案件46「盛大な進捗1」
「ふぅ……賢者様もなかなか無理をするッスよ」
アサガオが一息吐いて、今までのように即売を再開する。
「着替えのために、“荷役のベルト”を外していてよかったね」
「ホントよ。というか、エントラが本気で殺りにいくとは思わなかったわ……」
ファラエも少しずつ慣れてきた様子だが、顔に張り付いた苦笑いが外れない。
俺が驚いたのは、エントラのもう一つの顔と言うべきか。ちょっと怖かった。
あのアサガオが、表情に出してまで辟易するレベルだと言えばご理解くださるだろうか?
ユウガオ並に厳しかったということだ。
溜まってるってやつなのかなぁ?
「二度と戦いたくないッスよ。もうけしかけないでくださいッス」
「はいはい、ごめんなさい。でも、アサガオも武器なしなのに良い勝負してたじゃない」
「そりゃ、勇者様に出会う前からいろいろな相手をしてきたッスから。武器があれば、それなりの敵と戦えるッスよ、フフンッ」
何がフフンッだ。たま~に褒めると調子に乗る。
しかし、以前から想っていた通り、ユウガオとアサガオの戦闘センスが優れているのは確かだ。
アサガオ対エントラの勝負については、いずれ暇があれば語るとしよう。
「さて、来たわね。予定より早かったかしら」
四日目にして、一人を除いては見覚えがない探索者達がやってきた。
「よってらっしゃいみてらっしゃい。先人達が挑み、敗れていったダンジョンの一部を徹底解説! 攻略本の購入はここですよー!」
「さぁさぁ、ダンジョン攻略に役立つ情報満載ッスよ! 今なら20ゴールドと大特価ッス!」
一概に嘘ではないけど、事実かと聞かれれば首をひねる呼び込みだ。
真っ直ぐにこちらへ近づいてくるあたり、どうやらお客さんってことで正解だった。
「どうもいらっしゃい」
「いらっしゃいませ~」「いらっしゃいませッス」
商売の基本は、笑顔と挨拶である。
ファラエを売り主として印象づけた後、俺やアサガオが脇を固めることで花となれる。
「……」「!?」「い、いやぁ、参ったなぁ~っ」「――!!!?」
しかし、どうも利きすぎてしまったようだ。
必死に取り繕うとする者。
鼻腔から鮮血を流す、特定ステータス異常耐性がないディーティー君。
危うく昇天する寸前になる奴はまだ良い。そもそもどうすれば良いのかわからん。
何やら怪しげな表情で、グヘヘとか妄想するんじゃないよ、三番目の覆面……。
サインをまだ届けてないけど、渡さなくて良かったと思う。
「お兄さん達、お一ついかがッスか? サービスもあるッス」
すぐさま対応できるアサガオもなかなかだよな。
ユウガオで慣れているだけある。
「た、たくさん買ってくれたら嬉しい……ッピョン」
な、なんちゃって……?
アサガオに勧められて、マスコットっぽく語尾を付けてみたんだが。
お硬い雰囲気を払拭しつつ、気絶している間に施して貰った化粧での変装を効果的に見せられるとか。
「人数分で良いよな?」
謎の覆面さんことマスクメロの言葉に、仲間であろう三人も頷き返す。
「だよな。可愛いウサギちゃん二人にねだられたんじゃ買わざるを得ないよなぁ?」
「ありがとうッス……」
うわぁ、たくさん買ってくれたのは嬉しいけど、酷い妄想をしているような気がするよぉ……。
アサガオが引くくらいだよ?
まさか、ファンの多い探索者って皆こんな感じだったりするのかね?
「あ、これ俺の『マジック・センテンス』ね」
「あり、がとうございます。ご贔屓にお願い、します……ッピョン」
勘違いはダメだと思う。
もう、ここまでくると破れかぶれになって媚びてやろうとさえした俺は、悪い女だよ……。
「無事に攻略できたら、俺と食事でもいかがかな?」
格好に似合わない口説き文句を言いながら、マスクメロ軍団はダンジョンの中へと入っていった。
「いってらっしゃいませ~……」「せいぜい、頑張ってくださいッス~」
俺達はそれを、なんとも形容し難い哀れみと僅かな侮蔑を含んだ笑顔で、見送った。
もちろん、盛大な失敗フラグだったけどね。
今は予測しかできない未来のことはさておき、その後も何人かの客がやってきた。
攻略本のお陰で十五階くらいまでなら上れた探索者も居た。
大半は、十階に到達するか否かというところで力尽きて放り出されてしまう。
「攻略本があっても、なかなか壁を超えられないものッスね」
ダンジョンから出されて、一度町へと避難していく探索者達の背中を見送る。
昇格試験とかの後、駄弁って帰る学生みたいな哀愁。
これまでの結果に関して、アサガオが感心してくれているので説明しよう。
「それはね、16階からさらにセキュリティを強化したからよ」
「賢者様と何かやってると思ったら、そういうことだったんッスか」
「“マテリアル”を反転回路にも合流させたのよ。今までのなんて序の口なんだからッ」
「えっと、説明されても、なるほど全くわからないッス」
本気で嫌がってる顔じゃないから説明を続ける。
まだ話のハシリなのに、理解するつもりがないセリフが飛び出してるぞ。
「じゃあ、僕が聞いておくよ」
代わりにファラエが、俺達の頑張りを聞いてくれるようだ。
やぁ、聞き流してくれるだけでも良かったんだけどね。聞いてくれるなら嬉しい限りだ。




