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案件38「順風満帆の兆し?2」

 攻略本販売を皆に任せ、俺は夜を徹して西へと向かった。


 せっかく汗を流したというのに。


 リーサにも砂漠地帯から出てきて貰えるよう連絡を入れたので、砂まみれにならなくて済む分は助かるか。


「お嬢さん、ここで本当に良かったんで?」


「えぇ、無理を聞いてくれてありがとう」


 連絡を入れた際、集合地点をリーサが指定してきた。


 グリーンネストの、人間が活動できる限られた範囲において、中央に位置する町だった。


「毎度あり」


 ここまで無理を聞いて乗せてきてくれた蒸気輪の運転手が走り去るのを見守っておく。


 蒸気輪っていうのは、文字通り蒸気を使って走る車だ。見た目もゴーカートとかキャリーカートに近い。


「私も蒸気自動車の一つでも買おうかしら。高いなら『レビテーション』の“スクロール”ね」


 移動の不便はどうにか解決しないと行けないと思っていたころだ。


「お金に困っているんだろ? 『レビテーション』のなら、今度私が持ってきてやろう」


 思案していると、頭上からリーサの声が聞こえてくる。


 崩れかけた赤レンガの壁に座り、ニヒルな笑みを浮かべて見下ろしてくださっている。


 心の中で見えない尻尾を振っているのを隠せていれば、少しは様になったのだろうが。


「私を楽しませてくれたら、譲ってやるよ」


「こんなところに呼び出して、どうするってーのよ?」


「どうした? 何もないところでは遊べないか?」


 質問に質問で返すのは無しだ。


 とりあえず、リーサの目的はわからないが、俺を試してるってことは確かだ。


「旧都でやれることって、昔の食べ物相手にお宝探しだけじゃない」


「それも面白そうじゃないか」


 必死に嫌味を含ませてカラカラと笑うリーサ。


「ちょっとトンチを利かせないといけなさそうだけれど、なんとかするわ……」


 やれやれと呆れ、拗ねた子供を相手にしている気分で了承する。(リーサ)への愛情を示せと言っているわけだ。


 しかし、本当に本当のところ、旧都エウアンサス・パニィなんてほぼゴーストタウンである。


 賞味期限なんて遠い昔に切れてるだろう古い食品を探すにしても、大概が掘り尽くされている。


 下手にうろついていても出会うのは、盗賊紛いの残留市民か、各国や町の下層から逃げてきた奴らくらいのもの。まず得することはないだろう。


「お手をどうぞ、お姫様。悪漢からお守りする必要はございますか?」


 トットンッと隣へ跳び乗り、届く範囲で手を差し出してみる。


「エスコートしてくれるのか? では、お願いしようか」


 評価点を上げとかないといけなさそうだからね。


 リーサが手を掴んでくれたので、その軽い身体を持ち上げて立たせる。


 町をどう歩こうか、どこまで進もうか、そんな期待が手を通して伝わってくる。


 追従して段差まで跳び上がるステップの一つ一つに力がこもっている。


「~♪ ~~♪」


 意外と上手な鼻歌まで奏でるくらいには嬉しいようだ。


 普通に歩いたのでは加点が無いかもしれないし、少し高いところから町を見てみようか。


「こっち」


「おっ?」


 パイプの這ったレンガ壁を走り、穴だらけになった屋上へと登ろうとする。


 届かない部分は、キャットウォークにリーサを先に上げて、引っ張り上げて貰う。


 更に高いなら、俺を上げて貰ってからリーサを。という具合だ。


「よっと。なかなか楽しいじゃないか、人間の町探検も」


「喜んで頂いてなによりよ。私も、旧都を観て回るのは初めてだからちょっと新鮮ね」


 他の国や町と比べて、見ての通り建築様式などが違うので面白い。世界遺産や古都を観るのが好きな方にはお勧めだ。


 グリーンネストのほぼ全てが魔族に支配された時代、人々はこの旧都へ逃げ延びざるを得なくなった。


「先代魔王様が作り上げたとも言えるのだよな。あ、いや、すまない」


「良いのよ。そのお陰で現魔王が手心を加えてくれたんだし。ね?」


「さ、さて、何のことやら……」


 やっぱり、ダンジョンマスター達は魔王の意図を知っていたようだ。


 だからこそ、リーサの人間への敵愾心を掻き立てることになったのかもしれない。


「フフッ。ま、それは良いわ。人間が、なんとか生活圏を取り戻したのは確かだからね」


 攻撃の手が緩んだところを人間が反撃したわけだ。


 その際、最も先に領地を取り戻したのが言わずと知れた砂漠の国(アデニウム)雪の国(スノードロップ)の二つである。


 普段俺も言っている通り、これを『一世代』って仮称している。


「リーサやヘルが、一世代目であるアデニウムやスノードロップを酷く嫌っているのもわかるわ」


「……」


 あまり触れないほうが良い話題なので、これぐらいにしておくとしよう。どうしようかと、屋上から町を眺めた。


「リーサ、貴女……」


 町へと入ってくる幾つかの人影が見えた。隠れもしていない、堂々と武装した姿を見れば何者かわかる。


「ダンジョンの周りをうろついていたものでね。チェーンメイルにサーコート、旗印は五方の花弁とフラスコ瓶か」


「明らかに教会所属の騎士団じゃない……」


 他人事のような態度のリーサを半目で睨んでやる。


 どうしてこんな辺鄙な旧都をデートの場所に選んだのか、漸く得心がいきましたとも。

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