46話〜なんだ、君か〜
「「おぉお…」」
武術大会も終盤に入り、白熱したバトルが展開されるようになった。今、目の前で行われているのは、最終学年同士の決勝戦。一進一退の高度な魔法戦に、周囲からも感嘆の吐息が漏れる。
俺も、自然と手に汗握っていた。
やはり、最終学年にもなると魔法の使い方が面白い。ファイアボール一つにしても、ブラフや目くらましに使えるとは。
「そこまで!」
『試合終了です!勝ったのは、6年Aクラスのオーギュスト・ブロア君です!』
「「おぉお」」
拍手喝采。勝った青年も嬉しそうに、何度も観客席にお辞儀を繰り返す。そして、ロドリック陛下に向って恭しく一礼した。
これで、1年生から6年生までの競技が終わった。ここからは、学園が呼んだ特別ゲストによるエキシビジョンマッチが始まろうとしていた。
そこで呼ばれたのが、来賓席に座っていた勇者達だ。
『さぁ。今フィールドに、レオ選手が降り立ちました!』
粛々と大会を進めていた男性教諭から司会が変わり、やんちゃそうな男子学生が拡声魔道具を握りしめる。
『これまで3つのダンジョンを制覇し、その圧倒的な戦闘スタイルは、他の勇者とは一線を画すと言われています!その堂々たる風貌からは、流石はトップ勇者と言っても過言ではないでしょう!』
「レオさま~!」
「かってぇ~!」
『おおっと、これは、勇者レオのファンクラブから黄色い声援が投げかけられる!なんと羨ましい光景でしょう。ですが、それだけの功績を重ねているから仕方がない!果たして、彼に敵う選手なんて、この世界に存在するのか!』
フィールドに出たレオは、観客に向けてにこやかに手を振る。その仕草に、ファンクラブだけでなくご令嬢達からも熱烈な声が上がっている。
奴の本性を知ったら、どうなるんだろうな。案外、あの取り巻き共みたいに気にしないのかな?そこまでして、勇者とは夢中になってしまう存在なのだろうか?
『さぁさぁ!勇者レオに続いて降りて来たのは、我らが王国の勇者、マエカワ達だぁ!』
「「わぁああ!!」」
その声で反対側を見ると、観客席に設置された階段を降りる前川の姿があった。奴の後ろからは、倉橋や一軍の奴らがゾロゾロと一緒になって降りてくる。
前川達は、5人全員で戦おうとしているみたい。
ルール違反じゃなの?
そんな俺の懸念を払拭するように、フィールドへ降りた前川達に向けて無数の拍手が巻き起こり、奴らがただ歩くだけで数多くの歓声が掛けられた。
レオとは違い、男性客からの声もかなり多い。みんなが「期待していますぞ!」とか「王国の誇りを胸に!」と彼らに持ち合わせないものばかりを投げかけられていた。
過大な期待。なのに前川は、相変わらず調子に乗っていた。
「任せろよ!」と手を振り、その細い腕で力こぶを作ろうとしていた。
なんだろうな。あの姿を見ていると、とんでもない秘密兵器を隠し持っているんじゃないかって、俺まで思ってしまう。イリーナが何かしたんじゃないかって。
でも、それもないみたいだ。
彼の後ろに付き従う一軍の奴らは、見る見る顔を青くして居たから。観客には目も振らず、フィールドの中央で待つレオばかりを見つめていた。
そして…5人で何か、揉めてるみたいだな。何を話しているのか。
気になった俺は、亜空間を開いて彼らの音を拾ってみた。すると…。
「どうすんだよ!?前川。本当に俺ら、攻略者と戦う羽目になっちまったじゃねぇか!」
「勝てる訳ねぇよ!俺ら、本当は大森林攻略してねぇんだぞ?」
「ブルーオーガにボコられたんだぞ?ダンジョン全クリ野郎を相手に無茶だって!」
「ねぇ、前川君。ホントの事を、みんなに言った方が良くないかな?」
一軍達は必死に訴えるが、前川は取り合わない。周りに愛想を振りまいたあと、仲間を振り返る。
「なに言ってんだよ、お前ら。俺らだって勇者じゃん?大森林のダンジョンは相性が悪かっただけで、他のダンジョンだったらあいつと同じ活躍が出来るんじゃね?」
だからさぁっと、前川が前を向く。
「こっちは5人もいんだ。独りぼっち野郎が、チーム組んでる俺らに勝てる訳ねぇじゃんよ」
「いや、でもよぉ…」
一軍男子が何か言おうとするが、前川は聞かない。1人でスタスタと、フィールドの中央に進み出てしまった。
そして、レオと向かい合う。
「よぉ、ボッチ君。俺たちはパーティー組んでっから5人で戦うけど、別に良いよな?仲間作らないのは、お前のせいなんだしさ」
「構わないよ。5人でも10人でも、好きなだけ連れてくると良いさ。君ら全員、僕に服従させて…ああ、でもなぁ~」
レオは前川から視線を逸らし、後ろの一軍を…前川の彼女を冷めた目で見る。
「なんか女の子のレベルも低いし、やっぱ君ら要らないや」
「はぁ?調子こいてんじゃねぇぞ!この陰キャ野郎!」
『さぁ、勇者達が何かを語らい合っております。きっと、互いの健闘を祈っているのでしょう。なんと格好良い!』
実際は、言葉で煽りあっているんだけどな。
小学生か。
『そしてここで!主審が入ります。両陣営がスタート位置に着きまして…始まりました!』
「「「おぉおお!」」」
さぁ、どうなるか。
俺も期待して、観客達と同じように前のめりとなる。
でも、
「死ね!陰キャぼっち野郎!」
『おっとぉ!先手必勝とばかりに、最初に動いたのは、勇者マエカワ!下級のファイアボールを…あっ、えっ?』
何時ものファイアボールを撃とうとした前川。だが、撃てなかった。撃つ直前、急に地面へ崩れ落ちた。
何が?
驚き目を開く俺の先で、他の一軍共も同じように這い蹲る。
そうして、ただフィールドの上で土下座する前川の頭を、レオが踏みつけた。目を丸くして、大きく首を横に振った。
「よっわ!有り得ないくらい弱いじゃないか、君ら。ダンジョンを攻略したなんて嘘だろ?」
「ぐっ…そぉ…」
煽られても、ぐうの音しか出ない前川。
それに、観客席からも動揺の声が漏れる。踏破を嘘だと言われて「嘘なんて酷いわ」とか「でも、こんなにあっさり負けるなんて…」と前川達に対する信頼が大きく揺らぐ。
そんな彼らに、レオは「やれやれ」と首を振る。そして、観客席を見上げる。
「勇者同士の戦いだって言うから楽しみにして来たのに、こんな偽物をあてがわれるなんて思わなかったよ。王国の皆さんは、こんな奴らを信じていたんですかね?」
「取り消しなさい!勇者レオ」
観客席でイリーナが立ち上がる。怒りのオーラ全開で、レオを睨み付ける。
「勇者マエカワは本物です!本物の、女神アルテシア様に選ばれた勇者です!彼らはその力で、大森林のダンジョンを見事クリアし…」
「あははっ!冗談は止してくれよ、イリーナちゃん。こんな雑魚が、ダンジョンクリアだって?」
レオは笑い、倒れていた前川を持ち上げる。物凄い力で前川を放り投げ、会場の壁にぶち当てた。
激突した前川は「がぁっ!」と短い断末魔を吐いて、床に大の字で伸びた。
それから、立てない。ただ苦しそうに丸まって、嗚咽を吐いていた。
その様子を見て、レオが呆れたように笑う。
「この程度の実力じゃ、5階層のボスすら突破出来ないよ。彼らの実力は、精々Dランク冒険者ってところかな?」
「そんな、事は…」
イリーナも黙り込み、地面に倒れる勇者たちをただ見下ろす。
その様子を見て、観客席の間で動揺が広がる。ガヤガヤと、みんなが胡乱気な目で前川達とイリーナを見始めた。
それを受けて、イリーナは足早に会場を後にする。前川達も、何処からか現れた聖騎士達に担がれて、フィールドを後にした。
残された勇者は肩を竦め、再び観客席を見上げた。
「なんか興醒めだね。こうなったら、誰でも良いから僕に挑戦してみなよ。あっ、さっきの学生さん達でも良いよ。きっと偽物の勇者共よりは楽しめると思うし」
レオはそう言って、最前列に並んでいた優勝者達を見る。マルガレーテさんの顔を見て「おっ、良いな」みたいな顔をした。
その生徒達を隠すように、タレイラン教授が前に出る。観客席から飛び降りて、レオに向かって軽く会釈する。
「勇者レオ殿。貴殿の相手に、丁度良い者がおります。貴方の記録を打ち破り、学園ダンジョンを最速でクリアした者達でございます」
「あっ。そういや、手紙でそんな事言ってたね。その話、本当なの?また眉唾物の偽冒険者じゃないだろうね?」
レオが呆れながらそう言うと、教授はクルリとこちらを振り返り、ほくそ笑んだ。
「クロード!Eランク冒険者のクロード!ここに降りて来い!」
教授め。これが狙いだったのか。
「ど、どうするの?クロード」
シアさんが心配そうに見てくる。
それに、俺は手を上げる。
「ちょっと、行ってくるよ」
「流石はクロード殿だ」
いや、カーシェさん。流石って、何に対してよ?
周囲の観客が「クロ?」「誰だ?」「Eランク?」と首を傾げる中、俺は粛々とフィールドに降りる。
降りても、みんなは「あれがか?」と怪訝そうな目を向けてくる。国王陛下も逃げていったイリーナが気になるのか、部下と何か話しながら席を立った。
おお、いいぞ。主要人物はどんどん消えてくれ。
「なんだ、君か」
そんな観客とは反対に、勇者レオは真っ直ぐに俺を見てくる。言葉とは裏腹に、目は俺を探るように動く。
「俺より早く踏破って、何か裏技でも使ったんじゃないか?さっすがアジア人。そういうセコいことはピカイチだね」
「まぁ、ある意味裏技みたいなものかもな」
俺の存在自体が、バグみたいなものだ。そう言う意味じゃ、こいつの言うことも一部当たっている。
こいつ自身も、その1人だろうがね。
俺が冷静に答えると、レオは詰まらなさそうに「あっそ」と俺から視線を外す。そして、観客席に視線を向ける。
「まぁ良いよ。この試合で、君の化けの皮も剥がしてあげるから。そしたら、あの2人は貰うから。どうせチェリーボーイの君の事だ。まだ新品なんだろ?」
ニヤニヤ笑いながら、シアさん達を見据えるレオ。
本当に、このクズ男は。
俺は大きなため息を吐く。
「勇者レオ。語らうのは拳でにしよう。それが、君にとって1番良いだろう」
世界の中心にでも居ると思っているこのクズ男には、それが1番効果的。
そう言う思いで言うと、レオは「ははっ!」と笑った。
「良いね。さっきの偽勇者より、数倍マシみたいだ。でも…」
奴の顔から笑みが消えた途端、威圧感が一気に増す。
「きっと、一方的な対話になるよ」
「ぐっ…」
苦しむ俺を前に、レオが一気に間合いを詰めてくる。その腰に下げた剣も抜かず、俺に殴りかかってきた。
でも、その拳は当たらない。俺が直前で、そいつを避けた。
「なっ!」
避けた拳に沿うよう、俺も拳を繰り出す。奴の驚く顔に、渾身の一撃を叩き込んだ。
「ぶっ!」
「「「おぉお…!?」」」
殴られた勇者は、床を転がる。何が起きたか分からないと言う顔で、俺を見上げた。
俺は血のついた拳を上げ、笑みを浮かべる。
「どうした?勇者様。そんな事では、俺の一方的な独り語りで終わってしまうぞ?」




