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案件48「盛大な進捗3」

 いつもダンが詰めてる狭い部屋で、彼は『マジック・センテンス』に似た何かを操作する。


 もちろん、魔法ではなく――魔法以上かもしれない――て、無限の財貨と千変の秘宝を内包した『宝物庫』の目録だ。


 貴重なアイテムの独占シーンってわけである。


「これが欲しかったのだ」


 目録に触れないまま手を横に動かすと、スマートフォンみたいにスライドしていく。


 数回繰り返して、ピタリとそのアイテムにたどり着いたようだ。


 空中の映像に手を伸ばせば、まるでそこに実物があったかのように掴み取ることができる。


 手元に寄せたなら、映像が引き伸ばされ実体が出来上がった。


 ヘルボレス(ヘル)のところで一度見たことはあるが、二度目となってもツッコミどころが見当たらないデタラメ感である。


「へぇ……も、もうそんなものが手に入るのね」


 少しというか密かにかなり感心してしまったが、それは先への期待感でもあった。


 神にも勝るとも劣らぬ道具。神器(じんぎ)とでも呼ぶそれが、『宝物庫』の中に所蔵されている可能性がある。


「“白陽の天剣はくようのてんけん”……俺にはお似合いの武器だ」


「……」


 うっとりとした表情で、白い刀身を眺めるダン。


 それはまるで、最愛の人と語らっているかのようだ。


 まさか、武器に嫉妬を覚えようとは思わなかった。分かっていたら許可しなかったかも?


「確か、“魔エネルギー”を全部つぎ込んで、すっごい切れ味にできるんだったかしら? さぞ、素晴らしい切れ味なんでしょうねぇ」


 名前やその効果のほどから、リーサの持つ“黒陽のパラソル”と対を成す武器だとは分かっていただけると思う。


「あぁ、これぞまさしく俺が持つのに相応しい剣だ」


 高々と武器を掲げてまで、ダンにしては珍しく、自画自賛して見せる。


 こちらのヤキモチや、厭味ったらしいセリフなど気づいてさえいない。


 確かに、“白陽の天剣”に施された装飾は芸術的でありながら、決して機能性を失ってはいない。


 擬人化などすれば、勇者ちゃんでさえ見劣りするのではないだろうか。


「はぁ……。ま、しばらくそうやってなさいな」


 ため息混じりの言葉を聞いていたか否か。ただ、それを確かめる気もしないためその場を後にしてしまう。


 サッサとダンジョンの外へとたどり着いたところで、今度はファラエに声をかけられる。


「勇者、稼ぎの集計が終わったよ」


「あぁ、そう。ありがとう」


「? 何やらご機嫌斜めだね」


 頼んでいた攻略本の売上の計算が終わったらしい。


 それほど素っ気ない対応はしてないと思ったが、耳聡いというのか目聡いというのか。


「ちょっと、ね」


 手を振って、問題ないと伝えておく。


「そもそも、妬くほどの関係じゃないのに……」


 ファラエに聞こえないよう小さな声で呟いた。


 考えて見れば、ダンとは上司と部下くらいであってヤキモチを焼く理由がないのである。


「えーと、報告、しても良いかな?」


「あっ。え、えぇ、お願いっ」


「うん。単刀直入に、1万とんで60ゴールド。晴れて借金生活終了だね」


 おぉ、まさかこんだけの期間で、攻略本(・・・)で稼げるとは。


「ダンジョンで拾ったアイテムの売上も入ってるけど」


 そして、そこは気づいてくれず暴露されてしまう。


「ちょ、ちょっと、それは言わない約束でしょっ……!」


「え?」


 えぇ、そうですとも! ダンジョンを行き来する間に、ちょこちょこ拾ってましたよ!


 7~8割は攻略本の売上なんだから良いじゃないかっ!


 一通り開き直ったところで、目標達成を喜ぶとしようじゃないか。


「まぁ、良いわ……。おめでとうと言わせてもらうわ。そして、今までありがとう」


 笑って見送ってやらなければ、ファラエだって気持ち良く故郷に戻ることもできないだろう。


 単なる観光地巡りから、いろいろと引っ張り回してしまったが、君と過ごした日々は大切な思い出だ。


 しかし、ファラエの顔に浮かんでいるのはなんとも微妙な表情だった。


「ど、どうしたの? まさか、利息まで払えとでも? そりゃ、どうしてもって言うなら、仕方ないけど……」


 ヴェロニカ氏と取り交わした書類に、利子の発生はなかった。


 だから、後はファラエとの交渉次第だろう。


「あ、いやっ、そうじゃないんだよ。まさか、別れを切り出されるとは思わなくて……」


 どうやら違ったようでが、そのセリフに内心首をかしげる。


「私が言うのも何だけど、一緒に居て得するようなことはないわよ? やろうとしていることが、どんだけ無茶苦茶か理解してるのよね?」


 単純な商売っ気で言うならば、儲かる。かもしれないが、命を差し出した配当金としては少ない。


 一国には確実に、教会にさえ、睨まれている。


 魔王を倒したところで、得るものなんて自己満足だけ。


「うぅん、お金や名誉なんていらない」


「じゃあ……っ」


 ファラエが真面目な顔で見据えて来たので、言葉を飲み込まざるを得なかった。


 一体何を求めるというのか。


「勇者、君の傍にいられることが大事なんだ……!」


 熱烈で、嬉しいセリフだと思うし、拒絶することも難しい。


「ここまで来て、わかったんだ。お金では買えないか――」


 だからこそ、君の告白はプライスレスだ。


「――ダメよ。それ以上はジョークだわ」


 モフモフのウサギハンドでファラエの口を塞ぎ、傷を広げないようにする。


「ご、ごめん……。こんなことを女性に伝えるのは、初めてだったから……」


「ふふっ。その気持はありがたく受け取っておくわ。ただ、返事は期待しないで頂戴」


 顔を赤くしてまで必死に伝えてくれた気持ちに、首を縦に振る権利などないのだから。

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