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案件30「そうだ、観光地に行こう4」

 外部作業用のサビびついた階段を上り、屋上へと向かう。


「クソッ! 逃がすな! いや、近づくな!」


「投擲ナイフはどれだけある? 近づきすぎなければ……!」


 刺客の二人がナイフを投げつけつつ、追いかけてくる。


 途中にある排煙用パイプを足場にして屋上へ急ぐ。直線の階段ではナイフを避けられない。


 当然、仮面どもも追いかけてくる。


「しつこいわねっ。お仲間さんは、しばらくすれば治るから!」


 LSDは依存性が少ない点は褒められる。リーサに使ったのも、一番問題がなさそうだから、だ。


「そんなことではない!」


「もう許さんぞ!」


 最初から許す気なんてなかっただろ。


 命を狙われる理由くらい教えてくれってもんだ。


「なんでそこまで追いかけてくるのよ?」


「お前の知るべきことではない」


「さっさと捕まったら、優しくしてやるぞ?」


「わかり易いお返事ありがとう!」


 分かりきっていたし、こんなこともあろうかとユウガオとアサガオを情報収集に向かわせたんだ。


 煙を目隠しに、煙突を盾に、工場の屋上を走って飛び降りる。


 が、ここでフェイントを掛ける。相手が近づいてこないことを良いことに、少し落下地点を観察。


「ばぁ~い」


 手が空いてないから、振り向いて挑発的にお尻を振ってやろう。


 挑発に乗って建物の縁へ近づいて来てくれたらオッケー。こちらを覗き込む前に、準備を終わらせておく。


「『ポイズン・サーチ』、『クリエイト・ポイズン』、『ポイズニング』、『エンチャント・ポイズン』」


 俺がこれまでに見つけてきた毒を解析して創造、それを宙に垂れ流す。それが足に触れたところで付与する。


 白く少し粘性のある毒だ。あくまで、間違いなく毒だ。


「なっ!? ぐぅ……っ!」


 パイプを蹴って、追ってくる一人にムーンサルトを決めた。


 俺を追走できる程度に軽装なのは分かっているので、腕でガードされても“爆蹴ズⅢ”であれば多少のダメージは与えられる。


「大丈夫か?」


「なぁに、かすり傷だ! 小癪なことをしてくれる……」


 見た目が革コートの“バトルコートⅢ”あるとはいえ、切り傷がつくだけに留めるあたり腕は良いってことか。


「けど、それで十分よ」


『?』


 二人が首をかしげている間に、異変は進む。


「う、腕が! 熱い……!? 痛いっ!」


「何だ!? 腕が腫れ上がって!」


 俺は自由落下を続けてもダメなので、途中で壁を蹴って別の足場へ移る。


 工場地帯を蝶のように舞い、蜂のように――毒付き――で刺す。


 壁とも屋根ともつかない丸い住宅を走る。


「待て!」


「安心しなさいよ。ハチの毒では死なないから」


「そういう問題じゃない! 楽に死ねると思うなっ?」


 優しく毒カクテルを使って上げたのになんて言い草だ。


 さておき、薄い板金の住居を土台に、また蒸気噴く建物の間を疾走する。が、このポインセティスが円錐状の町であることが仇になる。


 要は、山の上から全力で走り下りてきたのだ。


 白霧の絡む視界が晴れた先で、土地の切れ目からフォールアウトする。


「あっ」


 蝶ように舞い、蜂のように刺し、カトンボのように墜ちた!


 俺は“風呼びのポンチョ”で助かるだろう。眼下の食事処にいる顔も知れぬ人、どうか成仏してくれ……。


 もしかしたら、別の世界に誰かの身体を借りて蘇れるかもしれない。


「ハハハハッ!」


 刺客の笑い声が耳障りだ。


 丸い屋根の中央をたわませて、ズボッと室内へと抜けていく。


 足を前後に動かす姿は滑稽だが、『歩行』でなければ“風呼びのポンチョ”が発揮しないので仕方ない。


「ぅんっ! うん……?」


 思わず目を閉じて、来る衝撃に備えた。


 なのに、思ったダメージが身体を襲うことはなかった。


 足で何かを踏み潰した感触もない。


 どちらかと言えば、背中と膝裏が何かに引っかかっている。人生二度目のお姫様抱っこだ。


「……」


 ちょっと苦しそうな見覚えがある気のする顔が、勇者ちゃんを見つめている。


「女将さん、空から女の子が……!」


「あぁん? 飯でも食わせておきな!」


 空から女の子が降ってきた反応がそれか。一階に居るであろう女将さんの肝っ玉が凄い。


「どうして、あ」「ごちそうになる前に、壁際へ寄って!」


 どこかで見たことのある青年探索者の声を遮り、俺は足を降って指示を出す。


 天井の大穴に、刺客が降りてくる姿を確認できたからだ。


 アッシュブロンドの青年は戸惑っているが、それでも俺の意図を察して壁際へ向かう。


 刺客が床に着地した。まだ無事な俺へと、“短剣Ⅱ”を引き抜き向かってくる。


 青年の見開いたブルーアイを堪能する暇もなく、壁を蹴って“風呼びのポンチョ”を起動。


「投げ上げて! しゃがむ!」


「!?」


 瞬間的に指示を理解する彼は有能だ。


 軽くなった身体が宙返り、“短剣Ⅱ”の刺突をやり過ごす。


 虚空を突き前の目ってきたところを、後頭部に膝打ちを叩き込んだ!


「ぐ、がっ!」


 顔面が壁にぶつかり、仮面の向こうに見覚えのある女性が浮かび上がる。


 記憶にあった綺麗な顔は見る陰もないが……。


「そのボブカット……貴女、水のダンジョンで見た人ね」

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