零度真央 #4〜平和と言うのは〜
劣等生の代表格として校内で一定の認識がある優が生徒会と言う組織に入ってから一日が経過した。その事実は優の学級だけではなく俺のクラスそして、学年に多く知れ渡ることになり、弟である俺は優の代わりに質問攻めになることになってしまった。
「『優等生』の弟も大変ね」
五時間目と六時間目の間の休憩時間に俺は屋上へ逃げ込んだ。何故か知らないが俺について来たクラスメイトで俺ではない零度真央としては数少ない友人の一人であるらしい吉良冷利は相も変わらず冷ややかで俺の世界で言うと俺の昔なじみのサキュバスを彷彿させる妖艶さを感じさせる口調でそう言った。
「冷利、冗談を言うのはよしてくれ」
魔王時代から考えても例のない質問攻めにくたびれて流すように返した言葉だったが、発言の直後、魔王としての俺ではない零度真央としての感覚が俺の間違いを知らせた。
「冷利か、名前で呼んでくれる人って中学校に入ってからは一人もいなかったから新鮮」
基本的には優くらいしか人名を呼ぶことはないからうっかりしていた。
「ところで吉良、さっきの冗談はなんだ?」
「冷利でいいのに」
吉良はぼそりとそう呟いた。零度真央としては名字で呼ぶのが礼儀なのだろうが、魔王としての俺は名前を呼ぶ方が堅苦しさを感じさせず、気が楽なので冷利の言葉に甘えそう呼ばせてもらう事にしよう。
「さっきの言葉だけれど、冗談のつもりはないわよ。事実、貴方のお姉さんは天風生徒会長が直々に選んだ生徒会役員なのだから優等生と呼ばれるに値するのではないかしら?」
反論できないほどに正論を言う冷利はこう続けた。
「それにしても、金葉先輩の件で劣等生に成り下がってしまった貴方と対を成すように優等生にのし上がるなんて皮肉ね」
その言葉の裏に隠されているものが同情であるのか、言葉通り皮肉であるのか判断を付ける気は全くと言って良いほどないのだが、冷利の表情は俺が元居た世界の上級氷魔法『フローズンシャンデリア』のように冷え切っていた。
「憶えておかなくても良いけれど、私は貴方が『優等生』でも『劣等生』でも貴方の信じる道を信じるから」
「冷利、面白い事を言うな。劣等生に側に付くという事はお前も劣等生になるという事だぞ」
自分の傷に自分で塩を塗り込むような自虐であったが、不思議と嫌な気分ではなかった。
「そう言えば、迷惑メールで面白い動画が送られてきたのだけれど見たい?」
休憩時間はそろそろ終わりそうだが冷利は俺の返答を聞く前に携帯をいじり始めていたので授業に遅刻することを覚悟で冷利に付き合う事にした。
「これ」
冷利は当たり前のように迷惑メールフォルダから冷利と同じく零度真央としての数少ない友人である山東博の名前を選択し、そのメールに添付されていた数分間の動画を再生した。
動画が再生されると画面にはこの学校の校舎が映し出されていてカメラは俺たちがいる屋上に向けられていた。言うまでもなく現在の映像ではないから俺たちの姿は無い。しかし、代わりに性別不明の人物が立っており、その人物は光の加減によるものなのか純白に輝いていた。
動画の再生時間が一分を過ぎるとその人物からは俺や優からしてみれば当たり前の存在だった魔力が存在しないこの世界としては不思議な事に鳥のような羽が生え、白い光を散らして消えてしまった。
「終わりか」
「どうだった?」
「と、聞かれても。俺が実際に見たわけではないから何とも言えないな」
俺の世界の常識から言わせて貰えばこのような事は日常茶飯事だ。それこそ「あれは鳥人族だろう」とか「昼行性のヴァンパイア属に似ている」と言ってしまえばそれまでだが、この世界でその常識は通用しない。勿論、零度真央の記憶からこの動画を虚偽の産物だと証明するなら、「映画の撮影じゃないか?」とか「編集されたものだろう」と言うことも出来るが、魔王としての俺の勘がそうではないと言っている気がした。
「随分と悩んでいるみたいだけど、もし良かったら貴方の携帯にも送りましょうか?」
「ありがたい。と言いたい所なのだが、今は携帯電話を家に置いて来ている」
確か、机の上に置き去りになっていたはずだ。
「それなら、メールで送るから心配する必要はないわ」
手早い手つきで動画を俺の置き去りになっている携帯電話へ送り届けた冷利はやり遂げたかのような表情を見せた。
「さて、時間も時間だから戻るとしましょうか。余計なお世話かもしれないけれど、放課後は質問攻めにあう前に早く帰る事をお勧めするわ」
屋上を出る前に冷利からそのようなありがたい忠告を受けた俺だったが、放課後になると気配を消す余裕さえ与えられぬまま一時間の質問攻めにあう羽目になってしまった。こんな事を言ってもどうしようもないことくらいは理解しているが、魔王としての魔力や力が残っているのなら俺に群がった人間は消し炭になっていた事だろう。
やっとの思いで帰宅した俺は両手に抱えたエコバックと呼ばれているらしい環境に優しい袋をキッチンとも台所とも呼ばれる小さなスペースに置き、冷利からのメールが届いているはずである携帯電話を取りに自室へ向かった。
「これは一度、優にも確認してもらう必要がありそうだな」
もう一度、一人で動画を見直した俺はその動画に映る人影に冷利の前では言えない力を微かに感じ取った。
「いつの時代も平和と言うのは短いものだな」
授業で習う日本史やら世界史の年表を見ても、俺の元居た時代を振り返ってみても、現在でも言えることだが、平和と言うものは無限の時間で考えれば、ほんの一瞬で終わってしまう夢みたいなものだ。
前回の更新から時間が経ってしまい申し訳ありません。
言い訳したい所ですが、言い訳の内容が驚くほど無いので何事もなかったかのように本編についてを。
今回の話は真央視点での話です。優だったり真央だったり共鳴だったりと分かりにくいと思います。申し訳ありません。
次回ですが、次回も真央視点になるかと思います。
更新が遅いため読んで頂いている読者の皆様には大変腹立たしい思いをさせていると思いますが今後ともよろしくお願いします。
東堂燈




