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案件13「ダンジョンと栄華と陰4」

「……なんの真似?」


 訪いかけてみるものの、目的や意味などいうのは問題ではないんだ。


 こうして、壁際でマウントを取られるような油断をしたのが悪いのだから。


「なに、普通に交渉したのでは面白くあるまい。それに、何をしでかしてくるかもわからんからな」


「下手なことするなってわけ……ね。分かったわ。言葉を持つ者同士、対話による解決を図りましょう」


 交渉の席に大人しく就くことに同意する。


 平静を装ったところで、こちらの心臓が張り裂けそうなことはお見通しかもしれないが。


「“スクロール”は見せてやるが、持ち出しは禁止だ。それと、人質にそっちの銃使いの娘を借りよう」


「こ、ここで、研究を進めろってこと!?」


 言い分については理解できる。


 確かに、直接手を下したという意味ではアサガオの方が恨まれて当然だ。俺はただ、ヘルを油断させるためにちょいと色仕掛けをしただけ。


「……アサガオと、相談は?」


 氷の華に遮られた向こう側で、ユウガオとアサガオが今にも飛びかからんばかりに睨んでいる。


 たぶん、こちらの会話は聞こえていない。


「ダメだ」


 だろうと思った。後、そろそろマウントから解放してくれ。


 こちらの判断力を鈍らせて、取引を有利に進めようって腹なのだろうか。


「わかった、わ……」


 どんな意図があるにせよ、こっちは飲む以外の選択肢がない。


「研究が終わるまで、アサガオを人質に預けます。ただ、暴力とか、研究の妨害は勘弁してよね」


 それが精いっぱいの譲歩だった。


「良かろう」


 笑顔を浮かべてヘルが承諾してくれた。


 ヘルみたいな奴の笑顔ほど怖いものはないんだよな……。


「部屋などは用意させよう」


 パチリッと指を鳴らした瞬間に、『アイスバーン・フラウ』がかき消える。


「ほぅっ……」


 漸く、俺も解放される。足に力が入らず、うっかりへたり込んでしまった。


「勇者殿!?」「様!?」


 ユウガオとアサガオが駆け寄ってくる。


 安否の確認という名目で敢えて攻撃に転じないが、視線で人ぐらい殺せそうな感じだ。それだけヘルは、まともに戦って勝つのが至難の相手だということ。


「悪いわね、二人とも……。本当に、ごめんなさい」


 俺は、兄妹に先ほどの交渉について話した。


 ユウガオはかなり渋っていたものの、最終的にはアサガオの決断に従う形で折れてくれた。


 アサガオは、俺の勝手な決定を怒っていることだろう。


「では、これで決まりだな。なぁに、別に命を奪おうってわけではない。美女の一人も侍らせねばダンジョンマスターの貫禄もなかろう」


 そう言って、ヘルが気安くアサガオのボディタッチしながら連れて行ってしまう。


 俺は、心の中で謝りながら、その背中を見送る。


「どの衣装が良いだろうか。サイズが合う物があると良いんだが」


「何でも似合うと思うでござるよ。ちなみに、身長160センチ、サイズは上から82、61、84でござる」


 まさかの、恥辱をあじあわせる方法だ! 女の泣かせ方は心得ている。


 思ったよりもアサガオのスタイルが良いことに、ちょっと驚いたのは秘密な。


「なんでそんなことを知っているッスかねぇ?」


 もちろん、アサガオが変態(ユウガオ)を問い詰める。


「間者である俺が、アサガオ(いもうと)のサイズを知らないと思ったでござるか?」


「よーし、そこになおれッス!」


 弾がないので、銃身でユウガオがドツかれる。


 大していつもと変わらないかもしれない?


「精々、励め。元勇者」


「はぁ……。でも、急ぐに越したことはないわね」


 どこまでが素の性格で、気遣いなのかわかったものではない。


 先ほどのスノードロップご一行を見て、外を出歩くよりも安全だと判断したのだろう。行くあてがなかったのも、確かである。


「亡命者の気分ってこんな感じなのかしら?」


 独り呟いてみても、仕方のない話である。


 当然のことだが、王様に逆らった国民がただで済むわけがない。


 勇者としての功労ゆえ、温情で優遇措置を解除されるに留まっているだけだ。


 最悪なら極刑、良くても国を追放されるくらいの重罪だ。


 王様を含む、持つ者が上層民。その下に下層民という持たざる者が置かれる。


 奴隷制度のようなものがないため、辛うじて下層民にとどまっているに過ぎない。立場は最悪だ。


「考えても仕方ないわね! さっさと研究を終わらせて、こんなところおさらばしましょう!」


 落ち込んでいても何かが変わるわけではなく、俺は深呼吸一つで踵を返す。


 そこで、高性能早着替えを終えたアサガオが目に留まる。


 イメージカラーまんまの黒のシンプルなドレスに、腰の白エプロンで清楚感を出した衣装だった。ふっくら波のあるエプロンキャップもチャームポイントだろう。


 いつもより(うなじ)の方へと落した茶毛混じりのポニーテールも、快活さと大人っぽさを両立していて悪くない。


 二重の輪郭に鳶色の瞳は一見地味だが、逆にそれが整った顔立ちをくっきりさせている。


 鼻梁(びりょう)はくっきりと、しかし高すぎず。肌色に近いものの健康的な色艶をした唇もなかなかに魅力的だ。


 平均サイズの体躯でありながらメリハリがあるのも少し恨めしい。


 これで、脳味噌が腐ってなけりゃな……。

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