案件17「ダンジョン・ホリデー1」
土の“マテリアル”ダンジョンへ戻る道中のことだ。
俺は、ひとつだけ過ちを犯していた。
簡単に言うと、北から東への道中にある村が一つだけだと言うことである。
「おうおう、途中にある唯一の村がまさかエントラの住んでた村だなんてね……」
「そのようですね。あまり良い顔はされないと思いますが、どうしますか?」
見知らぬ村ならば、計画通り薬を売りさばいて終わりだった。
しかし、その村に関しては勇者としての名乗りを上げていない上、賢者という村の物知りさんを連れて行った酷い人扱いになる可能性があるのだ!
仕方ないだろ。最初の頃は、まだ勇者とか名乗るのが気恥ずかしかったんだよ……。
「この際、村に戻る……気はなさそうね」
言いかけた途中で察し、エントラが俺の腰に縋りついてくる。
エントラを引き離せる妙案かと思ったが、意志は固いようである。
溜息一つ。
「とりあえず、助けられる人だけ助けるわよ。ユウガオ、アサガオ」
「ハッ、ここにおりまする!」
「呼ばれて飛び出てッス!」
うん、わざわざ隠れてまでやるそのノリは嫌いじゃないよ?
「はいはい、あそこで遊んでる子供達を連れてくれば良いんッスね」
呼び出されただけで、兄妹は俺の言いたいことを察してくれた。
村外れにある山道入口って感じの場所だ。村の子供達にとっては、数少ない遊び場だろう。
野良の魔族がうろついている可能性を除けば、だが。
下手をすれば、遊びの中で病気を貰うこともある。
「さて、今のうちに準備っと。『トキシック・トラップ』!」
ワクチンを取り出して、“マテリアル”に“魔エネルギー”を通すことで液体が宙にかき消える。
『トキシック・トラップ』は以前にも紹介した通りだが。これで、注射器なんかがなくてもワクチンを投与できるというわけである。
ただ、仕掛けた場面を見られていると相手に通用しないっていう弱点がある。
「なぁに、おねーちゃん?」
「僕らに会わせたい人って?」
準備をしたところで、男の子と女の子が連れられてやってくる。
「こらぁ、またこんなところで遊んで。危ないって言ってるじゃない」
五つになるかどうかという二人の子供を、俺は笑顔で叱りつける。
「わぁ、あの時のおねーさんだ! 賢者にぃもいる!」
「久しぶりです! てへ、村の中だと邪魔になっちゃうから」
こちらへと駆けてこようとする子供達。
ユウガオとアサガオは俺のアイコンタクトに従い、『トキシック・トラップ』の仕掛けられた場所へと二人を誘導する。
「うん、二人とも久しぶりですね。元気そうでなによりです」
「えへへっ! 賢者アニは村に帰ってくるの?」
「そうだよぉ。賢者にぃがいなくなって、村の皆も困ってるんだよ?」
良いぞ二人とも! エントラのことを考えれば、俺のところで燻ってるより良いはずだ。
まだ若いエントラの未来を、俺の都合で閉ざしちゃいけないんだよ。
いや、それが俺のエゴだって言ってしまえばそうなんだけどさ。
「ごめんなさい、僕は村に帰らないよ」
やはり、無理か。
「え……。駄目、なの?」
「どぉしてぇ?」
「僕はこの人と魔王と倒したいのです。それに、村の皆に教えられることは教えました。僕がこれ以上関わっても、村のためにならないからです」
子供達に、エントラの言いたいことは伝わっていない。
「ぅん?」「……?」
言葉の意味はわかっても、その奥にある真意とかは読み取れないさ。大体、大半がエントラのエゴなんだから。
「賢者様はね、もっと大勢を救うために旅をしているの。この聖水も、そのうちの一つよ」
俺が助け舟を出してやる。
ワクチンと抗生物質の入った袋を子供達に渡した。使い方はメモを入れてあるから、医者が読めば簡単に分かるはず。
無医村も多いので、その時は村人全員を『トキシック・トラップ』で処理するしかないな。
「また、顔ぐらいは見せに来ます」
エントラが子供達に一礼し、俺達も歩き去る。
ダンの待つダンジョンまではもう少しだ――。
「――って、今日はこのダンジョンの休日だったわぁ!」
水の“マテリアル”ダンジョンを出て四日。徒歩だったことが災いし、丁度休ダンジョン日と重なってしまったのである。
「ダンジョンって休むんッスね」
おいおいアサガオさんよ、君はそんなことも知らないのかね。
休ダンジョン日とは、読んで字の如くダンジョンが休みの日だ。
三日ごとに、四つのダンジョンがローテーションしながら休みに入る。
どうしてそんなことをするのかって?
「そりゃ、ダンジョンの財宝財貨は無制限とは言え、直ぐにポコポコ湧いてくるわけじゃないのよ?」
「なるほどッス。万能の財宝庫ってわけじゃないんッスね」
高性能だが万能じゃないな。探索者が倒れて置き去りにされたものは、一定時間でダンジョン内にランダム配置してくれるけど。
しかし、持ち出されたもの、使用・破壊・食べられたなら補充されなければならない。入荷数とかも自動計算してくれるらしい。
巡回魔族達も同様だ。
もう戻ってこないかなどの精査も、魔王の財宝庫が行っているのだろう。
下手をすれば、ダンジョンが空っぽになることだってあるらしい。
そうならないために設定されたのが、休ダンジョン日というわけだ。
なお、ダンジョンによりけりだが、単に扉を閉めてある。看板が設置されているだけとか、いろいろだ。
「ちなみに、大繁盛すると臨時休業に陥ることもあるわ。ダンジョンは用法・用量を守って使用してね」
「おねーさんとの約束ッスよ」
ハイタッチ。




