな」「やるじゃねぇか、この淫売!」「オスのことに興味はない」である。
リーサ曰く――「私が消し飛ばせば解決だ。許可しろ」だってさ。
アサガオに至っては、藪蛇になりそうだったので自主規制した。
「仕方ない。最後に頼れるのは貴方だけよ……」
ダンの部屋に籠もり、家主すらも放り出して『マジック・センテンス』で連絡を取る。
文面は以下の通り。
『親愛ならぬ魔王様。できればお亡くなりになって居て欲しかったです。この度は、ご相談したい旨がございましてご連絡いたしました。』と。
幾らなんでも魔王に恋愛相談ってどうなんだって突っ込みは無しでお願いします……。
「あ、返信早っ」
女学生並の返信速度だ。
「えーと、『親愛なる勇者。元気そうで何よりだ。相談とはまたどういった心境か?』……」
こちらの毒など軽く受け流されたことはさておき、続く文面に呆れてきてしまう。
『我が有能なる配下達との結婚についてであれば、気にせず進めよ。仲人はドンッと任せるが良い。』である。
「だぁれが頼むかぁっ!!」
思わず吼えてしまった。
『マジック・センテンス』の像が実物のディスプレイだった日には、叩き割っていたかもしれない。
そうしている間に、もう一通が届く。
『握り拳を作っているだろうから、真面目に話をきくとしよう。その様子だと、将来の身の振り方か色恋ではないかな?』と、言い当てられている。
「あんのぉ鹿僧侶のなり損ないみたいな魔王がぁっ!」
ダン達の上に立つだけあって、さすがの洞察力だ。
ただ、隠し立てもできないため素直に相談するのであった。
「……さて、反応は如何に。あ、今度は少しかかったわね」
エントラとファラエのことを送ってから、10分くらいして返事が戻ってくる。
「なになに、『全て欲しいなら手に入れれば良い。倫理や誠実さなど、最初から役に立たないだろう。言えることはそれだけだ。』ねぇ……」
魔王らしいお返事でした。
相談する相手を間違えたな、これ。“スクロール”や“ロッド”だって安くないのに。
頼みの綱も、独裁を掲げるだけで役に立たない。
もはやどうしたものかと思案した瞬間。
「勇者様ぁ、ちょーっと良いッスか? ハプニングなんッス」
「ヒャワワワワァッ!」
突然の闖入者に、慌てて魔法のメールを消す。
こんなに焦ったのは、母親に大人な本を見つかりかけた時以来だ……。




