49話〜やるぞ、てめぇら!〜
学園ダンジョンが変異して、更にスタンピードまで起こしている。
その知らせを聞いた我々は、伯爵達より一足先に学園へと向かった。
だが、そこで目にしたのは…。
「くそっ!こっち来るな!」
「誰か!誰か衛兵を呼んでちょうだい!」
泣き叫ぶ、貴族街の住人達。
それと、
【ギャギャギャ!】
【グゥギャギャ!】
それを追い回す、複数のゴブリン達だった。
ぐっ、マジでスタンピードじゃないか。王宮のお膝元で、こんな大惨事が…。
「クロード!」
ああ、そうだなシアさん。驚いている場合じゃない。
「総員!魔物の駆除を進めながら、学園へ向かう!一般市民に攻撃を当てるなよ?」
「うん!」「了解した!」
シアさんは背中から弓を取り出し、カーシェさんは精霊魔法の詠唱を開始する。
俺も、黒ローブに亜空間を開く。そこから、数本の槍を発射した。
「ランス・チャージ!」
【ギャッ!】
【ゴッ!】
槍はノーマルゴブリン数匹とホブゴブリンを纏めて貫き、地面に突き刺さる。串刺しだった魔物の体は、やがて霧となって消えてしまった。
ふむ。やはり、ダンジョン産の魔物だったか。
「おおっ!君は、昨日の冒険者ではないか!」
地面に転がっていた貴族が、俺を見て目を輝かせた。
おっと、やっべ。貴族が挙って探してたんだっけ。
俺はローブを被り直し、足早に学園への道を駆ける。後ろから「待つのだ!」って声が聞こえたけど…待てる訳ないだろう。
今の俺は、1人でも多くを救わねばならないんだからな。
「クロード殿。ここは私達に任されよ」
「うん!任せて!」
そうかい?助かるよ。
道中に溢れる魔物は2人に任せ、俺は彼女達が開いた道を進む。
カーシェさんは元隊長さんなだけある。近付くゴブリンを、瞬時に切り裂いてくれる。
それに負けず、シアさんも凄い。走りながらでも弓を当てるし、魔法の精度も上がっている。赤い炎の中に、何か白っぽい色が混じっているけど…これは何?
「これ?んーとね、分かんないけど、土魔法を混ぜるとなんかよく燃えるんだ」
「土魔法?」
それって…。
「テルミット反応じゃないか?」
「てるてる坊主?」
惜しいね。
テルミット反応ってのは、酸化鉄とアルミを燃やして起こる反応だ。要するに、溶接である。
まさか、魔法を混ぜる事でそんな事ができるとは。魔法って、面白いな。俺も、使えたら…。
彼女達の活躍もあったので、俺は難なく学園に到着した。
でも、そこには街以上に厳しい状況が広がっていた。
「ダメだ!突破される!」
「早く!1年生を校舎の中に!」
「先生!先生達は何処に行ったの!?」
広い校庭の中で、生徒達が魔法を放ちながら悲鳴を上げていた。
その魔法が着弾した所には、数え切れない程のゴブリン軍団がひしめいていた。
ぐっ…なんて数。後ろの方のゴブリンなんて、サイクロプス並にデカイぞ。
ゴブリンチャンピオン?それとも、スプリガンって奴か?
「なんにせよ…掃討するぞ!全力でぶちかませ!」
「おっけー!」「心得た!」
シアさんは溶接火炎玉を放ち、カーシェさんは聖獣様を召喚した。
俺も、炭ボールを生徒達の前に放つ。黒煙に入り込んだ個体を、次々と飲み込んでいった。
よしよし。良いぞ。確実に数を減らしていっている。
「すげぇ!何だ、この魔法…」
「昨日の魔法だ!勇者を倒した冒険者だぞ!」
「黒の冒険者が、私達を助けに来てくれたわ!」
生徒達が我々に気付き、黄色い声を上げる。助かったと、こちらへ駆け出してしまった。
不味い!
「動くな!まだ後続部隊が残ってる!」
俺は叫ぶも、生徒達は止まらない。芝生を横切り、俺たちの方へと駆け寄って来てしまう。
それに、ゴブリン達が反応した。こちらに向きかけていた視線が戻り、飛び跳ねる生徒達を睨みつける。その黄色い目が、狩人のそれに早変わりした。
くっ!
「シア!カーシェ!生徒達を守れ!」
「う、うん!」「ああ!」
2人はすぐに反応してくれるが…数が多過ぎる!
高速で動く赤いゴブリンが、先頭の生徒に踊りかかった。
「亜空間!」
間に合え!
そう願った俺の槍より先に、
【ギギィ!ギッ…!】
ゴブリンの喉元に、1本の矢が突き刺さった。
シアさん?いや、違う。
これは…。
「クロードォオ!」
背後から、声。
振り返ると、巨大な斧を持ったバイキング達が、こちらへ駆け寄ってきている所だった。
彼らは…。
「やるぞ、てめぇら!マギノビオンの力、見せてやれ!!」
「「「おぉおおお!!」」」
マギノビオン…王都までの旅路を共にした、ラルスさんのチームだった。
「おらぁあ!」
「あらよっと!」
「雑魚共がぁ!」
彼らは荒々しく斧を振り回し、生徒に向かっていたゴブリンを尽く返り討ちにした。
おぉ!流石はBランク。
俺も、負けていられない。
「ショットガン・アロー!」
「どりゃああ!」
マギノビオンの活躍もあり、広場に溢れていたゴブリン軍団は何とか片付ける事が出来た。
被害は…うん。怪我人は居るみたいだが、死人は居ないみたいだ。
俺は怪我人に回復薬を渡し終えると、ラルスさんを見上げる。
「助かりました。良く、こんなに早く駆け付けてくれましたね?」
「別に、魔物を狩りに来た訳じゃねぇ。お前が来ているって噂を聞いてたからよ。確認がてら、この近くに寄っただけだ」
「噂?」
聞いてみると、こういう事だった。
昨日の夕方。突然、ギルドに勇者レオが乗り込んで来たらしい。Eランク冒険者で、闇のアイテムボックスみたいなスキルや魔法を持っている奴は居ないかと、受付や酒場の店員に聞き回っていたそうだ。
「誰も知らないって言ってたがな、俺達はピンと来た。その特徴は、クロードの事で間違いねぇなってな。んで、勇者が負けたって言う学園を一目見ようと、貴族街まで足を運んで、ゴブリン共を倒してたらここに着いたって訳よ」
なるほど。そう言う事だったか。
レオの奴、冒険者ギルドにまで迷惑をかけるとは…。
俺が肩を落としていると、生徒にヒールをかけ終わったカーシェさんが近付いて来た。
「その勇者はどうしたのだ?」
「おっ、おう。他の冒険者が、バザル鉱山へ向かう勇者を見たって言うのを聞いて、目の色を変えて飛んでいっちまったぞ」
いやいやいや。それ、前川達だから。勇者違いだから。
しかし、前川達は次のダンジョンへ向かったのか。まさか、スタンピードを防ぐ為?いや、あいつらの事だ。きっと、嘘を真実にしようと躍起なのだろう。
「(小声)おい、クロード」
うん?
「何ですか?ラルスさん」
ワザワザ耳打ちしてくるなんて。
何事かと聞き返すと、彼はムッと顔を顰める。
「(小声)何ですかじゃねぇ。誰だ?このエラい別嬪の姉ちゃんは。よく見りゃ、エルフじゃねえか」
「ああ。彼女はカーシェさんです。大森林のダンジョンで共闘し、その後も同行してもらっています」
俺が彼女を紹介すると突然、ラルスさんにヘッドロックをかけられた。
なに?なに?なに?
「てっめぇ!しれっとすげぇ事言いやがって!羨ましいぞ、こんにゃろう!」
「いえ、違いますって、ラルスさん!そう言う関係じゃなくて…」
「うるせぇ!シアちゃんも居るのに、てめぇって奴は!」
だから、シアさんも違うんだって。
俺が大男とワチャワチャしていると、向こうの方からシアさんが走ってきて「クロードォ!」と手を振った。
「こっちにも怪我人が居るの!早く来てぇ!」
えっ!?
「ラルスさん!その話は後で」
俺は急いでシアさんの後を追う。すると、彼女は簡易ダンジョンがあった方へと駆けていく。
そして、ダンジョンの入口が見えた所で、近くの芝生の上に座り込む先生達の姿が見えた。その中で、血を垂れ流しにして芝生で仰向けになっているのは…黒っぽい服を来た男性。
タレイラン先生だ。
「教諭!」
「……」
ダメだ。肩から腹にかけて深い傷が開いており、声をかけても反応が薄い。
俺は急いで高級回復薬を取り出し、彼の傷に振りかける。すると、見る見る傷が塞がっていった。真っ白だった顔色も、幾分か良くなっていく気がする。
…元々が顔色の悪い人だから、勘違いかも知れないが。
「ぐっ……誰、だ……」
おっ。目を覚ましたか。
「クロードです。タレイラン教諭。何があったんですか?」
「クロード……ああ、あの……ぐっ」
先生は俺に助けられたと分かると、無理やり上半身を起こした。俺が背中を支えても、嫌な顔をするだけで払い除けようとはしない。
払い除ける力も残っていないみたいだ。
彼が、苦々しく顛末を話す。
「吾輩にも分からん。今朝になって急に、ダンジョン内部の魔力が溢れた。吾輩と、ウルンオッホ先生で確認に行ったが、3階層の下に、まだ、階層が繋がっていた。はぁ、はぁ。侵食が、物凄い早さで進んでいる」
先生はそう言って、ダンジョンを弱々しく指さす。
丁度その時、ダンジョンから魔力が漏れ出して、そこで滞留する。すると、その魔力が凝縮して魔石となり、その魔石を中心にゴブリンシャーマンが生成された。
うわっ。こうやってダンジョン産の魔物が産まれるのか。
俺が驚く間に、産まれたてのゴブリンに矢が突き刺さる。
シアさんだ。
ナイス。
「はぁ、はぁ……吾輩は直ぐ、地上に引き返した。だがその時には既に、周囲は魔物で溢れていた。ダンジョン内部で魔物が溢れた訳ではない。このダンジョン自体が、はぁ、はぁ…魔力を吐き出している。まるで、人間の世界を侵食しようとしているみたいにな」
「それは…そんな事、他のダンジョンでありますか?」
「ない!…くっ…はぁ、はぁ。吾輩は、聞いた事もない」
ぐっ、そうか。ではこれも、ダンジョンの異常…バグかもしれないな。
俺がダンジョンを睨みつけていると、タレイラン先生が俺のローブを掴んだ。脂汗を垂らしながら、俺に向けて頭を垂れる。
「済まない、冒険者クロード。君に、このダンジョンを攻略して欲しい。今まで吾輩が仕出かした行為は、全面的に謝罪する。学園を、王都を救う為に、どうか…どうかこのダンジョンを…殺してくれ…」
「先生」
殺す。
彼からしたら、今まで世話してきたこのダンジョンは我が子同然の物だ。だから、消すじゃなく殺してと言っているのだろう。
断腸の思い、なんだろうな。
「分かりました、タレイラン教諭。我々が必ず、このダンジョンを攻略しましょう」
「お前らだけじゃないぜ」
俺がそう言うと、後ろから声がかかる。
ラルスさんだ。
「俺たちも行くぜ、クロード。王都は俺らのシマだからな。Bランクチームのマギノビオン。冒険者クロードと合同クエストを申し込む」
「ラルスさん…でも、ここの警備はどうします?」
今もまた、新たな魔物が産まれようとしていた。でも他の先生方は、みんな青い顔で座り込んだまま。
最初のスタンピードで、魔力を使い果たしてしまった様子。これではもう、戦えないだろう。
なら…。
「部隊を2つに分けますか?」
「その必要は、ないのであーる!」
うおっ、この声は!
声の方を期待して振り返ると、そこにはガシャガシャと音を立てて走る白銀鎧達の姿があった。
その先頭で馬に乗るのは、完全武装のマリノス伯爵だった。
「この場所は我々、聖騎士団王都本部が受け持つのよ。1匹たりとも、外に出さないのであーる!」
「お任せ下さい、英雄様。我々が、完璧な防御陣を張ります。総員!構え!」
隊長さんが声をかけると、騎士達は一斉に抜刀し、それを地面に突き刺した。
そして、魔法を唱える。途端に、地面が隆起して壁となる。ダンジョンを覆い隠す、立派な防壁が出来上がった。
それに伯爵が「仕上げなのね」と言って手をかざすと、土壁が頑丈な鉄の防壁に早変わりした。
おお。これならもう、スタンピードは起きないな。
「ありがとうございます、マリノス伯爵」
「これくらい、朝飯前であーる。ダンジョンを頼んだのよ、クロード君」
「はい!」
俺は大きく頷き、シアさん達と、チームマギノビオンのみんなとダンジョンの入口へと入っていった。




