48話〜たっ、大変ですわ!〜
勇者を倒したと思ったら、今度は様子のおかしいマルガレーテさんが話しかけてきた。
何時もと変わらない美少女具合なのだが、彼女が纏っているオーラがだいぶ違う。何だか、神々しく感じを受ける。
そして、俺の事を「眷属様」と呼ぶ。
懐かしい感覚だな。これって、あれじゃない?
「もしや貴女は、大天使様ですか?」
「はい。私は、大天使アルメリア。この世界の管理者です」
ほらやっぱり。しかも、女神教のシンボル来ちゃったよ。
「やはり、そうでしたか…」
大丈夫なのか?マルガレーテさんの身体とか、この世界とか。彼女程の存在が顕現しちゃったら、女神教の信者なんて尊死するんじゃ…?
そう思って周りを見ると…みんな石像みたいに止まってる。人も、木々も、雲も。
まさか…時を止めてるの?
「眷属様。時間がありませんので手短にお話し致します。是非ともこの世界を、お救い下さい」
「えっ?ええ、まぁ、そのつもりで動いていますけど…?」
だから、大森林もクリアしたでしょ?見てないの?
俺は不安になった。こんな天使様が管理者で、この世界は大丈夫なのかと。元の世界の大天使様の方が、もっとしっかりしていた気がする。
…あの方はあの方で、色々とやたらしてくれたけどな。
「ああ、そうでしたか。良かったです。ではすぐに、イリーナと合流して下さい。あの子であれば、私の声を無理なく届けられますので」
「えぇ〜…」
俺はつい、不満の声を漏らしてしまう。するとアルテシア様も「えっ?」って顔をする。
いや、だってさ。俺は散々、イリーナにやられてきた訳よ。挙句に、殺されかけたんだからね?
それをオブラートに包んで話すと、アルテシア様は「そんなっ」とショックを受けた様子だった。
「だって、そんな…あの子は私の声を聞ける程に、信仰心が厚く良い子だったのに…」
「人は変わるものですよ、アルテシア様」
仮に、最初の頃のイリーナが純粋無垢な少女だったとしても、権力や立場で人は変わる。
今の彼女は、一国の王すら隣に並べる程の権威を持っているんだ。そうなりゃ、純粋さを保つ方が難しいだろう。イリーナレベルになれば、野望の1つや2つ持っていてもおかしくないぞ。
「兎に角です。世界を救う任は、引き続きお受けします。ですがもう1つのご依頼は、なるべくお受けしたくありません。もしもご依頼がありましたら、私の夢にでも出てきて、ご依頼申し上げて頂きたく存じます」
「分かりました…では!女神の加護だけでも、貴方に授けさせて…」
「要らんわ!」
もう既に、亜空間なんてチートを解禁してもらってんだ。これ以上の力は、マジで世界を滅ぼしかねない。
俺を魔王にでもするつもりか。
「そう、ですか。残念です…」
本当に残念そうに肩を落とし、アルテシア様は目を瞑る。次に彼女が目を開けた時、そこには何時ものマルガレーテさんが立っていた。
「あれ?私、は…?」
「大丈夫ですか?マルガ…」
「「「わぁあああ!!」」」
俺の声は、周囲の歓声に掻き消された。いつの間にか、時間も動き出したみたいだ。
帰ってくれたか、アルテシア様。
取り敢えず、俺は亜空間の中に逃げ込む。
あのままあそこに居たら、何をされるか分からない。マルガレーテさんも、俺との関わりを疑われてしまう。
案の定、会場は消えた俺の話題で持ち切りだった。「何処に行った?」「探せ」と、観客が挙って俺を求めている声が聞こえた。
素顔を見せなくて良かった。
「クロード!」
「シアさん!」
学校の裏門で待っていると、シアさんが手を振って走って来た。
良かった。彼女達には耳元で集合場所を囁いただけだったらか、伝わっていなかったらどうしようかと思っていたところだ。
「大丈夫!?クロード。めっちゃ、吹っ飛ばされてたじゃん」
「ああ…あれね。情けない所を見せちゃったね」
俺が頭の後ろを掻くと、シアさんは頬を膨らませて怒った。
「違うよ!そうじゃなくて…怪我してないの?ちゃんと、回復薬は飲んだ?」
「ああ、そういうこと」
優しいな、君は。
「大丈夫だよ。これくらい、回復薬を飲むまでもない」
「クロード殿。少し良いだろうか?」
俺が背中を見せると、カーシェさんがそそそっと寄って来る。そして、回復魔法を掛けてくれた。
おおぉ…温かい。これがヒールか。何気に、この世界で初めてヒールを掛けて貰った気がするぞ?
「ありがとう、カーシェさん。心まで暖かくなったよ」
「そ、そうか!良かった。また、何時でもかけてやるからな。だから、何時でも怪我すると良いぞ」
いや、そんな鼻息荒く言われると、なんか誤解されそうで怖いな。
君が生真面目なだけなのは、俺なら分かるけどさ。
「それにしても、凄い試合だったね。あの勇者の人、空飛んでたよ」
シアさんが目を輝かせると、カーシェさんが大きく頷く。
「ああ。重力魔法と言っていたが、それは失われた古代魔法だ。勇者であるが故の力なのかもしれんな」
おお、そうなのか。
もしかして、古代には亜空間魔法もあったの?
「でもさ、勇者って感じの人じゃなかったよね。ヒールで目が覚めた後も、すんごい喚いてたし」
えっ、そうなの?
「そうだな。クロード殿を探している様子だった。鉢合わせると面倒な事になるぞ」
ああ、そうだろうね。
何処かに身を隠したいけど…。
そうだな。
「また、ネルトーク家に行ってみるか」
マルガレーテさんの様子も気になるし。
「良いね!行こうよ!」
シアさん達もノリ気になり、我々はネルトーク家の屋敷へと向かう。今回もアポなしとなってしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、行ってみるとすんなり中へ通して貰えた。
もう、顔パスみたいになってるぞ?お邪魔し過ぎたな…。
「皆さん!良くぞご無事で!」
客間で暫く待たせて貰っていると、着替えたマルガレーテさんが部屋に飛び込んできた。
勇者レオが俺を狙っていると言う事で、心配してくれていたらしい。
いやいや。
「我々の事より、マルガレーテさんの体調は如何ですか?何か、変わった事はありませんか?」
「えっ?私…ですか?いえ、特にはありませんわ…?」
ポカンとするマルガレーテさん。
シアさん達も「なんでそんな事聞くの?」って不思議そうだ。
ああ、そうか。大天使様は時間を止めていたから、みんな知らないのか。
「ええっと…実はですね…」
俺は女神が降臨した事を簡単に話した。すると、マルガレーテさんは飛び上がらんばかりに喜んだ。
「ああ!私の体に、女神様がご降臨されたなんて。なんて素晴らしい事でしょう!」
彼女はパタパタと駆け出し、部屋を飛び出してしまう。次に戻って来た時には、お母様まで連れていた。
彼女は興奮気味に、手鏡を掲げる。
「皆さん!本当にありましたわ!私の首筋に、女神様の聖痕が!」
「聖痕?」
マルガレーテさんに促されるまま、彼女の首後ろを見ると…小さく十字の傷が出来ていた。
うぉっ!?本当だ。本当に大天使の降臨で、マルガレーテさんの体が傷付いてしまった。
なんて奴だ。淑女を傷モノにするとは…。
俺は憤るも、ネルトーク家の皆さんは大喜びだ。お母様は「お祝いよ」と執事にパーティーを開く準備をさせ、ご兄妹はマルガレーテさんを羨ましがる。
そして、夜に帰ってきたマリノス伯爵は両手を上げて「ブラーヴァ!」と叫んだ。
「素晴らしい事であーる。まさか、我が家から聖者が出るなんて」
「聖者…ですか?」
「そうなのであーる」
それは、聖痕が刻まれた人の事らしい。これがあると、女神様から目を掛けて貰えていると言う証明になり、女神教の信徒であれば何よりの誇りになるんだとか。
そう、なのか?俺はどうも、通信役に抜擢された厄介な印に見えるけど?
まさかまた、彼女を通して降臨したりしないよな?
「しかし、やはりクロード君は特別な人物だったみたいね。ワザワザ女神様がご降臨されるとは」
「そんなんじゃないですよ」
俺が手を振って否定すると、伯爵は「ノンノン」と首を振る。
「君は勇者であーる。少なくとも、王国貴族はそう思っているのよ。今日の試合で、勇者レオを見事に打ち倒したその有志は、そう思わせるだけの輝きがあったのね。今や君は時の人。あの場に居なかった貴族達も、必死に君を探し出しているのだよ。ロドリック陛下も、宮殿へ招くようにと仰ってるらしいのよ」
「ええっ!?王様も?」
シアさんは驚き、隣のカーシェさんは「当然だ」と何度も頷いている。
ぐっ…。不味い。折角、イリーナ達が逸らしてくれた群衆の目が、俺の方に向き始めている。
ああ、そう言えば。
「イリーナ…様は、どうされたのです?本物の勇者様一行も」
「王都から出ていったと噂になっていたであーる。あれだけの失態を犯したのであるからして、当然のことなのね」
「失態」
まぁ、確かに。Dランク冒険者と酷評された以上、王都の道を表立って歩けないわな。
だからって、足の早いこって。
「試合に負けただけでなく、ダンジョンクリアの嘘もバレたみたいなのであーる。大森林の議長から、攻略したのは2人組の冒険者であると手紙が来たらしいのよ。それで、慌てて出ていったのであーる」
「ああ、それは逃げますね」
嘘がバレたとか、イリーナ達はどうするつもりだろうか?
国外逃亡?
「何はともあれ、クロード君達は暫く、外に出ない方が良いのであーる。今外に出たら、君が嫌いな権力争いに巻き込まれてしまうこと間違いなしよ。暫く、ここに滞在するがよろしい」
「助かります!毎度毎度、本当に済みません!」
俺が謝ると、シアさん達もぺこりとしてくれる。
そして伯爵は、「とんでもないことなのね」と俺の肩を叩く。
「私こそ、君には感謝しっぱなしなのよ。これで、少しでも君の役に立てるのであれば、私も嬉しいのであーる」
「ありがとうございます、マリノス様。皆さん」
本当に良い人達だ。この人達の為なら、惜しまず亜空間を使おう。
そう、俺は心に固く誓った。
そして、それが試される事件が起こった。
次の日。
俺は伯爵と共に、屋敷の武器を選定していた。
勇者戦でかなり消耗してしまったからね。大森林の魔物素材と交換で、また見繕って貰う算段を立てていたのだ。
そんな折、
「たっ、大変ですわ!お父様!クロードさん!」
学園へ登校した筈のマルガレーテさんが、慌てて帰宅された。
時刻は昼にもなっていない。授業を抜け出して来た?
「授業なんて、そんな事言っている場合ではございませんの。ダンジョンが、学園のダンジョンが…!」
学園のダンジョン?
タレイラン先生が管理している、3階層の簡易ダンジョンでしょ?それが、どうしたの?
「その簡易ダンジョンから、大量の魔物が溢れ出しているんですわ!!」
えっ?
…ええっ!?
簡易ダンジョンが、スタンピードォ!?




