案件45「やっぱり口コミですよ3」
まさかなアサガオの謀反が、俺には口惜しくさえあった。
あ、なんの意外性もなかったわぁ。
「まぁたっ、おかしなことを!」
どうせ、ロクでもないことを考えているのだろう。
「ハハハッ! 私が、ずっとやられっぱなしだと思わないで欲しいッス!」
『ミスト・ヴェール』を剥がしたアサガオが、バニー姿で勝ち誇ってくる。
隠れて何をやっていたのかと思えば、ウサギちゃんにされたことへの報復を計画しているらしい。
「まだその格好で良かったじゃない。まんざらでもないんでしょう?」
解けない魔王の呪いってわけでもなければ、割と客達にチヤホヤされて喜んでたじゃないか。
「そ、それは、そうッスけどぉ~……」
営業スマイルとかじゃなくて、本心だって認めるのかよ。
薄氷を砕きながら踏みとどまり、このダム・バニーにどんなお灸を据えてやろうかと思案する。
せめて、もう少ししっかりと凍らせて置くべきだったな。
「おっと、何か忘れてないッスか? 勇者、様ぁ」
「へっ?」
素っ頓狂な声を上げるくらいに、迂闊だったことを認めよう。
背後に大きな影が迫り、首を少し捻ったところで抱きとめられてしまう。
「ひゃうっ!? ちょ、ちょっと、ダンっ!」
それはベア・ハッグ。ロマンの欠片もない、物理と力による抑止であった。
もちろん、鯖折りにならない程度の力加減で留めてくれてはいる。
「いや、何やら面白いものを見せてくれるというのでな。下剋上、それも良いのではなかろうか」
アサガオに言いくるめられているたのである。
何度となく見てきたが、アサガオは――『気質』ゆえか――どうも他人を操ることが得意である様子だ。
さておき、頭を占めるのはもっと大きな思考であった。
「は、はははっ、離して! ま、まだ、心の準備がっ!」
力で振りほどくことは叶わず、ただ狼狽するのみ。
混乱のあまり、おかしなことを口走ったことさえもこの時は気づいていなかった。
考えないようにしていたのに、こうしてまともに抱きすくめられては事実に戸惑うしかない。
「そんなに嫌がったりしたら、ダンデリオンが可哀想ッスよ? それに、ちょこっと。ほんのちょっぴりッスから」
何がちょびっとだ! そうやって、全部ノンストップで行くつもりなんでしょう!?
「はだ、はだっ、か!」
「?」
そうだった。
アサガオは、ダンジョンマスターの姿が素形そのものだということを知らないのである。
要するに、裸のダンに抱かれているのとなんら変わりないということである。
知ったら知ったで、後々のネタとして描かれそうだ。が、それすら気にしていられるだけ余裕はなかった。
プシュー……。
――。
―――。
――――。
意識を取り戻したところで、誰かの声が聞こえてきた。
「盗賊の姐さんっ。勇者様に何をしたんですか!?」
まだ少し視界がぼやけているものの、エントラとアサガオが言い争っているようだ。
「ま、まぁ、そう言わずッス。ちゃんと、介抱するッスから」
何をしでかしてくれたのかはわからないが、責任は感じているようだ。
感じてるよな?
少し不安に思っている間に、大きく掲げられたアサガオの手に水泡が集まっていく。
「『ウォーティング』からの~『クラッシング・アイス』ぅ……?」
「いや、潰れるからっ!」
直径五メートルくらいの氷塊が完成したので、狸寝入りをやめて起きた。
氷嚢にしてはでかすぎる。巨人用かよ……。
周囲を見渡すと、どうやらダンジョンの中に運び込まれたようだ。
「こ、これは……?」
さらに視界へ飛び込んできたのは、白いモコモコの格好だった。勇者ちゃん自身の!
頭にも毛皮っぽいキャップを被せられているのがわかる。
ご丁寧に、脱いでいたものを着用させた上に被せてくださっている。
「まさか、水風呂でのぼせるなんて、勇者様も器用なことをするッスねぇ」
「おう、言ってくれるじゃない。第一、何よこの格好はっ?」
体感から思うに、今の格好はキグルミとバニーコスの真ん中くらいに位置する、ウサギの格好をしているのだろう。
手自体をあまり動かさなくても、可愛らしく動くようにまでされている。
「私だけじゃ不公平なので、ファラエさんに作って貰ったッス!」
とんでもない下剋上をしでかしてくれる。
どうしたものかと思案したところで、エントラと目が合った。
「……エントラさん、やっておしまいなさい」
「イエス、マイロード」
何か言いたそうだったので、三回くらい変身を残していそうな宇宙人のマネをしながら、アサガオの処刑をお願いする。
素直に聞いてくれた。アタリか。
さて、俺は二番目に重要な戦犯であるダンに向き直る。
逃げずに部屋の隅で待っていたことは褒めてやろう。
「さっきは良くもやってくれたわね……」
「まぁ、なんだ。可愛かったぞ? 真っ赤になりすぎて、湯が沸くかと思った」
子供をなだめるように、頭へ手を伸ばしてくる。
「グルルッ……」
手を振り払い、噛み付いてやる。
「ハハハッ、お腹でも空いたか?」
平気な顔で笑いかけてくるダン。
文字通り歯が立たない相手ってわけだ。
……おあとがよろしいようで。




