44話~だからですよ~
順調な帰路を歩いて、王都に到着した我々一向。でもそこでは、ダンジョン攻略を祝う祭が開催されていて、しかもそれが前川達の手柄となっていた。
どうなっているんだ?
俺は周囲の住人達に聞いて見るも、まともな回答は得られなかった。みんな、街道の魔物が減ったことに歓喜して、浮かれていた。
それに、フランツさんも不満げに首を振る。
「ったく。埒が明かねぇな。取り敢えず、荷物を運ぶぞ」
俺達は祭の中を掻き分けて、何とかベルマン商会の本店裏まで辿り着いた。それだけで、みんなヘトヘトだ。カーシェさんなんて、あまりに人が多くて目を回してしまった。
それに、誰も我々に目を止めなかった。誰も彼もが、前川とイリーナに祝杯を挙げていた。
本当に、何が何だか。
そう思ったのは、俺だけではない。店の奥から商会のまとめ役であるグンターさんが出てくると、フランツさんは「どうなってやがる」と開口一番に噛みついた。
グンターさんが肩を竦める。
「どうもこうも、王宮から発表があっただけだ。大森林のダンジョンを、イリーナ様とその勇者様達が攻略したとな」
「だから俺は、そのデマがなんで流れてるかって話をしてんだよ。誰が広めやがった」
胡乱気な目をするフランツさん。その後ろで、シアさんも腕を組んでウンウン頷いている。
有難いんだけどね、お2人さん。グンターさんを攻めるのは違うよ?ほら、彼の顔も曇ってしまったじゃないか。
「デマとはどういうことだ?フランツ。これは、イリーナ様が言われていた事だぞ?大森林から来た使者も、ダンジョンが攻略されたと言っていたそうだ」
「使者だと?」
フランツさんが聞くと、グンターさんは「人伝で聞いた話だがな」と言って、教えてくれた。
なんでも、数日前に大森林から使者が来たとのこと。使者は王宮で「黒髪の勇者様が大森林のダンジョンを攻略した」という趣旨の報告をしたそうで、陛下は大変お喜びになったとか。
そして、
「程なくして、イリーナ様達がご帰還なされた。陛下は直ぐに彼女達を呼び出し、事の次第をお聞きになった。そしてその場で、イリーナ様が仰ったそうだ。その黒髪の勇者と言うのは、彼女達が召喚した異世界の勇者で間違いないと」
それを国王は信じたそうだ。元々、彼らが大森林の攻略に行くことは王宮にも伝えていたし、その為のパーティーも開いていたそうだから。
だから、陛下は特に疑うことなく信じたとの事。
それを聞いて、フランツさんは「はっ!」と鼻で笑った。
「なんで信じんだよ、それを。ちょっと前まで、その勇者が苦戦してるって噂が立ってたろうが。ダンジョンコアどころか、10階のボスにも辿り着けないって話だったろ。そんな奴らが、魔王を倒せる訳ねぇ事くらい、脳みそが付いてりゃすぐ分かんだろうが!」
「落ち着け、フランツ。確かに、普通の冒険者ならそうだ。だが、異世界の勇者は俺達の常識が通じない。特殊な力に目覚めたり、天啓を得たりすることもある。そう言う力でクリアしたと、みんなが思っているんだ」
そう言うチート能力が目覚めるかもしれないから、イリーナは俺を殺したのかもしれないな。追放して目覚められたら厄介だと思って。
そして奴の誤算は、俺が既に目覚めていたことだろうな。
「兎に角だ。そんな出鱈目を広げてやがる奴らは許しちゃおけねぇ。俺達で塗り替えてやろうぜ」
フランツさんが怖い顔で笑う。
穏やかじゃないな。
「何をするつもりなんですか?フランツさん」
「安心しろ、クロード。王宮相手に、やべぇ橋は渡らねぇよ。ただ、ちょっと酒場で噂を流すだけだ。本当にダンジョンを攻略したのは、教会の勇者なんかじゃねぇってな」
「いいね!それ。あたしもやるー!」
シアさんがビシッと手を上げて、ピョンピョン跳ねる。
それを、グンターさんが重い溜息で押し留める。
「十分にヤバイ橋だぞ、フランツ。それを流したのがベルマンだと分かれば、我々は教会から目の敵にされる」
「はっ!誰が尻尾を掴まれるヘマするかよ」
「そう言う問題じゃない!」
おお。お2人さん。そんなにヒートアップしないで。
俺は睨み合う男達の間に入って、フランツさんを見上げる。
「お気持ちは嬉しいですけれどね、フランツさん。本当に気持ちだけで結構です。俺はこの件を、寧ろ有難く思っているので」
「何をやせ我慢していやがる、お前。悔しくない訳ないだろ。国中から認められる大手柄だぞ?」
「だからですよ」
そんな大手柄を手にしたら、厄介毎に巻き込まれるのは目に見えている。
ねぇ?グンターさん。
「グンターさん。そのイリーナと…イリーナ様と勇者様達は今、どうされているのでしょう?」
「祭りの初日は、街の広場をパレードされていた。だがその後は、王宮に籠られている。恐らく、毎夜パーティーでも開いているのだろう。王都の外からも、貴族やお偉いさんが王宮に出入りしているからな」
パーティー、ね。
そのパーティー、ただお祝いするだけじゃないよね?ダンジョンクリアした前川達を取り込もうと、腹黒い貴族達が群がっているんじゃないのかな?
俺はその様子を思い浮かべて、力なく頭を振る。
「そんな物は無用です。俺に必要なのは、信頼できる仲間と強力な武器だけですので」
「ははっ!やっぱ本物はちげぇな、クロード。えぇ?本物ってのはなぁ、止まらねぇんだ。お前が望むのなら、俺はどんな武器だって取り寄せてやるぞ」
フランツさんは頼もしい笑みを浮かべ、その後に「ただし、相応の金は貰うかなぁ」と嫌らしい笑みを浮かべ直した。
いやぁ、流石は商人。貴方みたいな人の方が、よっぽど信用できますよ。
現状を理解した我々は、フランツさん達に武器の調達をお願いして別れた。
大森林のダンジョンで、魔物の素材を大量入手したからね。その売値の一部と護衛報酬を使った形だ。
報酬が随分と多かったけど、それだけ貴重な物を運ばされたのだろうか?見た目はただの小さな小箱だったけど?
「次は何処に行くの?」
祭りに巻き込まれないよう裏路地を歩いていると、シアさんが聞いて来た。
おっと、言っていなかったか。
「ネルトーク家だよ。伯爵にはダンジョン攻略の支援をしてもらったからね。報告をしないと」
物資や馬車、それに護衛まで付けてくれたからね。陛下や他の貴族達は勘違いさせたままで良いけど、伯爵には真実を伝えておかないと後々が怖い。
大森林のお土産も渡したいし。
と言う事で、我々はネルトーク家のお屋敷まで出向いた。
門番に「伯爵にご報告がある」と言うと、慌てて入場の手配をしてくれて中に通してくれた。
俺とシアさんの事を覚えてくれていたみたいだ。アポなしなのに直ぐ入れてくれるとは、流石はネルトーク家の家人だ。
「クロードさん!シアさん!」
屋敷に入って応接室で暫く待っていると、マルガレーテさんが飛び込んで来た。俺とシアさんを見て目を輝かせ、カーシェさんを見て慌てて姿勢を正した。
「初めまして。クロードさん達のお仲間でしょうか?」
「ああ。私は、大森林のカカルダン翁の孫、カーシェだ。宜しく頼む」
ガチガチに緊張しながら挨拶をするカーシェさん。なんなら、屋敷に入った時から緊張しっぱなしだ。
エルフの里にはない豪邸だものな、ここ。
「まぁ!エルフの里からいらしたと言う事は…やはり、ダンジョンをクリアしたのはクロードさん達なのですね?」
「分かるの?さっすがマルガレーテちゃん!」
シアさんがピョンピョン跳ねて喜ぶ中、マルガレーテさんは目を丸くして驚く。そして、「やはり、そうでしたか…」と言葉を失っていた。
いや、大丈夫だからね?寧ろ俺は、この状況をラッキーって思っているんだから。
そう言うニュアンスで、俺は彼女に説明をした。
彼女だけではない。その後にいらっしゃったお母様や、ご家族の皆様。そして、夕刻に帰られたマリノス伯にも同じ説明をする羽目になった。
説明をしても、皆さんお冠であった。
「酷い話なのであーる!苦労して成した功績を、何も成さないコソ泥がかすめ取るなど、ボロックよりも罪深い奴らなのね!」
「あなた。今すぐ国王様に直訴いたしましょう」
「勿論。善は急げなのであーる!」
マリノス伯はフランツさん以上にお怒りになられて、魔法で拳が鉄球みたいに硬化していた。
何の魔法だよ?
「伯爵様。俺は本当になんとも思っていませんので」
「だがクロード君。奴らは君の功績を傘に、王宮で好き放題しておるのであーるぞ?有力貴族達から金品や宝石などを送られ、婚姻の話も持ち出されていたのであーる。一番の功労者と言われていたマエカワなど、王妃様自らが第三王女との仲を取り持たれていたのよ」
「おぉ!そいつは助かった」
つい俺が本音を漏らすと、ネルトーク家の皆様は怪訝な顔をされる。
逆に、カーシェさんは「全くだ」と強く頷いてくれた。
「そんな者にクロード殿が言い寄られなくて良か…あっ、いや、私は、別に…」
素直な性格が災いしていますね、カーシェさん。今頃、議長がヒヤヒヤしていますよ。
「しかし、クロード君。やはり私は、納得がいかないのよ。君の実力は、間違いなく歴代の勇者クラスであーる。攻略スピードだけで言えば、勇者レオすら超えられる逸材だと思うのよ私は」
「そうですわ!勇者レオ様です!」
伯爵の嘆きを、マルガレーテさんがダイビングキャッチする。キラキラのお目目を、我々に向けて来る。
「武術大会で、クロード様達のお力をお披露目するのです!今大会に、そのレオ様もいらっしゃるとの噂がありますの」
「ファンタスティコ!名案なのであーる。そこで実力を見せれば、陛下も他の貴族達も目を覚ますこと間違いなしなのよ」
えっ?陛下ですか?
ポンポン話を進めてしまう2人の間に、俺は何とか口を突っ込む。すると、伯爵は大きな笑みで頷いた。
「毎年、学園の武術大会には王族や貴族がいらっしゃるのであーる。特に今年は、第4王子のリチャード様が入学されている。故に、陛下がいらっしゃるのは高確率なのね」
「入学式の際にもお見えになりましたので、確実だと思いますわ」
「クロード殿。チャンスであーるよ」
鼻息荒い2人に、俺は「承知いたしました」と大きく頷く。
いやぁ。事前に情報を得ていてよかった。これで俺は、何も知らずに武術大会に出なくて済む。
絶対に、目立たないように終わらせてやるぞ。




