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案件18「ダンジョン・ホリデー2」

 ダンジョンの前で馬鹿をやっていると、頭上から声が掛かる。


「元勇者、戻ったのか」


 崖の頂上にいたのはダンである。


 額に浮かぶ珠のような汗を見るに、剣の鍛練をしていたのだろう。朝っぱらから御苦労さまである。


「ダンっ。中に入れてよね!」


 崖を丸々くりぬいて作ったようなダンジョンの入口は、荒っぽく大岩に塞がれていた。


 ズボラに看板が一つ、『休み』とこの世界の文字で記されているだけだった。


 この場で酒宴でもして騒げば、内側から開けてくれないかな。


「残念ながら見ての通りだ。他の場所で明日まで過ごすんだな」


「別にダンジョンの外じゃなくても良いじゃない……。私はまだダンジョンを管理する権限とかもらってないでしょうけど」


 わざわざダンジョンマスターまでもが外へ出なければならないわけではないはずだ。


 巡回魔族達だって、ダンジョン外で生活しているわけもなく。ぐっすり休息を取っているのだろう。


「そうは言っても、だ。元勇者よ。お前だけ入れたのでは、他の探索者どもに示しがつくまい?」


「ぐぅ……。私だけ特別扱いはできないってところは、ダンらしいわ」


 他のダンジョンマスターは、休日であっても中で住まわせてくれたというのに。


 ケチと言いたいところだが、ダンの言い分は正論なのでグゥの音もでない。


 ここで引き下がると、俺は一晩をまた野宿せねばならないわけだ。さすがに、そろそろエントラの抱き枕になるのは勘弁だ。


 ある程度で水浴びはしている。が、例え相手が子供とは言えども間近で臭いを嗅がれるってすっごく恥ずかしいんだよ!


 説得しようにもエントラの涙目に押し負ける。弱い俺を許してくれ、勇者ちゃん……。


「無理にでも南へ向かう……。早く、お風呂で奇麗にしないと」


 一人でぶつぶつと計画を練り直す。


「勇者様?」


 心配してくれるのはありがたいが、主に君の所為だよエントラ。


「うッス、勇者様」


 アサガオも心配してくれてありがとう。


 と言いたいところだが、その笑顔は殴りたくなるからやめろ。


「せっかくッス。この際、一度帰省するッスよ」


 やっぱりそう言う腹積もりかぁ!


 肩に手を置かないでくれ。


「そいつは良い考えでござる。急げば数時間の距離でござるからな」


 ユウガオも、何も考えずに賛成するんじゃねぇよ……。


「勇者様の母上様には、一度ご挨拶をしたきりでしたね。久しくお会いしたく思います」


 エントラまで!?


 神様、どうかお助けください! え? 野宿せずに、別々に寝られて、身体を奇麗にできる良い場所じゃないか?


「勇者様、何に祈ってらっしゃるのです?」


「放っといて連れて行くッス」


「久しぶりの街でござるな」


 チクショー! ずっと岩戸に閉じこもってやがれ!


 というわけで、俺はアサガオに無理やり連れて行かれて実家へ帰省することになった。


 どうして俺がこうも抵抗するのかは、皆さまもお察しの通りかと思う。


「……」


「大丈夫ッスよ。下層民に落されたからって、勇者様を責めるような親御さんじゃないッス」


「そうでござる。一度会っただけでござるが、そんなご両親ではなかったでござる」


「盗賊兄さんや盗賊姐さんの言う通りですよ」


 城下町の入口に立つ俺を、三人が励ましてくれる。


 嬉しいやら、悲しいやら。しかし、いつかは通らなければならない道なのだ。


「下層民用の門を開放する!」


 国の兵士の声が、跳ね橋の向こうから聞こえてくる。


 ジャラジャラと鎖の動く音が、ゴウンゴウンという歯車を回す蒸気機関の歌が、否応なく俺の立場を知らしめる。


「えーい、ままよ!」


 どうにでもなれと、俺は橋板を踏み鳴らして門を潜って行く。


 勇者ちゃんのことを知っているのか、それともその容姿に惹かれたか、兵士が目深に被ったケトルハットの向こうから睨んでくる。


 いずれにせよ、気持の良い視線ではない。


 何も絡んでこないのは、連れの三人が周りを固めているからだろう。


こちらを見ない(なぁに見と)でくださ(じゃぁワ)、ハグッ」


「そういう言葉遣いはいけません!」


 どこかのヤーさんみたいなことを言おうとしたエントラの首根っこを掴んで、引きずって行く。


「うん? こいつは珍しい顔じゃないか、エ――」


 門を潜って最初に声を掛けてきたのは、宿屋のおっちゃんだった。


「――そこまででござる」


 言いかけた言葉を、ユウガオに()き止められた。笑顔が、「それ以上話しかければ殺す」と言っていた。


 大慌てで蹴りを入れた。


「笑顔で威嚇するのはやめなさい! 悪い人じゃないから!」


 俺は、宿屋のおっちゃんに何度も謝りながらユウガオを引っ張って行く。


 実家に帰ってきた時は家の方で寝るため、あんまり関わりがないからよかったものの……。


 溜め息を吐いて、俺は先へ進んだ。


 錆びついたパイプや金属板が並ぶ、煩雑とした城下町の下層だ。


 轟々と留めなく蒸気機関が動き続ける。常に白い煙が噴き出し続けるか、唐突に放出されるか、どこを見てもいずれか一方である。


 次に勇者ちゃんを見定めたのは、蒸気輪の運送屋を営むお兄さんである。


「久しぶりじゃないか、エ……ェ?」


「話しかけるなッス。見るなッス。息を吹きかけるなッス」


 アサガオが、お兄さんの背後を取って“蒸気銃Ⅱ”を突きつけやがった。


 すかさず俺はスライディングでアサガオの足を刈り、軽い目に蹴り上げる。


 倒れながらも、アサガオは“蒸気銃Ⅱ”と腕をクロスして俺の蹴りをガードした。


「ゴフッ!」


 それでも“爆蹴ズⅢ”による蹴りのダメージを受けて悶絶するアサガオ。


「アサガオ、貴女は面白がってやってるでしょっ!」


「はい」


 はい、じゃないが。

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