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案件39「順風満帆の兆し?3」

 土の“マテリアル”ダンジョン周りに騎士団が居なかったことを考えると、俺が行きそうな場所で張って居たんだろう。


 ガーデンロードとかに俺自身が行かなくて良かった。


 まぁ、今となってはそんな結果論も意味をなさないが。


 さてさて、囲まれてしまっているのだから逃げたところでどうしようもない。しつこく追いかけてくるだろうしな。


「どうする?」


「どうするもこうするも、降りかかる火の粉は払うわ」


「手伝いは必要かい?」


 リーサの方から提案してきたので、ついつい頷きそうになった。


「それならお願いしよ……えっ、あ、いえ、リーサに任せるのは心配なのだけど?」


 ここはダンジョンの中ではない。


 殺せば、死ぬ。


「不安なら、このまま手を離さないでおいてくれ」


 言って、リーサが繋いでいた手に力を込めてくる。


「わかったわ。貴女が癇癪(かんしゃく)を起こさないようにしておいて上げる」


 きっと人間を許すことできないのだろう。それでも、せめて勇者ちゃんの前では殺さないようにというのが見て取れる。


 嫌われたくないから頑張ろうとするリーサが愛おしい。


 手を握り返すのが合図になり二人で動き出す。


「さて、デートの邪魔をしてくれたお礼をしよう」


 雁首揃えたコイフとサーブレアを眺め回し、リーサが笑顔の敵意を顕にする。


 続々と集まった70余名の騎士団員の中から、一人が代表で踏み出してきた。これぐらいじゃ怖気づきもしないか?


 隊長格に限り、馬の代わりと言ってはなんだが二輪タイプの蒸気輪を携えている。


「見よ、あれが我らの信じた勇者だ」


 開口一番に、俺へアテンション。緊張するじゃないか。


「魔王の下僕であるダンジョンマスターに与した! かつ、正体不明の薬剤を『悪魔祓いの聖水』と偽り弱き村人達の金銭を巻き上げたのである!」


 酷い言われようだが、ある意味で真実だから困る。


 しかし、俺は自分が間違えたことをしていると思ったことはない。認めるつもりもない。


「ダンジョンマスターと共にあるのは、私にはもはや勇者としての義務がなく、これが自分なりの魔王攻略だからよっ」


 魔王の考えがわかった時点で、もはやそれも形だけになっているのだが。と言うか、この世界のこと好き過ぎるだろ、魔王。


「確かに、単なる栄養剤を教会の名を騙り売りつけたことも認めるわ! けれど、それだって弱った村の人達のためなのっ!」


 さすがに抗生物質だの、ワクチンだのについて説明できないので、そういうことにしておく。


 だが、これだけでは弁解にもなりはしないしそのつもりもない。


 戦いは既に始まっているのだ。


「私は罪なき人を傷つけたり、国に弓引くつもりはないわ! 貴方達も、僅かでもこの戦いに疑念があるのなら刃を下げなさい!」


 ここで、隊長格の男は焦りを覚えたことだろう。


 勇者ちゃんが完全な悪でないことを知られてしまえば、団員達の士気が下がってしまうからだ。


「異端者の戯言だ! 撃ち方用意!」


 号令が掛かるも、何人かは魔法や“スクロール”の準備に遅れる。


 当然、上層民の団員達にとって残留市民や下層出身の人々などゴミ同然。


「こんなところでぶっ放すつもり!? 一般市民(・・・・)は死にたくなければ逃げなさい!」


「なるほど」


 リーサも俺の意図を察したようだ。


 ゴミと蔑んでいるはずの人達を、この町の当たり前にある存在だと思わせることで、俺の精神攻撃は完成する。


 二段階で躊躇わせ、攻撃を順番に処理できるようにする。


「放てぇーっ!」「『フレイム・ショット』!」「『エアー・カッター』!」「……!」「……!」「……!」


「……く、『クラッシング・アイス』!」「『クラッシング・アイス』!」「……!」「……!」


「あわわっ! 『ストーン・ボム』!」「『フレイム・ショット』!」「……!」


 バババッ、ガガガッ、ダダダッと断続的に魔法が放たれた。


 これだけの力が寄り集まると、壮観を通り越して恐怖を覚える。


 しかし、木っ端な力の集まりなど圧倒的な暴力の前では何の役にも立たなかった。


「『ウインド・バースト』!」


 リーサの起こした竜巻が、初弾を打ち上げて霧散させる。


 ただ散らすだけではなく、無作為な色彩も、風統べる女王に掛かれば至高のグラデーションを奏でるのだ。


 半歩遅れて、その風に乗り俺とリーサも宙へと舞った。


「はっ!」


 リーサの頭上を、俺の脚が通り過ぎた。


 第二波を順に蹴り返して、第三波にぶつけて相殺した。


「まだまだっ!」


 返還はまだ終わらない。


 次々に氷塊を火球に、土塊にと衝突させ消していった。全消し成功だ。


 それを、上昇気流の中でバランス制御して可能にしてくれるのがリーサである。


「このまま行くぞ!」


「良いわよ!!」


 息を合わせて晴嵐から飛び出し、腕同士を掴む形から繋ぎ方を変える。指と指を絡め、手の平を密着させる。


 着地に合わせて抜剣した騎士団が四人、連携を取って攻撃を仕掛けてくる。


 ご丁寧に、盾まで構えた慎重さだ。多少のカウンターが通るとは思えない。


 それらを防ぐのは、リーサが手の一振りで展開した漆黒の日傘“黒陽のパラソル”である。


 傘を開いた状態のとき、一度切りとは言えほぼいかなる攻撃も防御することができる。


「チッ!」「小癪!」「……」


「瞬間的に展開できる実力は確かか」


 隊長さんは、ここまでの流れでこちらの戦闘能力を把握したようだ。


 蒸気二輪を操作しながらも連携できる手腕こそなかなかじゃないか。突進と斬撃が日傘にぶつかり、火花を散らしたのはヒヤッとしたよ。


「ありがとう。でも、上層住まいの貴方が蒸気輪なんて使って示しが付くの?」


「なに、こいつはガワだけさ。操縦は“マテリアル”を使ってる」


 なるほど、“マテリアル”を火水の最低二種と“魔エネルギー”持ちか。


 油断できる相手じゃないことはわかった。

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