零度真央 #3〜弱い人間〜
「全く、俺は喧嘩を望まない主義なのだが」
停学指導明け初日の俺の前に現れたのは優をいじめ、その処分として転校することになった金葉未来の彼氏を名乗る、見るからに素行が悪い男子生徒とその取り巻き達だった。
「最初に言っておくが仕掛けてきたのは金葉未来だ。俺はそれに対して過剰な防衛をしたまでだ」
過剰という時点で間違いなく俺にも非があるのだが。
「そんなことは関係ない。俺は未来の恨みを晴らすためにこの一週間お前の停学が解けるのを心待ちにしていた。さぁ、喧嘩しようぜ」
「だから、俺は喧嘩を望まない主義だと言っているだろう」
俺の言葉に耳を貸す様子のない男子生徒は躊躇うことなく零度真央の身体に拳を振るってきた。
「何避けてんだ」
「そりゃあ避けるだろ」
本気を出せばこの程度の人間は動作もなく倒すことが出来るが、優の一件で割る目立ちした今の状態で再び停学指導レベルの事件を起こしたら今度こそ退学の処分を受けるだろう。そうなってしまったら零度真央に合わせる顔が無い。俺が零度真央と対面できるかは知らないのだが。
「いつまでも雑魚みたいに逃げてんじゃねぇ」
男子生徒の取り巻きに動きを封じられた俺は男子生徒の拳を真正面から受けた。
「ふっ」
「何が可笑しい?」
魔族の王『魔王』を名乗っているこの俺が『勇者』でもないただの人間になす術もなく殴られるこの状況に俺は可笑しくなった。
「満足か?」
「そんな訳ねぇだろ」
零度真央のみぞおちに一発とても重い拳が男子生徒のそれなりに重そうな体重と共にのしかかって来た。
「面白くねぇ。面白くねぇ。面白くねぇ」
男子生徒は握った拳を休むことなく零度真央の身体に叩きつけた。
人間の身体と言うのは貧弱だ、魔王の時とは明らかに違う。魔王の身体はいくら剣で斬られても平気だというのに人間の身体は数発の拳で意識が薄れそうになる。
「弱いな、人間」
俺の意識はあっけなく魔王に負けた勇者のように悔しさの海の中に落ちて行った。
目覚めると俺はベッドの上にいた。
「ようやくお目覚めね」
「ここは?」
見覚えはあるのだが、起きたばかりだからか上手く零度真央の記憶を呼び出して一致づけることが出来ない。
「見ての通り保健室よ。それよりも頭とか大丈夫?」
養護教諭とはいえ随分と失礼な発言だった。
「階段下で倒れていたって言うから階段から落ちたんじゃないの?」
「階段下?」
確か俺は校舎裏で一方的に殴られていたはずなのだが奴らがわざわざ倒れた俺を階段下まで運んだというのだろうか?
「そう、生徒会長の天風楓くんとあなたのお姉さんが倒れていたあなたをここまで運んでくれたのよ」
「そうでしたか」
天風楓、俺は全く面識がないのだが零度真央の記憶では俺より二つ上の三年生でほとんどの生徒から好かれている生徒会長らしい。
零度真央としては何度か姿を見かけているようで天風楓に関する顔や体格などの記憶が浮かんだ。その姿は優等生という言葉が人になったかのような姿で見るからに素行が悪いとわかるあの男子生徒とは真逆だった。
「特に大きな外傷も見られないし、もうすぐお姉さんが迎えに来るみたいだから家では安静にしておくようにね」
その後、養護教諭は「少し職員会議に出てくるから席をはずすけどお姉さん来たら勝手に帰って構わないから」と言って保健室を出て行った。
「あれだけの攻撃を喰らって外傷が無いとは、零度真央の身体は中々頑丈みたいだな」
不自然な事に零度真央の身体には痣の一つも存在しなかった。
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
今回は珍しくお久しぶりではない投稿です。
今回のお話で零度真央については一区切りとなります。
次回からは今回の話で名前だけが出てきた新キャラが参戦します。
と言ってもその前に『共鳴』の#2が入ると思います。
更新が遅かったり誤字が多かったりしますがこれからも応援よろしくお願いします。
それではまた次回お会いしましょう。
東堂燈




