零度優 #4〜劣等生が優等生〜
授業と授業の間の休み時間にわたしは一階の自動販売機にしか売られていない『タピオカスッポンサイダー』を買うために階段を降りていた。
すると、階段下にある用具室の方から何かが落ちるドスンという大きな物音がした。
「真央!?」
用具室の前にはわたしの宿敵にして弟である零度真央がボロボロの状態で倒れていた。
「真央、しっかりして」
真央は魔王と言う魔界では十分偉大な肩書を持っているはずなのにみっともなく意識を失っていた。
「凄い物音でしたが、どうかしましたか?」
物音に気付いてやって来たのはわたしの知らない本物の零度優としての記憶で生徒会長の天風楓と記録されている人物でした。
「あの、これは」
「君は確か、零度優さん。こっちで倒れているのは弟の零度真央くんのようですが、もしよろしければ何があったのかお話しいただけますか?」
このような事案には慣れているのか、わたしの顔を見て驚いていたことを除いて、楓生徒会長は魔物が現れた時の剣士のように冷静な対応をした。
「わたしも物音がしたから来ただけでどうして真央が倒れているのかわからなくて」
「そうでしたか、あの物音から考えて真央くんはこの階段から転落したと考えるのが妥当でしょうね」
「そう、ですか?」
至る所に傷があるのは少し気になるけれど、一度だけしか聞こえなかった物音から考えると楓生徒会長が言っていることが正しいのだろう。
「とりあえず、意識を失って怪我までしている真央くんをこのままにしておくのは良くない。優さん、真央くんを保健室に運ぶために少しばかり僕に手を貸してはもらえないだろうか?」
「分かりました」
敵とはいえ一応自分の家族の事なので断ることは出来ず、わたしは楓生徒会長に手を貸し、真央を保健室まで運んだ。
「それでは、よろしくお願いします」
真央を保健室の先生に預けて保健室を出ると楓生徒会長はわたしの名前を呼んだ。
「次の授業は生徒会長権限で特別欠席にしておくから僕と少しお話しでもしてくれないかな?」
「どういうことですか?」
何を言っているのかさっぱり理解できない退屈な授業が休めるならそれ以上嬉しいことはないのだが、楓生徒会長が初対面であるはずのわたしに話したいことがあるというのは少し気になった。
「君には金葉未来さんの件で話したいと思っていたんだ」
『金葉未来』わたしを、零度優を過剰なまでにいじめて一週間前に転校させられた同級生の名前だった。
「ダメかな?」
少し嫌な気分に放ったけれど授業を休めるなら。という、真央が聞いたら「どうしようもないほどの馬鹿」と悪口を言われてしまいそうな理由でわたしは楓生徒会長について行った。
「凝ったおもてなしは出来ないけれどどうぞ」
楓生徒会長に案内された生徒会室はとても同じ校舎の中にあるとは思えないほど綺麗で豪華なお部屋だった。
「飲み物は紅茶で良いかな? あっ、これは他の生徒には内緒にしておいてくれ。生徒会が学業に不要なものを持ち込んでいると知られてしまうと学校の顔として尊厳が保てなくなってしまうのでね」
楓生徒会長の言っていることの半分が初めて聞く難しい言葉で理解できなかったけれど、他の人には生徒会室で紅茶を飲むことを言わないでほしいと言っていることは分かった。
「金葉未来さんについてだけれど、彼女は僕の推薦で生徒会副会長の座に就いてもらっていた。僕もまさか彼女が優さんに対していじめを働いているとは思いもしていなくてね。彼女の処分が退学ではなく連携校への転校になったのも生徒会に所属していたから優遇されたのだろうと僕は考えている」
「そうかもしれませんね」
わたしは零度優の記憶のままに行動しただけなので他人事のようにしか内容を理解することが出来なかった。
「優さん、今回の事件に気付くことが出来なかった僕は君に同情する権利は無いかもしれないけれど、せめてもの償いとして君に、これからのこの学校に二度といじめが起きないようにしたいと思っている。その為に僕を支える手伝いをしてくれないだろうか?」
「えっと、それって具体的には?」
「金葉未来さんが抜けて空席となった副会長の椅子に就いてもらいたい」
入れる。劣等生と言われたわたしが、優等生の最強の姿とも言える生徒会に。
断る理由なんて無かった。それ以前に、生徒会に入れるなら断るなんて選択肢はコマンドにすら現れてはいなかった。
「良いんですか?」
「勿論、歓迎するよ」
わたしは義姉妹の杯を交わしたあの世界のあの日の夜のように楓生徒会長と紅茶の入ったティーカップを交わした。
「真央?」
放課後、わたしは生徒会の証である腕章を着けて保健室で寝ている真央を迎えにやって来た。
「優、迷惑をかけた。って、何だ? その腕章」
「驚いた? わたし、今日から生徒会に入ったから」
腕を組んでいつも上から見てくる真央を見下すと、真央は頭を抱えていた。
「あれ、どうしたの? まだどこか痛い?」
「問題無いとは言われたが、まさか優が優等生に見えるなんて致命的な視覚障害があったとは」
「もう、すぐにわたしをバカにして。下校時間だから早く帰るよ『劣等生』」
真央が魔王のような形相で睨んでいたような気もするけど気にしないでわたしは真央の先を歩いた。
おはようございます。こんにちは。こんばんわ。
最近は結構早い頻度で更新出来ているのですが、またしばらく更新が遅くなるかもしれません。
今回の話に出てくるタピオカスッポンサイダーはお分かりかと思いますがフィクションの産物です。あったとしても私は炭酸が苦手なので飲めないのですが。
物語の中にこれからも今回のようなフィクションの飲食物が登場するかもしれませんのでどのような味なのか想像して読んでみてください。
それではまた次回の更新でお会いしましょう。
東堂燈




