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案件12「ダンジョンと栄華と陰3」

 ユウガオが、器用に土下座のまま横に転がる。


「ヘル、避けてね!」


 残された“短刀Ⅲ”を足払いの要領で蹴り飛ばし、まずヘルに抱きつこうとしていた黒い肌着の美女を離す。


 ヘルは体を横に逸らせ、黒肌着さんも飛び退く。


「何を!?」


「もっと伏せるッス!」


 ヘルの文句を封殺するように、アサガオが“蒸気銃Ⅱ”を取って引き金を絞る。


 ラッパみたいに広がった口から丸玉が飛ぶ。鉛玉は逆隣のボブカット美女の持っていた“短剣Ⅱ”を弾き飛ばした。


 こいつ、バックパックを作動させたままにしてたのか……。危ないからやめなさい。


「暴発したらどうするのよ……」


「フフッ、計算の内ッス」


 絶対嘘だ!


 美女二人が牽制されたので、他の二人も隠していた武器を取り出して俺達を警戒する。


「まーた色仕掛けにやられるところだったわね、ヘル」


「……」


 流石に似たような負け方をすると笑えないぞ。


 ヘルをからかうのはこれぐらいにして、こちらのウップン晴らしと恩着せをこなすとしよう。


「さて、ユウガオ。そっちは終わったかしら?」


「この通りでござる。いかがいたそうか?」


 銃弾に気を取られている隙に、ユウガオが黒肌着さんの首元に切っ先を突きつけていた。


 変態だが腕は確か過ぎる。


 俺は、立てた親指を首の前で横にスライドさせた。やれ。


「クッ……!」


 黒肌着美女が首を掻っ切られて、スゥッと宙へ消えた。


 その間に俺は、アサガオからこっそりと鉛玉を手に預かり、“マテリアル”を起動する。


「『エンチャント・ポイズン』」


 付与する毒は、当然ながらフキヤドクガエルのそれ。


「さて、次はそっちのおねーさんにも覚悟して貰うッス」


 残玉は三つ。


 “蒸気銃”は先込め式であるため、基本的に連射できる代物ではない。


 相手はそれなりの実力者だ。


「少しぐらい手伝うわよ?」


「大丈夫ッス」


 俺の提案を軽く断わり、持っていた銃弾を一つ銃身に転がして押し込み棒(さく杖)で突っつく。


 次に、弾を一つ落としつつ蹴りあげる。さらに、さく杖と最後の球体を宙へと投げた。


「……っ!」


 一発目、ボブカット美女さんがサイドステップで回避に成功する。


 ナイフはないものの、弾が装填されていない銃相手なら、素手でも勝てると思ったのだろう。


 駆けこもうとするボブカット美女。


 ラッパ銃に落ちてきた丸玉が、さく杖がホールインワンする。棒を放り出す。


 緩慢な動作に見えてもアサガオの方が早い。


「!?」


 二発目がボブカットを一房削って行く。体勢を完全に崩され、ヘルのいるソファーへと座りこむ。


「これで終わりッス」


 最後に落ちてきた一発と、兆弾する先ほどの銃弾。二つが、銃口と同じラインに来る。


 銃声が鳴り響いた。


 嘘じゃなかったみたいだな……。


「それじゃあ、後は私が二人を相手にすれば良いのね」


 仲間二人があっさりとやられて、流石に警戒度マックスって感じだな。


 しばし、睨みあって牽制する。一人が駆ける。赤毛のロングヘアーが映える。


 突き出された“短剣Ⅱ”を寸でのところで回避する。直ぐに横へと振り抜かれるも、俺は既に懐へと入りこんでいる。


 赤毛美女さんの腕の勢いが、体重が軽くなった俺をなぎ倒す。


 さらにギリギリのところで跳び、フワリと一周側転して元の位置へ。


「良い太刀筋ね」


「……」


 褒めているのは本当だ。あまり嬉しそうにしてくれないが。


「私なりの意見だから納得できないかしら?」


 感性などというものは人それぞれだ。


 俺の蹴りが奇麗だという人もいれば、他の評価を下す人もいる。


「好評も悪評も、素直に受け入れるべきだと思うのよ」


 赤毛美女を横薙ぎの蹴りで壁に叩きつけた。


 その後ろから、陰に身を潜めながら切りかかってくる糸目の美女さん。


 これを卑怯と思う人、思わない人。当然、いることだろう。


「!」


 卑怯ではないと思っているからこそ、先が読めるということもある。


 一周して、後回し蹴りに切り替えた。更に半回転。


 せっかくの奇麗な顔面を蹴り潰しながら、赤毛美女さんと一緒に壁へと叩きつける。


「感性による評価を、押しつけるべきじゃないって話ね。って、聞いてないか」


 自分のお気に入りの店に入って、味の評価を聞いてくる奴が嫌いだった。


 称賛しないからって不機嫌になる奴はもっと嫌いだ。


 関係のない話だ、と思わないで欲しい。


 彼女ら四人がここにいるのもまた、その感性によるものだという話なのだから。


「さっきの彼女達、スノードロップの奴らでしょ? 貴方、何か恨みでも買うようなことしたの?」


 美女達は、氷原の国スノードロップの方々だと予想している。


 世代の上では、砂漠の国(アデニウム)との姉妹国といったところか。だからこそ、ダンジョン攻略に乗り出しているのだろう。


 女泣かせなヘルのことだ。どこかしらで気持ちを裏切ることもあったと思う。


「身に覚えのない話だな」


 後ろ手に組み、白々しいセリフを吐く。


 追及してもしかたないか。


 俺にも、勇者ちゃんにも関係のないことなのだから。ないはずだから。


「勇者こそ。いや、元勇者こそ国家の刺客と敵対して良いのか?」


 舌の根も乾かぬうちにと言いたいところだが、その点は問題ないと思っている。


 ダンジョンの中に国家や組織といった(しがらみ)は持ちこむべきじゃない。それが俺の流儀だ。


 しかし、やはりと言うべきか、俺の没落は少しずつ広まっているようだ。


「私ルールがあるから大丈夫よ。そんなことより、お願いの方は聞いてもらえるのかしら?」


「ダンジョン内では等しく個人というわけか。この交渉もまた、俺と元勇者の個人的取引ということで問題ないな?」


 視線を交え、俺は首肯を返す。


 その瞬間、氷の花が咲いた。


 『アイスバーン・フラウ』の“スクロール”を隠し持っていたのだ。


『なっ!?』


 爆音の後に遅れて、兄妹の声が混じる。


 皆、跳び退(すさ)って事無きを得た。しかし、接近してきたヘルが目の前にいた。


 壁際に追いやられ、ヘルの手足が完全に逃げ場を封じてくれる。


 顎を手で持ち上げられ、下手に抵抗することもできない。

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