案件40「勝つは信じる者か?1」
俺と隊長さんが話している間に、他の奴らの動きを察したリーサが微動する。
“黒陽のパラソル”を作り出そうとしたところで、指に力を入れて制止させる。
「大丈夫」
右の少し前に立つリーサをなだめて、まず横にいる二人の団員を足払いする。咄嗟にカイトシールドを下げきれず身体が浮く。
前のめりになった団員二人に、裏拳を叩き込むのはリーサだ。
右を。次に俺の背を転がり左を倒す。
「終わりっ」
「次っ!」
2~3秒で仲間二人が倒れ戸惑っている後ろの団員に、蹴りを入れた。倒れる。
その勢いを利用して跳躍。
リーサが俺を横に反転させ、回し蹴りを隊長さんに繰り出すことになる。
「くっ。ぐっ! うおっ!?」
“ロングソードⅡ”とカイトシールドで受け止められたが、三段蹴りに成功した。
前転宙返りからの着地にリーサもシンクロしてくれる。
「隙ありぃっ!」
後ろから攻撃してくる団員達。
隊長さんは、手が痺れているらしく直ぐには再起できそうにない。
まずは団員達を片付けるのが先みたいだ。
「こんなの隙にもならないわよ」
縦断していく刃を横並びに回避する。
横薙ぎに空を割くときは二人でブリッジをして支え合った。
「二人三きゃ……腕のくせに良くやる……」
ここまで一度も腕を離していないので、団員達もちょっと驚いてくれる。
「褒めても何もでないぞ?」
「ありがとう。これはお礼よ!」
リーサが飛んで、垂れ下がったパイプに足を巻きつける。俺の手を持ち替え取り替え、プロペラの如く振り回す。
切りかかって来ていた騎士達が、ズザザッと滑り飛び退る。
いや、吹き飛ばされていく。
回転が止まる頃には、大半の団員が円を描いて倒れていた。
「こんな奴らに礼をしてやる必要はないだろ」
「ダメよ、リーサ。礼節は忘れちゃ」
「ふぅん……」
リーサは釈然としない様子だが、人って言うのはそんなものだ。
ユーモアは心の余裕から出てくるものってこと。故に、俺は問いかけた。
「まだ続ける?」
ほら、隊長さんはこれでも余裕を崩していない。
「あぁ、俺は激怒した。必ず、この邪智暴虐の女王を取り除かなければならぬと決意した」
リーサか勇者ちゃんか、どちらかもしくは両方を差して暴君とは言ってくれる。
「じゃ、じゃち……ぼう、ぼう……っ!?」
「あっ、リーサぁ……?」
いけない。まさか、あれでマイナス方向に振り切れるとは思わなかった。
何分で、何時間で復活するかわからないのが問題だな。
こういうところで、「ほざけ人間がぁ!」くらい言えないところが可愛いよな。
「なんだ……?」
「気にしないで上げて。悪口にはめっぽう弱いのよ、この子」
隊長さんが訝しむのもわかるので宥めておく。一応は、これで納得してくれた様子だ。
「ふんっ。では、続きを楽しもう」
蒸気二輪を降りてコイフを脱ぎ、一人の騎士は赤毛の長髪をなびかせる。
鼻下から顎にかけて蓄えられたヒゲが素敵な、騎士の中の騎士と言わんばかりのダンディさんだった。
「敵として、戦いの続きであることが残念でならないわ」
本当にもったいない。
「我が前に立つは反逆者なり。5つの花弁を食い散らかす虫。汝の前に立つは神の御使いなり。咲き誇る花々を守る聖なる庭師」
男は“ロングソードⅡ”を握り直して、主に誓うための文言を口ずさむ。
「神を貪る愚かな害虫に、鋏を持って鉄槌を下さん。反逆の徒を慰む花弁よ、鍬と鋤を持って誇らしく育たん」
象徴を掲げて、異端者への処罰執行を宣告する。
「主よ、どうか聞き届け給え。執行者、ガラム=オーニンの名を」
カイトシールドを構えて、騎士ガラムさんは害虫を処理するために立ち向かってきた。
しかし、残念でならない。
「真の全力でお相手できなくて申し訳ないわね」「ウアァァァァァァ――ッ!!!」
同じように手を使って武器を振り回せないことに、俺は謝罪を述べて迎え撃つ。
鼓膜を破らんばかりの裂帛の気合が、抜身の刃となって襲いかかってくる。
『毒使い』の能力さえ使って見せられないことを、怒っている様子はなかった。
「グッ! あー……ぶっ飛べぇ!」
せめて、正面からこの男を打ち倒すべく蹴りを繰り出す。
避けても意味がなかったというのが正しいのかもしれないが。
「うごぉっ!?」
“爆蹴ズⅢ”の底を盾で受け止め、ズドンッと吹き飛んでいってしまう。壁にぶつかり、天井で跳ねて、床を転がる。
カイトシールドをクッションに、なんとか受け身をとったお陰かなんとか生きている。
「人を、ゴムボール、みたい……に……ゴフッ!」
盾と鎧がなければ本当に即死だったかもしれない。
血を吐くほどのダメージを受けながらも、ガラムさんは剣を地面について立ち上がってくる。
意地とタフネスは認める。その信心も否定はできないが、これ以上は本当に殺してしまうので止めて欲しい。
「私は、もう戦いたくないのだけれど……」
「う……ぐ。う、うるさい! ここで退けば、教会騎士団の……ハァ、ハァ……名折れっ」
「そう……」
そこまでして命を懸けようとするならば、俺にだって考えがある。
「今ので、勇者……没落勇者とて、腕に傷を負ったではないか……」
確かに、こちらも腕の肉をざっくりと切られて手負いだ。
ガラムさんの剣技は、間違いなくかなり熟練されている。
「まだ、使いもしない腕を一本、やられただけじゃない」
だからこそ俺は微笑んだ。嗤った。
痛みで冷や汗ダラダラだけど、笑いを絶やさない。




