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案件47「盛大な進捗2」

 やったことはそれほど複雑ではない。


 十六階以上のセキュリティを繋いで、どこかの異常に反応する一地点を作ったのである。


 十五階以下だと、俺の作ったセキュリティの接続は末端を星型にして、巡回魔族が待機しているところまで引く。


 新型は、それらの星型の中心点を全てリング状にしてしまったわけだ。


 しかも、末端に異常があれば中心点にそれが伝わる。リングの一部に異常がでれば、最終地点で異常を感知できる。


 そういう風に“マテリアル”を刻み込んだわけである。


「“マテリアル”そのものの働きは直ぐに理解できないけど、どこかで途切れたときにどの中心からでもわかるってことだよね」


「そうそう。ネットワークトポロジー……あぁ、えっと、各階に仕掛けた末端セキュリティの構造上、解除されても機能したのと同じようになるのよ」


「それを利用しているわけか。なかなかにずるいことをしているんだね」


 ズルと言われるとそうかもしれないし、セキュリティとしては正しいとも言える。


 もちろん、本当に機能しないように解除する方法もあるし、それも攻略本に書いてある。


 ズルなのではなく、難易度の上昇である。後は、探索者がそれに気づいて対処できるかの問題だ。


 これからも、ある程度まで階層が増えた時点で難易度が上昇するので頑張っていただきたいものである。


「罠の強化だってダンジョンの醍醐味よ。何度かやれば、わかる仕組みにはしてるんだし?」


「確かに攻略本を見る限りは、シンプルな方法で誤魔化すなりできるみたいだけど」


 ファラエも納得してくれたようだ。


 開閉式セキュリティは、以前にも説明した通りの方法である。


 動体感知式は、魔法の発生元を何かで覆ってしまえば良い。巡回魔族は修理や除去まで担当しないからね。


「またクリアできないからって、探索者の足が止まらないように注意もしてるわ」


「その言い様は……。あぁ、新しくした方のセキュリティも、ちゃんと攻略本にするつもりってことだね」


「その通りよ」


 そんなわけで、俺の攻略本はバージョンアップを続けていくわけだ。


 探索者達の努力を喰らいながら、イタチごっこを繰り返し……。


「さぁッス、二人共~。次のお客さんが来たッスよ~」


 ファラエへの解説が終わったところで、アサガオからお呼びが掛かる。


 そんなに長い時間は語って居なかったはずだが、それだけ客の入りが良いということなのだろう。


 嬉しい限りじゃないか。


「いらっしゃいッピョン」「いらっしゃいませッス」「いらっしゃいませ」


 三人の声がハモり、ダンジョン前に響き渡った。


 この調子で攻略本販売は順調に進み、バージョンも『2.113』にまで到達した。


 販売開始からの経過日数6日。ダンジョンレベルは29である。


「うーん、探索者様様ね」


「そうッスね! これで28階層、巡回魔族は10レベルッス」


 俺の言葉に続けてアサガオが、ダンから聞いてきた報告を上げてくれる。


 そこで、俺はその違和感に気づく。


「あれ? もう1レベル分はどうしたのよ?」


「いや、そんなこと言われてもッスね……ひい、ふう……」


 指摘にアサガオは指折り数えて行くが、次の言葉がかけられる方が先だった。


「あぁ、勇者よ。その件についてだが」


 ダンジョンの外まで出てきて、何やら改まった様子で口を開くダン。


 振り向けば、そこにはなんとなく覚えのある表情が。


 俺の父親や、勇者ちゃんのお父さんなんかが、オフクロ達に何かをお願いする時の顔だ。


「なによ?」


「うむ、欲しい……独占したいアイテムがあるのだ。多分、これっきりだから許可が欲しい」


 いつもとは打って変わった歯切れの悪い口調に、俺は顔をしかめるしかなかった。


 それを、ダンは不服を買ったと思ったのか焦りを浮かべる。


「あぁ、いや、ダメなら良いんだ……。忘れてくれ」


 そんな様子を見ながらアサガオが、隣で小さく呟いているのが聞こえる。


「すっかり尻に敷かれるようになったッスねぇ」


 ここ数日、『土“マテリアル”ダンジョンの乱、裏切りの証拠は湯煙に消えゆ』事件のことでネットリと仕返ししてやったせいだ。


 何をしたのかとか、聞いちゃダメよ?


 まぁ、俺の働きは認めざるを得ないのも確かだろうが。


「何言ってんのよ……」


「そ、そうだろうな。手間を取らせた」


 だからと言って、それは間違いというものだぞ、ダンよ。


「違うわ。ここは、貴方の管理するダンジョンじゃない」


 そりゃ、ダンだけに任せておくとロクにレベルを割り振らないからな。


 その上で、正面から複数の探索者を相手にして負けるんだ。


 故に俺は、マネージャーとかコンサルタントみたいな立ち位置と言える。


「えぇっと……」


「貴方が欲しいなら、手に入れれば良いじゃない。無駄遣いでないと思うなら、ね」


「お、おぉっ! すまない、助かる!」


 ちゃんと理解したのかはわからないが、大喜びで駆けていく姿が可愛いからいっか。


 俺も、ダンが何を欲しがったのか気になったため追いかけた。


 うぉぉっ、早っ!


 全力疾走のダンジョンマスターって、さすがに『ニトロ・ブースト』や『レビテーション』にこそ劣っても早いわ……。


 魔族の身体能力を改めて実感する。


「ふぅ……ふぅ……。そんなに急いで、欲しかったものって……」


「おぉ、勇者まで来たのか。いや、これだ。これが欲しかったのだ」


 嬉々として、ダンは独占した二品目のアイテムを見せてくれた。

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